-321-:キミだけが気付いていないので教えてアゲルね
ベルタの、背部に装備されたキャロネードが火を吹く。
4秒間隔での砲撃が繰り返される中、ジョーカーはまるで避けようともせずに、全ての砲弾をその身に受けていた。
しかし、次の弾が命中する頃には、すでにダメージが回復しており、クレハの攻撃は無効化されているに等しかった。
「チィッ!発射間隔が開き過ぎなんだよ!」
文句を垂れながらも、砲撃を続ける。
さすがに指が疲れてしまい、少しの間トリガーから離してしまうと。
「ん?もう気は済んだかい?」
「んなワケ無ぇだろ!」
ジョーカーの見せる余裕は、まさに燃料投下。火に油を注ぐようなもの。なおも砲撃を繰り返す。
「じゃあ、一旦黙ろうか」
告げて、手にする野太刀を振り下ろし、キャロネード砲を叩き潰してしまった。
あまりのジョーカーのナメた行動に、クレハは歯軋りが止まらない。
今の一閃は全く見えなかった。
騎体がひっくり返るのでは?と思える程に強烈な衝撃を受けた。
なのに、破壊されずに未だ生き永らえている。
ジョーカーは刃の一閃を放つ事をせずに“峰打ち”でベルタの反撃を沈黙させたのだった。
「ナメやがってぇ!」
クレハが吠えた。が。
「ナメられていませんよ、クレハさん!彼女の狙いは貴女自身なのです!」
ココミの言葉に、クレハは我を取り戻した。
「ジョーカーの狙いが私?」
訊ねている最中、ベルタの右腕(鎌)を掴まれてしまった。
「捕まえた」
楽しそうに告げるジョーカー。
何をするつもり!?
クレハは、とにかく妲己の手から逃れようと、騎体を動かすも、しっかりと掴まれているために脱出は叶わない。
「ねえ、クレハ。みんな気付いているみたいだけど、キミだけが気付いていないので教えてアゲルね」
妲己の顔面が、正面ディスプレー全体に映し出された。
「ボクが、今の盤上戦騎の姿でいられるのは、アンデスィデが続いているおかげなのはキミにも解るよね?」
あまりにも馬鹿馬鹿しい質問なので、答える気にもならない。
なので返事もしてやらない。
「じゃあさ。アンデスィデを終了させる条件は何かな?」
んな事、情報をインストールされたなら、誰でも答えられるわ!
「ヘッ!」
誰が答えてやるものですか。クレハはそっぽを向いた。
すると、ジョーカーはベルタのもう一本の腕(鎌)を掴んで両方へと引っ張り始めた。
メキメキと音を立てて、腕関節から引き抜かれようとしている。
「うわぁあぁぁぁッ!」
腕を引き抜かれる痛みに、ベルタが悲鳴を上げた。
「答えてよ、クレハ。早く答えてあげないと、ベルタの腕が引っこ抜けてしまうヨォ」
弄ばれるのはシャクだが、ベルタが痛みを被るのだけは何としてでも避けたい。
「テイクした騎体を戦闘不能以上にするか、テイクした騎体が、された騎体から500km以上離れるかのどちからよね。答えたから、さっさとベルタを解放して!」
歯がゆい思いをしながらの回答。だけど、これでベルタが救われるのなら、何とも思わない。
ジョーカーはベルタの左腕を解放した。
「じゃあさ。ここで質問」
まだ、このしょうもないクイズを続けるのかよ…。
すでに顔の表情に出ている通り、こんな茶番、さっさと終わらせて欲しい。
「アンデスィデを終わらせない方法は何?」
「あん?」
何を間抜けな質問をしてくれるのか?
そんなもの、終わらせるの逆でしょうが。
考える間でも無い事だ。
「アンタ、そんな事を訊いて何がしたいのよ?」
撃てる武器があれば、密接距離だろうとガンガン撃ってやるのに…。
「いい加減に気付いて下さい!クレハさんッ!」
何やらココミが喚いている。何をそんなに騒いでいるのか?
「ッ!?」
ようやくクレハは気付いた。
このジョーカーの本当の目的に。
「クレハ、それにベルタ。キミたちさえいれば、ボクはこの先ずっとこの地上に君臨できるんだよォ~」
何と!ジョーカーはベルタの騎体ごとクレハを取り込むつもりでいるのだ。
永遠に続くアンデスィデ。
ジョーカーの狙いがハッキリしていたら、こんなに接近したりしなかったのに…。
妲己の手がベルタの頭部へと伸ばされた。
「何か!何か反撃する手立ては無いのッ?ベルタ!」
必死になってタブレット画面をフリックさせるも、どういう訳か空振りばかりして画面が動いてくれない。
しかも当のベルタは気が動転してしまって、検索しているようだが、なかなか答えを見つけ出せないでいる。
もしも、ジョーカーが完全体になってしまったら、盤上戦騎の特性を活かして好き放題に破壊活動に勤しむことだろう。
それだけはッ!
それだけは、何が何でも防がねばならない。
もう、こうなったら!
ものまねのカードを発動するしかない。
だけど、どれを発動させる?
選べるカードは3枚だけ。
剣のベルタ?直線だけ突っ走るクィックフォワード?それとも、守りを固めたアーマーテイカー?
悩んでいる時間は無い。
ガガーンと騎体が大きく揺れた。
妲己に頭部を掴まれてしまったのだ。
「ええぃ!コイツに全てを賭けるッ!」
引いたカードは。
ゴウォンォンォンとまたもや、いや、先程よりも激しく大きく騎体が揺れた。
危うくバイクシートから落ちそうになる。
「誰だッ!ボクのジャマをするヤツは!」
妲己が向いた先には。
こちらに真っ直ぐに向かって来る戦闘機。
「どうして?ヤツがこんなに早く!何故戻って来れる!?」
いくらバリアを展開しているとはいえ、生身のオトギを手に握った状態では、音速を出さない限り黒玉門前教会から往復など出来はしない。
ダナの騎体に下がっているガトリングガンの火線がベルタを掴もうとする妲己の腕へと伸びている。
威力こそ低いものの、毎秒80発のガトリング砲弾を受ければ、いくら超治癒回復能力があろうとも、妲己の腕にダメージを与える事は出来る。
とうとう妲己の腕が千切れて飛んだ。
ついでに。
妲己に掴まれているベルタの腕をもガトリングガンで撃ち抜いた。
敵味方問わずに損害を与えて、ベルタは妲己から解放された。
「リョーマぁぁ!!」
非情な救出劇に、思わずクレハは頭に血が上ってしまった。
「良いのです、クレハ。彼らの判断は的確でした。さぁ、一目散に退避しまよう」
痛みを堪えてのベルタの指示に従い、クレハは一旦妲己から距離を置いた。
と、すれ違うようにして、ダナから発射されたミサイル群が妲己へ次々と命中してゆく。
例え浮遊素のバリアを展開されて防がれてしまおうが、誰も悔しがる者はいない。
むしろ、最初から防がれてしまうと覚悟していたから。
「聞かせてもらおうか、草間・涼馬。どんなトリックを使って戻って来たのかを!」
ジョーカーが訊ねた。




