-305-:取り敢えず、お手並み拝見と参りましょうか
アンデスィデ開始!
戦場は、前々回、それに前回と同じく未だ復興の手を止めている市松市街地。
草間・涼馬が駆るダナは、すでに要撃戦兵装を装着。妲己が召喚するであろうシャドーに対抗する準備を整えている。
一方、タツローのコールブランドとクレハのベルタ(だけど見た目はグラム)は合体魔神コントラストへと合体を終えて妲己に対応可能としていた。
「でもねぇ…」
今度のコントラストはちょっと違う。
ベルタからアンダープロモーションを果たしたために、本来黒一色だったのが、緑と赤の色彩へと変わり、中途半端にカラフルになっていた。
まぁ、リアル路線を謳い文句にしているロボットアニメでありながら、トリコロール色で戦場を暴れ回るよりは幾分かマシに思えるけれど…。
「それにしても…」
クレハは絶句した。
「タツローくん。絶対にこっちに振り向いちゃダメだからね。振り向いたら、解っているよね」
声を低くして念を押され、タツローの額からイヤな汗が流れ出る。
以前にもこんなやり取りがあったのを思い出した。
頭の後ろで女の子が股を広げて座っている…。
オトギのパイロットスーツは、気持ちライダースーツにも似ているけれど、今クレハがまとっているのは、どう考えても魔法少女のコスプレだ。
以前から思っていたのだが、何を考えてクレハはこんな衣裳をまとっているのだろう?
聞けば100%後ろから後頭部を蹴られるのがオチだ。
考えるのはヤメよう…。
「皆さん、オトギさんは市街地中心地にいます」
ココミからの報告。やはり迎え撃つ構えを見せている。
「これより高度1万メートルから進入。5000メートルに入ったと同時にミサイル攻撃を仕掛ける」
リョーマが指示を出した。各人これに同意。
作戦開始。
「待って下さい!」
ココミが待ったを掛けた。
「敵の数が一気に増えました。シャドーを展開した模様」
王と女王を除く14騎体が召喚された。
だけど予想はしていた。シャドーの展開は想定内。
急降下爆撃で敵を一掃する!リョーマが操縦桿のトリガーに指を掛けた。
「なぁんだ、オロチじゃないんですね。ふふふ」
あざ笑うかのようなオトギの声が通信に入った。
「クレハ先輩とタツローくん、それにリョーマさんですね。私を殺しに来たのは」
未だ目視確認はできない距離にある。
見えない相手と通信でやり取りする事となった。
「私たちはオトギちゃんを殺しに来た訳じゃないわ。貴女から、持っていてはイケナイ凶器を奪い取りに来ただけ。そのあとで、ゆっくりと話し合いましょう」
否定するだけではダメだと、あえて理由も付け加えた。
しかし、オトギは鼻で笑うだけ。
「まだ、そんな事を言っているのですか?まあ、良いでしょう。取り敢えず、お手並み拝見と参りましょうか」
とたん、数個の光点が画面に映った。
シャドーの何騎かを仕向けてきたのだ。
ダナが前へと出て、ロール降下をしながらストライクパックに装備されているミサイルを次々と発射。
渦を巻いて降下してゆくミサイル群。そして、途中から敵を捕捉して、あらゆる方向へと飛んで、やがて爆発した。
しかし。
依然、レーダー反応は消えていない。
全騎健在だ。
「来るぞ」
リョーマが警戒を発したと同時に、火線が描かれる。
真っ直ぐ降下していては、ただの的になるだけ。両騎、回避運動に入った。
とたん、光点から一条の光の筋が空に向けて放たれた。
幸い、光の筋からはダナ、コントラスト共に大きく離れていたのでダメージを負う事はなかったが、アレは!耳翼吸血鬼スグルの荷電粒子砲!
「いきなり厄介なのが出てきたわね…」
ライクの従える“百鬼夜行”のアンデッドたちは、漏れなく皆厄介な騎体揃いだ。
「皆さん!ムチャクチャ速いのが来ます!」
ココミのこの表現は!
目視できたと思えば、ものスゴいスピードで白側両騎の間を通り過ぎる盤上戦騎が!!
あの距離から通過って、まさか!?
カンシャク持ち女のアッチソンまで現れた。
しかも、またもや ピック片手に“半キャラずらし”攻撃を敢行。
だけど、今回はマスターが搭乗していないシャドーなので、いわゆる“カミカゼ”なんぞ恐れもしない。
「どうしよう…?アイツ、掠っただけでも大怪我しちゃうよぉ」
アッチソンだけでなく、スグルの攻撃も受ければ一発で即お陀仏だ。
「問題無い。どちらも動き続けていれば、当たる事は無い」
リョーマはそう言ってくれるが、それでは運を天に任せているに他ならない。
とにかく、アッチソンに関しては、追い掛けてもどうにもならない。急制動の失敗を誘発させて自滅してもらうしか手立てが無い。
片やスグルはインターバルを必要としていたはず。しかも人型に変形して近接戦を行わなければ、エネルギー充填が出来なかったはず。
「コールブランド、お願い!攻撃ビットを最大距離にまで展開させて。ベルタも防御ビットをお願い」
告げてタツローには「このままスグル目がけて飛んで」指示を送った。
遠くで弧を描いて、超音速の壁を突き破り、幾つもの白い輪を潜り抜けて、またもやアッチソンがこちらに向かって来た。
まばらに弾をばら撒きながらアッチソンが接近してくる。
あの超々音速相手にロックオンは不可能。だったら、このまま無視してスグルを相手にするまで。
魔導書レーダーを眺めるココミは気が気でならなかった。
もの凄い速度でアッチソンが接近してくる。
「あっ!!」
ココミが小さな悲鳴を上げた。
レーダー反応が一つ消えた。
「まさに玉砕攻撃だったな…」
煙を吐いて墜落してゆくアッチソンを眺めながらリョーマが呟いた。
最大距離にまで展開させていた防御ビットに接触して、アッチソンはコントロールを失い、空中分解したのだった。
一方のスグルは、エネルギーチャージのための近接戦距離に到達するまでに、ダナのミサイル攻撃によって撃墜されていた。
そして、ついでに骸骨亡者のキャサリンもダナのミサイルの餌食となっていた。
「まだまだ、これからですよ。クレハ先輩」
大空で展開される戦闘を見上げながら、オトギは不敵に笑う。




