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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[30]終焉~エンドゲーム~
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-329-:ホラー映画やモンスターパニック映画が現実のものになってしまうのよ

 ったく…。この二人ときたら…。


 自分たちだけで納得しているヒューゴとリョーマに、クレハは苛立った。


「ねえ、ココミちゃん。貴女の目的は何?このイカれたチェスに勝ち残って何を望むの?」

 焦土と化した街並みを眺めながらクレハが訊ねた。


 イカれたチェス…魔導書(グリモワール)チェス。略してグリチェス。


 普通に大人しく“ただの”チェスを行ってくれていれば、こんなド派手に街一つを失わずに済んだのに。


 街をこんなにしてまで臨んだ理由がもしもしょーもなかったら、マジでココミをぶん殴ってやる。


 クレハは静かな怒りを胸に秘め、彼女の言葉を待つ。


「私とドラゴンたちが望むものは―」

 いよいよココミが皆に真意を伝える。


「適正な数に抑えた魔者たちを、本来の生まれた場所へと戻します。簡単に言えば“故郷”へと戻って頂きます」

 これがココミ・コロネ・ドラコットが今回の王位継承戦に臨んだ本当の理由だ。


「…て、事は…」

 高砂・飛遊午の大きな背中に目をやる。


「アンタたち正気なの!?ココミちゃんが勝ったら、魔者たちが私たちの世界に解き放たれるのよ。これならライクくんの方がまだマシ。彼は魔者の行動をコントロールしてくれると言ってくれた」

 どうしてヒューゴとリョーマはココミの真意に反論しないのか?


 自分たちの世界に、人間の手に負えない魔者が解き放たれようとしているのに。


「考えてもみて。ホラー映画やモンスターパニック映画が現実のものになってしまうのよ。タカサゴたちは、それで平気なの?」

 問い詰める。


 そんなクレハの勢いに飲まれてしまい、タツローは何も言葉を発する事ができずにいた。


「私はイヤだからねッ!そんな物騒な世の中になったら、おちおち寝てもいられないわ」

 こんなバカげた理由なら、最初から協力なんてしなければ良かった。


 後悔も然ることながら、怒りが込み上げるあまり、今にも暴れ回りたい衝動を抑え切れそうに無い。


 そんなクレハたちのやりとりをジョーカーが冷ややかに笑う。


「まったく呆れた理由だろう?ココミは世界に災いをもたらすためにグリモワールチェスを勝ち上がろうとしていたんだ」

 あたかも知っていたかのようなジョーカーの口ぶりに、ヒューゴは疑問を抱いた。


「ココミ。もう一つ訊いておきたい。お前、以前にジョーカーと接触しているな?」


「はい。こちらの世界にやって来て間も無く彼女と出会いました。そして協力しようかと持ち掛けられました」

 ヒューゴの睨んだ通りの展開だった。


「で、お前の答えは…。まあ、聞くまでも無いか」


「だから、そういうのを止めてと言っているのよ!自分たちだけで理解して、さっさと話を進めるのを」

 また取り残されたような気分にされた。


 もう終盤なのだから、この際キッチリと説明をして欲しい。


 あまりのクレハの勢いに飲まれてしまい、ココミは苦笑い。


「ご安心下さい、ヒューゴさん。私はジョーカーの申し出をキッパリとお断り致しました。彼女の能力はドラゴン以上でとても頼もしいものです。ですが、チェスにワイルドカードは

必要ありません。私たちの願いは私たちのもの。私たちの努力次第で成否を決めるべきなのです」

 何だかもっともらしい事を言い始めたような気がする。


 だけど、“私たちの努力次第”というのが妙に引っ掛かる。


 そもそも、こちらの世界の人間の霊力を必要としている時点で、その考えは破綻しているのではないか?


「正直申し上げて、彼女の申し出を断って正解でした。このような身勝手な考えを持つ者に利用されなくて胸を撫で下ろしています」

 ジョーカーが正真正銘の土着魔者であっても、彼女の存在だけは認める訳にはいかない。


 ジョーカーの存在は、もはや魔者ではなく、正真正銘の自然災害(ディザスター)でしかない。


 しかも意志を持って行動しているだけに始末が悪い。


 消えて無くなるべき存在だ。


「スズキ。俺も、きっと草間のヤツも、“神話”なるものが心の片隅にあるからココミの意志を尊重できるんだ」

 ヒューゴが納得した理由を話し始めた。


「かつての人間たちは自然に畏怖し敬って来た。そして、彼らも知り得ていないところで魔者たちの暗躍もあったに違いないと俺は推測する。理解できないものに恐怖する事は人間にとって自然な行動だ。怖いから一線を引く。とても大切な事だと思う」

 確かにワケの分からない事には、無暗に首を突っ込まない方が身のためだと思う。


 だけど、それを魔者たちと結びつけてしまうのは、いささか強引なのでは?


「魔者たちの存在は、一種の戒めになると僕は考える」

 今度はリョーマが自らの見解を述べ始めた。


 が、今はリョーマの考えなど訊ねた覚えはないぞ。


 それでもリョーマは続ける。


「戒めとは抑止力。犯罪も争い事も抑止力が働ければ発生を抑える事ができるのではないか」

 オイオイ言葉の意味が重なっているぞ。


 ツッコもうものなら、反応していると思われかねないので、触れずにいよう。


「土着の魔者たちが戻ってくる事については、僕は反対などしない。何せ、元々こちらの世界にいたのだから、問題なんて有るはずも無い」

 元の鞘に収まるだけのハナシ。


 だが、その元の鞘なるものが何時の時代の話なのかが大きな問題だ。


 どうも素直に納得できない話だ。



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