-36-:難儀な性格しとるな。あの女
「索敵ねぇ・・」
クレハが自らに課した危機に瀕している事などつゆ知らずに、ヒューゴとルーティは上空から琵琶湖湖面を捜索していた。
「なぁヒューゴ。今更やけど、お前、ホンマ良ぇ奴やなぁ」
湖面を眺めながらルーティが話し掛けてきた。
「お前、本当はクレハの代わりにベルタはんのマスター引き受けてくれたんやろ?ウチらが最初からお前をアテにしとった言うてたけど」
「まあな。でも、結果としてこうなった以上は俺がマスターを引き受けて良かったと思うよ。スズキのヤツはさ、昔からああで、とにかく血を見るのが嫌なんだとよ。他国の戦争とかは何とも思わないそうだが、震災とか抗えない災害で人が血を流しているのを見ていられないとか何とか。同じ怪我人なのに、どこがどう違うのか?俺にはサッパリ解らないがね」
「そうなんか・・難儀な性格しとるな。あの女」
二人の会話は本を通してクレハたちにも丸聞え。
恥ずかしさのあまり止めてと本を閉じようと伸ばした手をココミに阻まれて。なおも会話は続く。
「でも、ヒューゴが名乗り上げてくれてホント助かったわ。あの女、簡単にアホ共にとっ捕まっとったもんな」
「油断があったんだろうな、きっと。アイツ、ああ見えてもアミューズメントのガンシューティングゲームでパーフェクト叩き出しているんだぜ。2Pだったそうだけど。俺には出せないな。あんなハイスコア」
「スゴイちゅうてもゲームの話やろ?あっ、来よったで」
ルーティが後ろを指差した。
背後から放たれた曲刀の横一閃を、スラスターを併用したバック宙転で躱した。
飢屍のソネの後ろを取ると、首筋に右手の脇差しを突き付けた。
「お前、背後から攻撃するのが好きだなあ。面白いほど分かり易いわ」
言っている最中、ソネのダッシュ力は凄まじく、一気に間合いを広げられたが、さして気にも留めない。
「正面から挑めばヒデヨシの二の舞だもんね。あんな無様な負け方はゴメンなワケよ」
仲間の仇を討ってやろうという気概は無いのか?そんな思いに至るも、まだ怒りゲージに針は触れていない。
現在、ベルタの魔力ゲージは13%まで回復している。それは“充填モード”と呼ばれる騎体の出力を大幅に下げて、とにかく魔力回復に努める苦肉の策を講じているからだ。
どのくらい時間を費やせば元の出力を取り戻せるのだろう?スマホでも操作しながらでは充電速度は遅くなるから、それと同じで早くは出来ないだろうと予測はつく。
対キャサリン戦のように、相手の装甲と関節を利用して“てこの原理”を用いて関節を切断するにしても、果たして脚の速いソネの関節を捉えられるかが問題だ。
次に考えるべき課題は、関節をピンポイントで狙えなければどうするか?
ソネの取るであろう戦法は、おそらく一撃離脱。
速い脚を生かして通り過ぎ際に曲刀で斬りつけて逃げ去るもの。あの刀はサーベル同様に剣速の速さを長所としている馬上戦用の刀剣だ。
「まあ、こっちの脇差しもその点では似たようなモノか・・」
刀身は短く取り回しに長け、“反り”のあるおかげで剣速もタルワールに劣らない。
どんなに優れた武器を持っていようが、恐れるべきは“相手が使いこなせていれば”の場合である。
ジグザグ飛行をしながらソネが向かってくる。
やはり、すれ違いざまからの攻撃!タルワールをバックハンドで振り下ろす。
パワーもスピードもソネが上。でも左のキバで受け流してから右のキバを振り下ろす。
ソネは左手に持つホームベース型をした小型盾で放たれた右のキバを弾くと、そのまま盾で殴り掛かってきた。
一歩分後退するも、今度は盾で突きを仕掛けてきた。
この攻撃は“シールドバッシュ”!




