-306-:まるで、バ○スを唱えた後の
コントラスト、ダナ、両騎揃って妲己をロックオンマーカーに捉えた!
向こうでは、きっと、ロックオンアラートがコクピット内で鳴り響いているはずなのに、当の妲己は地上から一歩も動こうともしない。
「どういうつもり?完全にこちら側をナメているという事でしょうか?」
ココミがクレハたちに訊ねた。
と、ダナが妲己へ向けてミサイルを一斉発射!
「何らかの防御策を講じているのだろう。だったら手の内を明かしてもらう!」
この男は、目の前に現れる壁を“乗り越える”という発想が無いばかりか、“とにかくぶっ壊して”進む道を選んでいる。
ミサイル群は真っ直ぐに妲己へと向かって飛翔している。
ECMやチャフ、フレアといったミサイルへの対抗手段を、一切発動させる気配が無い。
依然ミサイル群は妲己へと向かいつつある。
「着弾まであと10・9・8・7・・」
ダナがカウントを取り始めた。
ズン!
高く土煙を立てて3騎の盤上戦騎が妲己の前に立った。
その中の1騎は、すでに対戦済みの騒暴死霊のウッズェ。しかも防御モードであり、アレでは直撃しても攻撃が通らない。
だけど、妲己よりも身の丈が低いので盾とするには物足りない。
が、残る2騎の片方が、ウッズェを高く持ち上げると、遅い来るミサイル群に向かって法理投げてしまった!
何と、味方を盾にしてしまう暴挙に出た。が。
立て続けて起こる爆発をかいくぐって、なおも妲己目がけて飛んで来るミサイル数発。
しかし、残る2騎が体を張って、妲己を守り抜いた。
立ち込める黒煙が、風に流されて晴れてゆく。
全身ススだらけになって横たわっていたウッズェは、予想した通りに健在。すぐさま体を起こして再び妲己の護りにつく。
残る2騎は、いずれも長身の盤上戦騎。
おかげで、妲己に対して、まったくミサイル攻撃が通らなかった。
「とんでもない壁モンスターたちを揃えてくれたな…」
草間・涼馬がつい漏らした、カードゲーム風な表現をクレハは同感できなかった。
日常生活に、ゲーム用語を持ち込むな!
そう思うも、もはやコレは日常の出来事では無い。
さて、厄介な壁をどうしたものか…?
「一つは、イオリさんたちに食い殺された一つ目巨人のアンドレですね」
ココミの呟きに、ライクは苦笑した。
「彼女は盤上戦騎を食べたりしないよ」
重箱の端をつつくとはこの事だ。細かなミスさえもお目こぼししてくれない。
「そこはサラッと聞き逃して下さい。それよりも、あとの1騎は、何だか腕が沢山生えているのに、脚は無いんですね?」
地上に立つ限り、『脚なんて飾りですよ。偉い人には分からんのです』とは言わせない。
上半身は手の無い腕が沢山生えているというのに、下半身は複雑に巻いた根っこのようなものが1本あるだけ。
その複雑に巻かれた根の中に、青色に光り輝く水晶のような物体が。
生物を感じさせない、独特なフォルムを見せる盤上戦騎。
「魔界樹のガイエスブルグ。最長寿のアンデッドさ。元が樹木なんで、脚を付けても歩く感覚を持ち合わせていないため、不要なのさ。だから登録の際、大幅にデザインを変更させてもらったよ」
歩行を知らない魔者か…だからと、要塞のような名前を付けないで欲しい。
より一層強く感じてしまうではないか。
「それにしても、とても大きな盤上戦騎ですね」
目標よりも、約2kmの距離に降り立つなり、ベルタが驚きの声を上げた。
「どちらも城砦の盤上戦騎だからね」
即ライクが応えてくれた。
となると、チェスで言う“大駒”が出揃った事になる。
片やこちらは“小駒”で対抗という訳だ。
ゲームで表現するなら、あの2騎は“カタい敵”だ。
ダナの放ったミサイルの直撃を受けてもビクともしない。
土煙を立ち上げて、ガイエスブルグが浮遊し始めた。
巨大な樹木型の盤上戦騎が空へと舞い上がるその姿は…。
「まるで、バ○スを唱えた後の―」「大人しく空の彼方に飛んで行くなら問題無いんだがね」
アニメを絡めてくる男子の会話など放っておいて。
それほどに、ゆっくりとしか上昇していない。鈍足にも程がある。
と、突如コクピット内にロックオンアラートが鳴り響いた。
「Lock ONされた!?」
手と言うか、ただの枝が伸びているだけで、武器らしいものは何も見当たらない。
「回避だ!急げ!」
突然のリョーマからの通信。
ガイエスブルグの枝の先が光を宿したかと思えば、一斉に光線を放ってきた。
細く伸びる緑色の光は。
まるで曲芸飛行のような急機動をしなければ、ダナではガイエスブルグの放った“追尾型光線を回避する事は叶わない。
一方のコントラストは。
「あんなモン、避けられるかァ!」
クレハは根性出して浮遊素を大量散布!以前、アルルカン3が見せたバリア転用を意地で発動させた!
横殴りの雨のように次々と放たれるホーミングレーザーを、歯を食いしばって、何とかしのぎ切る。
単純だけど、非常に厄介。
“数で圧し切る”を見事なまでに体現してくれる。
「せっかく、ここまで近づいたというのに…」
悔しがるタツロー。しかし。
「敵のデーターは、騎体に接触していないので判断できませんが、映像を見る限り、ガイエスブルグの腕は36本。失礼、枝の数は36本。つまり、発射されるホーミングレーザーの数は36本という事になります」
地雷女コールブランドは戦場において冷静でいてくれるから有難い。
だけど、36本とは、尋常ではない数だ。
「マスター、あの邪魔な樹を枯らしてやりましょう」
この上ずった声、コールブランドが言っているのは、単なる意気込みではなく、確実に仕留められる策を見出している口調だ。
「つまり除草剤を撒いてやれば良いんだね」
タツローもニヤリと笑う。
「な、何なの…二人して。何を企んでいるの?」
悪だくみをする二人に、ちょっと引いてしまうクレハであった。




