-44-:ワシの名はノブナガ!チーム戦国[センゴク]のリーダーである!
さほど時は過ぎてはいないが、朝が来てしまった。
この体中の疲れは昨夜眠れなかった事が原因だと、しぶしぶ納得してヒューゴはベッドを後にした。
それでも毎朝と同じように、同じ時間に起きて朝食を済ませて、斜向かいの“鈴木・くれは”を迎えに行こうと玄関を出たところ。
「これまた随分と早い登校なのだな、高砂・飛遊午」
真横から男性に声を掛けられた。
声の方へと向くと。
「なっ!?」思わず言葉を詰まらせた。
頭に“ちょんまげ”を結った若い男性が余所様の家の塀に背を預けて立っていた。
髷を結っていると言っても、頭の天辺まで剃り上げた月代にはしておらず、結った髪を後頭部から高々と掲げているに過ぎない。しかもどじょう髭まで生やして。今どきの戦国武将のビジュアルでも意識しているのか?と思わせる。
初見で頭に目が向いてしまったので今頃になって気付いたが、彼が肩から羽織っているのは紛れもなく黒玉工業高校(通称ジェット)の制服ではないか。
辺りをキョロキョロと見渡して。
「場所を変えよう」
ヒューゴの提案に「よかろう」とその男性は応じて彼に従った。
正直、こんな奇抜な格好をした人物をクレハに会わせる訳にはいかない。彼女はきっと指差して笑い出すに違いない。それは双方にとって良いことでは無い。
それにワルで有名な高校の生徒と付き合いが有ると、ご近所様に誤解されたくもない。
「で、何の用だ?」
近くの公園までやってくると、ヒューゴが訊ねた。
「その前に自己紹介をさせてもらう。ワシの名はノブナガ!チーム戦国のリーダーである!」
言われてみれば、ゲームに出てくる織田・信長は肖像画と違い頭を剃っていない。彼はゲームの信長のビジュアルを意識しているのか?
いきなりのラスボスのお出ましに驚くよりも、どうしても見た目に意識が向いてしまう。
しかも、コイツが敵のリーダーって…敵側への同情もあり何かと複雑。
「で、彼女はナバリィ。私が預かっているチェスの駒だ」
紹介された瞬間、驚く間もなく何も無い空間から、何やらたくさんの装飾品の付いた黒いローブを纏った女性がいきなり現れた。ファンタジー系に出てくるエルフのように耳が尖っている。
「お初にお目に係る、ベルタのマスターよ。我がナバリィじゃ。故あって真名は明かせぬがご了承願いたい」
真名とはモンスター名を意味している。そして彼らは駒の職業も告げず。
「は、はぁ。女性でもチェス・マンなんですね・・」
「では、単刀直入に用件を伝えよう。直ちにココミ・コロネ・ドラコットとは縁を切られよ」
マイペースこの上ないノブナガは、色んな意味で動揺を隠せないヒューゴなどお構いナシ。
「それなら実行済みだよ。昨夜彼女の元へベルタを返してきた」
「で、あるか」腕を組みながらうんうんと頷いて。
「そ、それは真か!」
リアルでノリツッコミをする人物がいようとは。
この驚き様、彼らはマスター抹殺に赴いた暗殺者ではないと判断する。
「では、話は済んだ。帰るぞ、ナバリィ」
「え?もう用件は済んだのか?」背を向ける二人を呼び止めた。
「左様。もう、うぬには用は無い」
先程から気になっていたのだが、どういうキャラ設定をして、このような話し口調をしているのだろうか?普通の高校生なら同年齢の相手に対して“うぬ”とは言わないし、一人称が“ワシ”もやはり変だ。
「お前、もしも俺が断ったら、俺を抹殺していたのか?」
「フン!たわけた事をヌカすでないわ!ワシは人を殺めたりはせぬ。それはこの日本国の法律が認めぬ事」
これほどまでに人外の者たちが関わっている状況で法律を順守すると言い切った。見た目と違って彼は常識人のようだ。しかし、一般の日本人なら自国を“日本国”とは言わないよ。
「もしも貴様が断っていたのならば、この戦いの本質を伝え、さらなる説得を試みたまで」
「戦いの本質?」
「戦いの本質とは、ライクとココミの王位を求める理由。すなわち!戦う理由である」
戦線離脱をした身でありながら、今頃になってココミに、王位を求める理由は何か?と訊ね忘れていた事を思い出した。
「面倒でなければ、お聞かせ願えませんか?」
「よかろう。貴様はこの世界が亜世界という別世界との平行世界である事は知っておろう」
それはすでにココミから聞いている。ヒューゴは頷いた。




