-40-:あれほどまでにスモールマンだとは
ベルタがソネの両脚を抱えてジャイアントスイングの体勢に入った。
だけどブン回しもしなければ、投げもしない。
ガンッ!「うぐぅッ!」
凄まじい衝撃と、ソネの声にならない呻き声と共にベルタの足がソネの股間にぶつけられた。
ベルタの2連のL字型踵美ビンと爪先との3本ツメが展開!ソネの股間を鷲掴みにする。
「止めてくれ!ヒューゴ!もう勝負はついてる。後生や!」
堪らずルーティも懇願。
激しい揺れの中ミツナリは、床に落ちたカードを思うように拾えない。
「あぅあぁぁ。あががぁぁ」
もしもソネに眼球があれば、失神寸前の白目を剥いている状態に陥っていることだろう。
両の腕で脚を引っ張り、股間を鷲掴みにしている足で蹴りだす。と、ソネの両脚は同時に股関節から引き千切られた。後は。
「ご、ごめんなさ・・い」
誰に謝るでもないソネの×印の口元に、渾身の右ストレートを叩き込む。そして、そのまま彼女の頭部を突き破って爆散させた。
多少の誤差があったのか、両肘からの腕と股関節からの両脚、そして頭部を失った時点でソネの被ダメージ値は60%を上回った。
ブチキレてパワーアップした訳でも無い、ただ力学を応用してのソネ撃破。
ボロボロになったソネの体が落下しながら光の粒子となって消えてゆく。
― 飢屍のソネ撃破 ―。
オトギとの約束から5分も経たぬうちに勝負は着いた。
戦いを終えて、ベルタの体も光の粒子となって消えてゆく…。
高砂・飛遊午が帰ってくる!クレハは心をときめかせた。
戻ってきたヒューゴの胸に飛び込んでやるんだと意気込んで軽く柔軟運動をする。
感動の涙は残念ながら溢れ出ることは無かったが、そこは彼の胸に顔を埋めれば気づかれることは無いだろう。
魔法陣がクレハたちの前に現れた。
打算に胸膨らませながらヒューゴが現れるのを、今か今かと待ち受ける。
魔法陣から現れたヒューゴ目がけて飛び込んでゆく―。
「ぐはぁッ!」
現れるなり、ヒューゴの体は仰け反るようにして吹き飛んで行った。
入れ違いで空気に抱き着く失態を演じたクレハには何が起こったのか理解できない。
飛び蹴りによって倒れ込んだヒューゴの上にマウントしたルーティが彼の胸座を掴んで何度も地面に叩きつける。
「オマエーッ!ウチがキャサリン捕えた時『エグいな』とかヌカしとったくせに、さっきのアレは何やねん!あぁ!?あない悲鳴上げとるのに腕を捩じ切ったり、へし折ったり、挙句にキン○マ無いにしろ女の股間に電気アンマ食らわせよって終いには脚を引き千切るか!?」
事実はそうなんだけど、改めて聞くとえげつない倒し方をしたものだ。
「さっさと刀抜いてキャサリンみたいに瞬殺したれや!あないな連中やったけど、ホンマ気の毒でしゃー無いわ!二人揃って泣いとったやないけ!」
仰る通りだわ。これはルーティの言い分が正しい。クレハは千歳一隅のチャンスを逃したものの、納得して頷いた。
ヒューゴがムックリと起き上がった。
血液交じりの唾を吐き。
「電池の代わりに駆り出されて、お前の戦い見てても勝ちが見えんから代わって戦ったのにこの仕打ちか!」
「オドレがブチキレて無茶するからやろ!アレ、一歩間違えたら相手死んどったぞ」
「死ぬかよ!ちゃんと加減しとるわッ!そもそも、ルーティ!お前、戦いの経験があるとか言ってたが、アレ、“捕食”の事を言っていたんだろ」
ヒューゴの指摘にルーティが「うっ」一瞬ひるんだ。
「捕食と戦いは全くの別モンだぞ!お前がどんな獲物を捕らえていたかは知らんが、返り討ちに遭って命を落とすような相手では無い事は確かだと断言してやる!」
ルーティの言っていた“どちらかが命を落とす”とは、100%獲物が命を落とすという意味だった。
「うぅぅ」図星を突かれて、何も反論できない。
「やってられるか!こんなモン!ココミ!二度と俺たちの前に姿を現すなよ!いいな!」
捨て台詞を吐いて肩を怒らせながらヒューゴは校門を後にした。
「あと電話もかけてくるなよ!」ご丁寧に補足事項も付け足して。
そんな彼の背中を見送りながら。
「そんじゃ、ココミちゃん。私もこれで」
小さくバイバイと手を振り。
このまま彼の後を追っても変な空気になるだけだなと感じたクレハは、部活へと参加するべく小走りで校内へと戻って行った。
彼女を見送り。
「行っちゃったけど、彼女とは契約を結ばなくて良いのかい?」
ライクがココミに訊ねた。
「あの女はアカン。ライク坊ちゃん、悪い事は言いませんから、あの女だけは引き入れん事です。いくら霊力が物凄ぉ強い言いましてもね、あないなドンくさい女は何のお役に立ちませんよって。あ、あと血ぃ見るのもアカンそうですよ」
ルーティはクレハを不良物件呼ばわりしてお勧めしない。
「ルーティの言う通り、クレハさんは“戦えない人”なのです。これ以上彼女に関わらずに、そっとしておいてあげてはもらえませんか?この通り、お願いします」
言って、深々とライクに頭を下げた。
ライクは隣に立つウォーフィールドへと首だけ向けて。
「ああ言ってるけど、僕はクレハがそんな役立たずには思えないよ。霊力の強さならルークでも持て余すくらいだし、さっきなんて首にナイフを突き付けたお前に、ヒデヨシを見逃してくれと頼み出すくらい肝もすわっているしね」
「ええ、私もついついからかってしまいましたが、彼女の度胸には驚かされました」
彼らの会話を聞きながらも、ココミはクレハの行いが、ただ無謀に思えてならなかった。
「あと、お前がオトギにお仕置きを加えようとした時も向かって行ったよね?」
白側と黒側、クレハに対する評価は真逆を示していた。
「分かったよ、ココミ。クレハにはこちらから接触はしない。約束しよう。だけど、どうして高砂・飛遊午のような針の振れない男を英雄ベルタのマスターに迎えたの?彼の腕は認めるけど、あれほどまでにスモールマンだとは、呆れてモノが言えないよ」
「スモールマン?」「小さいオッサン?」
ココミ、ルーティ共に首を傾げた。
「ああ、Small manとはチェスの歩兵を意味することもあってね、それとは別に“心の狭い男”も意味するんだよ。こっちの方が世に知れ渡っているかな」
その言葉を聞くなり、ココミとルーティは揃って納得、頷いた。




