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-42-:この街は元々災害でできた街なんですよ

「ところでベルタさん。どうして女の子の姿をされているのですか?貴方は男性だったはずじゃ・・」


 するとベルタは胸に手を当て。


「ああ、この姿の事ですね。あれから時間が経過しているというのに、魔力が十分回復できておらず、未だ充填モードのままなのです。こんな時に敵に襲われたらと思うと不安でなりません」


「いやいや気にしないで下さいよ。俺が不甲斐無いせいで魔力が補充できない訳で」

 正直言えば、このまま少女の姿でいて欲しい。中年男性の姿だと扱いに困ってしまう。


「マスターこそ気になさらずに。私は元々絶対数の少ない種で環境によって性別を変化させているのです。この姿が気に入らない訳ではありません」

 両生類や魚類にもそういった途中で雌雄を変化させる種類があるのを思い出した。


「それにしても、手違いが生じたとはいえ、何でココミのヤツはこの事を俺に言わなかったんだ?問い(ただ)してやろう」

 言ってヒューゴはベッドの下からスニーカーと防災バッグを取り出した。


「マスター、何をするつもりですか?」


「今からココミの所へ行きます。アイツに文句もありますが、貴女には彼女の護衛を務めてもらいます。どうもルーティだけだと心許無いですからね」

 クローゼットから衣類を取り出しながら問いに答えた。


「了解しました。ですが、スマホだけは肌身離さず持っていて下さい。いつでも瞬時に駆け付けますから」


「心得ていますよ。あーッ!肝心な事を忘れていた。ベルタさん、彼女たちの居場所を御存知ですか?」


「ええ。電話番号も私のスマホに入っています。先に連絡をしておきますか?」


「お願いします。あ、あと後ろ向いていてもらえますか?今から着替えますので」

 言われた通りに後ろを向いてベルタは電話を掛けた。が。


「マスター。“ただいま電話に出ることが出来ません”とメッセージが流れています。伝言を入れておきますか?」


「アイツ、電源切ってやがるのか・・。いや、いいです。直接向かいます」

 着替えを終えたヒューゴは防災バッグから歯磨きガムを取り出すなり口に入れて、縄梯子を取り出した。


「随分と用意が良いのですね」

 クチャクチャとガムを噛みながら手際よく作業をしているヒューゴに感服する。


「この街は元々災害でできた街なんですよ。だから。ベルタさんも噛みます?」


「いえ、私は結構です」差し出されたものの、胸の前で小さく手をかざして断った。


「じゃあ、行きましょうか。家族を起こすとマズいので、窓から縄梯子で降ります。ベルタさん、道案内お願いします」

 スニーカーを履きながらの頼みごと。

 ベルタは「ええ」と快く返事するなりヒューゴを抱え上げ“お姫様だっこ”して。


 行儀悪くもベルタは足で窓を開けて、そのまま窓から飛び立った。

 十数メートル跳んだ辺りでトッと音も立てずに静かに着地。


「こんな凄い身体能力持っているんですか・・」

 驚きも然る事ながら、これは確かに護衛役が必要だと認識した。あまりにも唐突すぎたのでびっくりして思わずガムを飲み込んでしまった。


「で、ココミたちの居場所はどこなんです?」

 下されながら訊ねた。


「天馬教会は御存知ですか?彼女たちはそこでお世話になっています」

 とても複雑な気分だった。

 天馬教会といえば、ヒューゴたちが通う天馬学府高等部へと行く途中に見える丘の上の教会であった。

(あと数時間したら、もう一度この道を通るのかよ・・)

 歩いて天馬教会へと向かう事にした。



「ベルタさん、護衛の時はその姿で戦われるのですか?」

 向かう途中に並んで歩く中、ヒューゴが訊ねた。


「はい。この姿だと盤上戦騎(ディザスター)の時と同じく、他人の記憶には残らないので私たちの戦いで生じた被害は“自然災害”扱いになります。一種のカムフラージュですね」

 人を抱えて数十メートル跳躍できるような身体能力の持ち主たちが戦うのだ。それは尋常な被害では済まないだろう。この事にも配慮せねば。


「でも、ベルタさんも二刀流とは、何だか親近感が湧きますよ」


「親近感だなんて・・私は、とても光栄に思うと同時に感謝しています。マスター」

 ベルタは立ち止まり、胸に手を当てて感謝を述べ始めた。「感謝?」


「私は本来、2本の剣を振ることなどできませんでしたが、貴方をマスターに得た事で、貴方の能力をコピーできたのです。これほどまでに心強い力を得られた事に心から感謝いたします」


 マスターの役割とは、単に魔力の元となる霊力の供給だけではなく、磨き上げてきた技を彼らに伝授する事も含まれている訳だ。

 魔力の供給に後れを生じさせてしまい不甲斐無さを申し訳なく感じていたヒューゴは少し救われた気持ちになった。


 だけど、顔を赤らめられても、どう対処したものか・・。どうも、彼女の中身がオッサンである事が頭から離れない。


「あ、そうそう。この姿で普段の生活を送るのかと尋ねられますと、答えは『いいえ』です」

 思い出したかのように告げるなり、ベルタの足元に魔法陣が現れて上昇してゆくとパーカーにショートパンツの年頃の女の子らしい姿へと変身した。


「これなら誰にも怪しまれません」

 くるりと一回転して披露して見せてくれた。

 とても可愛いと思う・・のだが、やっぱり頭は冷静なまま。素直に喜べない。



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