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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[30]終焉~エンドゲーム~
333/351

-324-:ここは終点なんだよ

 河か…。


 向こうの河岸には大勢の人たちがいる。


 こちらの河岸に佇む人たちは、ただ向こう岸をながめているだけ。


 釣りもしなければ、泳ぎもしない。


 7月になったばかりだし、さすがに河で泳ぐヤツはまだいないか…。


 ふと、上流へと目を移す。


 さらに下流へと目を移す。


 どちらにも橋は掛かっていない。


 向こう岸にいる人たちは、この河を渡った人たちなのだろうか?それとも元から向こうにいる人たちなのか?


 ところで、何で、そんな疑問を抱いているのだろうか?


「あれ?」

 目を細めて向こう岸を見やる。


 知っている顔があった。


 直接お会いした事は無いけれど、あの老人の顔には見覚えがある。


 確か…。


 経済ニュースだったか、見た事のある顔だ。


 高度成長期に乗っかって一代で大企業へと発展させたと、ニュース番組で自伝的な事を言っていたっけ。


 大変苦労をしたけれど、それ以上に、多くの人々との繋がりを築き、何よりも家族と社員の家族こそが企業にとって大事だと述べていた。


 その言葉に偽りなく、自身の家族を、特に孫世代を大切にしていたと聞く。


 彼の名は。


 御陵・幸三郎みささぎ・こうさぶろう


「いや!それはおかしい」

 首を横に振って否定する。


 なぜなら、彼はすでにこの世を去っている人物だ。


 でも。


 死んだはずの御陵・幸三郎が、向こう岸に佇んでいるのは確か。


 それはともかく、どうして呑気に川岸にいるのか?


 今頃になって、現在状況を知りたい衝動に駆られた。


 どうして、ここにいるのか?


 こんな場所、見たことも無いことから初めて来る場所なのは理解している。


 後ろへと振り返る。


 地面一杯に広がる野花の先に、一台のバスが止まっていた。


 不思議と、大きなフロントガラスの先には運転手の姿が見当たらない。


「俺は、あのバスに乗ってやって来たのか?」

 思い起こすも、どうも記憶が曖昧だ。


「バス?」

 バスの行く先は市松市市内の場所が記されている。


 おかしい。


 確か、先のアンデスィデでバスターミナルごとほとんどの路線バスが破壊されたと聞く。


 あの大規模破壊から免れた路線バスがあったのか?


 いや、それは有り得ない。


 ニュースでバス会社が経営再開を断念したと報じていた。


「君はあのバスに乗ってここに来たんだよ」

 声のする方へと向くと、そこにはバスの運転手がいた。


「ここは終点なんだよ。あのバスはもう出発する事は無い」

 何を言っているんだ?


 ここはバスターミナルではないし、ただの河川敷ではないか。


「出発する事は無いって。でも、バス会社に戻らなくていいんですか?」

 訊ねた。


「あのバスもここへ来たんだよ。もう、元の世界に戻る事は無いからね」

 元の世界?


 それはどこだ?


「元の世界って?」

 辺りを見回す。


 違う世界に来ているのか?今流行りの異世界転生ってヤツなのか?もしかして。


 考えれば考えるほど混乱してきた。


 いや、もしかしたら、俺の聞き間違いかもしれない。


 この運転手さんは”元何かの世界チャンピオン”だと自己紹介したのかもしれない。


 運転手さんをまじまじと見つめる。


 さほど体格が良いという訳でも無いし、何処からどう見ても普通のおじさんだ。


 だけど、人は見かけに寄らぬもの。


 もしかしたら、手先が器用で、何か世界があっと驚くようなものを作っている人かもしれない。


「ところで、貴方は誰ですか?」

 名前を聞けば知っている人物かもしれない。


「私は藤間・耕一という人間だった」


「はぁ・・藤間さんですか…」

 名前を聞いても思い出す事は何一つ無い。やはりただのおじさんのようだ。


「え?だった?」

 名前こそ思い当たる者は無かったが、あまりにも違和感アリアリな自己紹介だった。


「ここへ来てしまったんだ。もう名前は必要無いだろう?」

 刑務所に入ったら、刑務官に番号で呼ばれるのは知っているけど、この運転手さんは、そんな罪を犯した人物には見えない。


 そもそも、自分も罪を犯した覚えが無い。


「名前が必要無い?」

 訊き返していると、無性に暑く感じてきた。


「やけに蒸し蒸しするなぁ」

 襟元をはだける。


「いや、ここに来たんだ。もう暑くも寒くも感じないはずなのだが」

 運転手さんとは体感温度が異なるようだ。


「ごめんさない。俺、少し横になります」

 告げて、その場に寝転んだ。



 …。


 ……。



 ………。


「ハッ!」

 高砂・飛遊午は飛び起きるようにして目覚めた。


 上体を起こすと、なぜか自身が全裸である事に気付いた。


「どうして、俺は素っ裸でベッドで寝ていたんだ?」

 不思議でならない。


 不思議ついでに、先程見た夢は何だったのか?


 思い出そうとすると頭痛がする。


 額に手をやれば、びっしょりと汗をかいていることに気付いた。


「こんなに汗が…」

 呟くと。


「うぅーん」

 呻き声?


 ふと、隣に目をやると。


 メイクばっちりの男性が、素っ裸で横になっているではないか!


「あ?あぁっ!?」

 この男性、見たことがある!


 世界的ヘアメイクアーティストのAMY(アミィ)じゃないか!もとい!ココミが従えているアーマーテイカーではないか!


「ど、ど、どういう事だ!?お、俺はこのおっさんと何かやってしまったのか!?」

 動揺するあまりベッドから降りようとしたら、転んでしまって床に這いつくばってしまった。


 思うように起き上がれない。


 辺りを見回す。


 何か身にまとうものは無いか。


 そんな時、ガチャリとドアの開く音が。


「アーマーテイカーさん。ヒューゴのケガの具合、どうですか。あっ?」

 それはそれは最悪のシチュエーションだった。


 素っ裸で床に這いつくばる姿を、よりによってルーティに見られてしまった。



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