-331-:オープン回線でそのような発言はお控え下さい
思いがけない告白を受けて、クレハは顔を真っ赤に染めた。
それに加えて、コントラストのコクピット内には二人の他に、タツローと女王の駒と化した妲己までいる。
まさに顔から火が出そうな状況。
「も、もう知らない!!」
堪えきれずにヒューゴの背に顔を埋めてしまった。
「うぬらはこの状況で何をちちくり合っておるのだ」
ノブナガから注意を促されてしまった。だけど。
「お前には言われたくないわッ!」
クレハとヒューゴ、二人して声をハモらせながらの反論。
パーティーの夜、散々キョウコとの仲を見せつけてくれたノブナガにだけは心底言われたくない。
「次はアナタの番ね。クィックフォワード」
起きてきたアーマーテイカーがクィックフォワードの耳元で、そっと告げる。
そんな彼の言葉を受けるも、クィクフォワードは我が手を見つめ。
「今はまだ…。だが、いつか彼女を追い抜く時が来たら、その時は胸を張って彼女に…」
決意を固めるように、我が手を握りしめる。
「だけど、それまでにリョーマくんにダナを奪われちゃうわよ。あの二人、結構良い仲みたいだし」
期が熟すのを待つクィックフォワードを急き立てる。
「その心配は要りませんよ。アーマーテイカーさん」
ココミの声へと、二人は向いた。
「ダナさんは、種族を超えて交配できる龍ではありますが、そこのところはキッチリと弁えておられますよ」
いきなりのココミの発言に慌てたアーマーテイカーが、飛びつくようにして開いた魔導書を閉じてしまった。
「ココミ様、オープン回線でそのような発言はお控え下さい。ダナの人格に関わりますよ」
至らぬところを指摘されて、ココミは自らの過ちに気付いて舌を出した。
相手が見えぬ状況であろうと、ココミの事だから、きっとテヘペロしているのだろうと、クレハの想像は見事に的中していた。
「ダナさんは、あくまでもリョーマさんとの関係を主従の関係として線引きなさっています。例えリョーマさんの心がダナさんに傾いていようとも、彼女はその想いに応える事は無いでしょう」
普段の二人を見ている限り、彼らがそんなにドライになるとは、とても思えない。
むしろ結ばれぬ恋と知りながら、互いに心を通わせているようにうかがえる。
そんな二人を、アーマーテイカーは不憫に感じていた。と同時に、恋敵であるクィックフォワードの心境を考えると複雑な気分になってしまう。
三角関係とは、どうにも応援し難いものだと。
そして、ココミを見ていると、同じ心境に至ってしまう。
「ココミ様…」
声を掛けておきながら、言葉を詰まらせてしまった。
ココミの、高砂・飛遊午に対する気持ちを思うと、どうしてもその先の言葉が出て来ない。
二人の魔者と契約を結ばせる。
マスターの命を削ってしまうと解っていても、唯一頼れる存在として全てを任せてしまったあの時、彼女の心に気付いてしまった。
アーマーテイカー自身、まだあの時はただのチェスの駒でしかなかったが、本の中からある程度のやり取りは耳にしていた。
ヒューゴをクィックフォワードのマスターに迎えた時、彼女は常に祈るようにしてアンデスィデを見守っていた。
当然である。
アンデスィデの勝敗の前に、ヒューゴの霊力が尽きてしまえば死に至っていたのだから。
マスターの二重契約は、それほどまでに危険な行為である。
だけど。
いかなる無理難題にさえ、ヒューゴは無理を承知で応えてくれた。
そんな彼を頼もしく想うようになっていったのは自然な流れと言える。
だからココミはクレハに対して、時に友人のように接しながらも、どこか敵対するような素振りを見せていた。
そして、アーマーテイカーはココミの心境の変化に気付く。
それは、クレハがオトギとタツローらと共に、オロチたちに交換条件を突き付けられ、止むを得ず魔者たちのマスターとなった時。
ヒューゴが何としても守りたいと願った女性が、グリモワールチェスに巻き込まれてしまい、どうするか本気で悩んでいた。
悩んで悩んで悩みまくって、彼女の出した答えは。
本来の使命である王位継承戦に没頭する事。
皆をチェスの駒と考えて、最大限に活用する。そうすればきっと、誰も犠牲にはならないと考え始めた。
今までのような受け身ではなく、自らも率先して戦いに赴くと。
その心境の変化は、姉のラーナが率いるアルマンダルの天使たち撃破に繋がる共闘アンデスィデへの参戦。
さらに、ジョーカー討伐戦となる此度の戦いの提案へと続く。
クレハたちを人間の友人としてではなく、戦力の一端として捉える事により、より効果的に狡猾に運用する事を追求して戦いに臨んでいる。
恋に破れても、想いを寄せる男性の願いを果たすために。
ココミが再び本を開いた。
「ごめんなさい、アーマーテイカーさん。要らぬ心配をかけてしまって」
アーマーテイカーは一瞬ドキリとした。
ついうっかりと心の中を覗かれてしまったのか?
だけど、その心配は無用のようだ。
「この戦いが終わったら、ダナさんにはしっかりと謝らないとですね」
ニッコリと微笑んでくれた。




