-309-:辺り一面消し炭にしてくれようかしら
復讐に燃えているのは御陵・御伽だけではなかった。
首無しのジェレミーアもまた、鈴木・くれはに対して激しく憎悪の炎を燃やていた。
「怒りの鉄槌!とくと受けよォーッ!」
ジェレミーアの前足がコールブランドの頭上から踏み下ろされる!
まさか、人生の最後が馬に蹴られてだなんて、想像すらしなかった。
「頭を下げろ!」
リョーマの声に、タツローは咄嗟にコールブランドをしゃがませた。
すると、ジェレミーアの半馬の腹で数回爆発が起きた。
ダナが発射した超小型ミサイルが直撃したのだ。
ジェレミーアが体勢を崩した隙に、コールブランドをひとまず後退させた。
「接近し過ぎだ。タツロー」
戦いの最中でのダメ出し。
「敵の数が多過ぎます。ここは一旦距離を取りましょう」
コールブランドの提案に従い、さらに距離を置く事にした。
この展開、まるで浜辺に打ち寄せる波のように行ったり来たりを繰り返している。
「どうやらオトギの狙いは、私たちの消耗にあるようですね」
「消耗戦を仕掛けられているのか…」
ベルタが言っている事を、さも自身の意見のように呟くリョーマに、クレハはただただ呆れていた。
だけど。
「あのアホ野郎、一切会話とかして来ないのね…。どうして妲己の手下に成り下がっているのか?全然理由がハッキリしないわ」
もしかしたら、それが突破口になるかもしれないのに、これでは糸口さえも掴めない。
「言っておくが、アレは妾ではないぞ。小娘」
女性の声がコクピット内で聞えた。
「黙っていて下さいよ。妲己さん」
隠れて小声でやり取りしているようだけど、声が丸聞えなんだよ!タツロー!
タツローのつむじに足を乗せて「何をコソコソと」問い詰めた。
「あ、あのですね…」
振り向こうとする頭を、乗せた足に体重を掛ける事によって動きを封じる。
「まあ、そんなに乱暴な真似をしてやるな。妾はライフの姿こそ失ったものの、今ではしがない女王の駒よ」
タツローが掲げたストラップの先に、女王の駒がぶら下げてあった。
「と、言う事です。なので―」
「振り向かない!」
あわよくば、すらも認めない。ゼッタイに振り向かせない。
「良いかな?」
女王の駒に成り果てた妲己がお伺いを立てている。
「正確には妾の体を乗っ取ったジョーカーなる者。おそらくジェレミーアは私と同じくヤツに取り込まれたのじゃろう」
思わぬ情報を得た。
確か、ジョーカーに乗っ取られた妲己は、触れる相手の能力を吸収して我が物としていた。
ならば、魔者そのものを取り込んで、能力として使役する事など雑作も無いはず。
そもそも、ジョーカーなる魔者の能力が、触れた相手の能力を奪うというものなのだ。
「鈴木・くれは!貴様のおかげで女共を弄ぶことが叶わなくなった。この恨み、晴らさずにいられようか」
随分と身勝手な恨みつらみを並べ立ててくれるものだ。
大体やる事がセコいんだよ!
固有結界内に相手を閉じ込めて好き放題しようなんて!しかも記憶から消えるのを良い事に、あんなコトやこんなコト…想像すらしたくないわッ!
考えれば考えるほど腹が立ってくる。
「こうなればガンランチャーになって、辺り一面消し炭にしてくれようかしら」
攻撃魔法の那須与一なら十分可能だ。
「確かに。地中に隠れているであろう、あのイヌ共も一掃できて一石二鳥と言いたいが、それでは御陵さんも殺しかねないのではないか?」
冗談を本気と捉えてもらっても困るけれど、リョーマの言う通り、イヌ頭たちが地中に隠れているのは確実。どうすれば、彼らを排除できるだろうか?頭を悩ませた。
「あっ!」
クレハが何か妙案を思いついたようだ。
「何か策があるのか?」
リョーマが訊ねた。
「確か…コールブランドもグラムも、光学迷彩機能を持っていたよね?それって、今のコントラストの状態でも使えるの?」
コンソールパネルに向かってベルタに訊ねた。
「ええ、可能です。ただし、時間に限りがあります。約5分程度しか透明化を維持できません」
それだけの時間があれば十分だ。クレハは、ひとりニヤリと笑った。
「妙案があるようだが、言葉にしてくれないと協力できないぞ」
答えを催促するにも、言葉遣いというものがあるでしょ!
クレハはムスッとして「イヌ頭たちに私たちを追わせる」
告げると、クレハはコールブランドに光学迷彩を機能させるよう指示した。
戦地の真っただ中、いきなりコントラストがかき消されるようにして姿を消した。
「透明化!か?」
発熱しない盤上戦騎は、火器を発射しない限り熱を発する事は無い。
しかもレーダーからも消えてしまう完全ステルスモード。
浮遊素の光を追おうとするも、同じく透明化した攻撃及び防御ビットも浮遊素を撒き散らしているため、コントラストを特定する事が出来ない。
コールブランドはジェレミーアと妲己の視界から、すっかりと姿を消してしまった。
追跡する術を持たないジェレミーアを差し置いて、周囲を固めていたロボの手下たちが一斉に同じ方向へ飛び発った。
さらに、地中からも次々とイヌ頭が何かを追って飛び出した。
レーダー、赤外線、視覚から姿を消してしまったコントラストを追えるのは、猟犬たちの鋭い臭覚だけ。
「なるほど。エサを撒いておびき寄せたという訳か」
ダナの兵装をチェンジ!
全身に超小型ミサイルを搭載した攻城戦兵装へと換装した。
リョーマの瞳が次々と、空へと舞い上がってゆくイヌ頭たちを捕捉する。そしてロックオン。
ダナの全身に配備された超小型ミサイルを一斉発射!
不規則な軌道を描きながら、次々とイヌ頭たちを撃墜してゆく。
さすがに40騎すべてを破壊するには至らなかったが、半数近くを一度に撃墜できた。
上々だ。
空の上でも、何騎かが突然現れたヒートワイヤーによって切断されている。
彼らイヌ頭は、ニオイで見えぬ敵を追跡できるが、相手がどんな行動を取っているのかまでは把握できていないようだ。
盾で防御するにも、有らぬ方向から襲い来るヨーヨーのヒートワイヤーに対応しきれておらず、成す術も無く次々と斬り伏せられてゆく。
コールブランドの光学迷彩が解けた。
上空から、はるか地上のジェレミーアを見下ろす。
パシィッ!戻ってきたヨーヨーを掴んだ。
「馬並み男!地上に這いつくばっていては、私を倒す事なんて不可能だからねッ!」
あからさまな挑発を仕掛けた。




