-33-:ですが、“けじめ”も大切です
光の粒となって消えてゆく骸骨亡者のキャサリンを眺めながら、高砂・飛遊午はしみじみ思った。
初めてベルタに転送された時のワクワク感を返してくれよ…。
グダグダ過ぎる敵のパイロットたちに、これっぽっちも“戦っている緊張感”というものが湧いてこない。
まるでクソゲーをやっているような苦痛すら感じる。
一方、そんなヒューゴの気持ちも知らずに、“鈴木くれは”は魔導書、龍の君主~ロード・オブ・ザ・ドラゴン~のページを通して彼らの戦いを眺めていた。そして。
6つ脚火竜のベルタに搭乗している高砂・飛遊午とルーティの喜ぶ声に安堵するのだった。
「初勝利を喜ぶのはここまでです。お二人とも警戒と索敵、共に怠らぬように」
苦言を呈しながらも、ココミの表情が一番嬉しそう。
「中のヒデヨシは死んでないんだよね?」
素直に喜べないクレハは本の持ち主ココミ・コロネ・ドラコットに確認を求めた。
「ああ。それなら心配には及びませんよ」
と、彼女が視線を促した先には、地面に座り込みうなだれて静かに泣く男の姿があった。
(うわぁ・・好きになった女の子が大西洋に投げ出されて悲しみに打ちひしがれている連邦軍兵士のようになってるよ・・)
しかも「うっ」この黒の学ランなのに袖口が折り曲げられていて、さらに水色の縁取りがされた “コスプレ感満載”の制服は、黒玉工業高校(通称ジェット)のものではないか。
今朝の一件もあるし、彼とは無関係だったにしろ、同じ高校の生徒には“同情する余地なんぞ全くナシ!”の心境に至った。
同時に、まだ決着はついていない事にもガッカリする。
(あーあ。テイクスしたの、コイツじゃなかったのかぁ。さっき琵琶湖に叩き込まれたソネ?アイツだったんだ・・)
さっさと切り上げて欲しいところだが、もう1騎倒せるほどベルタに余力はあるのだろうか?明確な勝ちは見えないし、恐れをなしてトンズラでもしてくれないかと願う。
うなだれているヒデヨシに、ウォーフィールドがゆっくりと近づいている。
そう言えば、さっきライクとロクでもない会話をしていたのを思い出した。
彼が手にしているアレは!マフィア映画で、親分がヘマをした手下に制裁を加える時に使っていた葉巻を切るアレではないか!アレで指を切断していたのを思い出した。
“アレ”の正式名称はシガーカッターのフラットタイプと呼ばれるものだが、クレハは未成年ゆえ当然ながら喫煙など無縁で知識は無く、映画の中でも葉巻を切っているシーンが差し込まれていたにも関わらずに、ショッキングなシーンばかりが印象に残り形状からも、ついつい“指ギロチン”と呼ぶようになっていた。
別に悲しみに暮れるヒデヨシが可哀想という訳でもないが、流血沙汰を目の当たりにするのはゴメン被りたい。
ウォーフィールドに駆け寄った。
「あ、あのさぁ・・。見ての通り、彼、相当凹んでいるから、さっき言ってた指をツメるとか、アレ、止めにしない?」
勇気を振り絞って大目に見てやれないか申し出てみる。
ウォーフィールドのエメラルド・グリーンの眼がクレハに向けられた。
「それもそうですね」とニッコリ。
何事も言ってみるものだ。話の分かるイケメンは好感が持てる。が、何かが変だ。
「ですが、“けじめ”も大切です。なので、代わりにクレハ様の指を落とす事に致しましょう」
どう言う理屈でと考えるとか、戸惑う間すら与えずに、ウォーフィールドは彼女の左手を掴み上げていた!しかも薬指にはすでに“アレ”が通されてしまっている!
「ヒッィィ!」
恐ろしさのあまり声にすらならない。




