表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[26]闇を貪る者
308/351

-299-:マスターにしかできない事をおやりなさい

 タツローは驚いた表情のまま、ただポカンと口を開けてイオリの顔を見つめている。


 そんなタツローの目の前で、イオリが手を振って見せる。


 しかし、タツローの目線は固定されたまま動かない。


 見えているのか?見えていないのか?


 イオリは一瞬だけ手を挙げる素振りを見せたものの。


 開いたタツローの唇に軽くキスをした。


「な、何を!?」

 反射的に体を仰け反らせてイオリのキスから逃れた。


 恥ずかしさのあまり、徐々に顔が真っ赤になってゆく。


「いきなり何ですか!?キスなんかして!」

 怒った素振りを見せるも、顔を真っ赤にしたままでは、格好が付かない。


「ボンヤリしているからよ。ビンタを食らわせてやれば、とも思ったけれど、御陵・御伽が求めているものを先に奪っておいてやれば、あの女の悔しがる顔が目に浮かんで。ハァー、清々した」

 茫然としていたのは認めるが、ただの腹いせにキスなんて、堪ったものではない。


「だいたい人の顔を、死んだ魚のような目で見ないで頂戴。気持ち悪いんだから」

 性格の悪さと言い、毒舌っぷりと言い、神楽・いおりは健在だ。


 心底イヤな子ではあるが、生きていてくれた事だけは素直に嬉しい。


 これでオトギは殺人犯にならなくて済む。今のところは…。


「イオリ様。映像で確認しましたが、どうやって助かったのですか?」

 コールブランドが訊ねた。


「あの共闘アンデスィデでの姫様とライクの戦いは、元々テイクした私が戦線離脱をして引き分けになる予定だったの」

 それは打ち合わせで聞いている。


「でね、戦いを終えて、えっちらおっちらと500kmも移動するのも面倒だから、あらかじめオロチを遠隔操作モードにしておいたの」

 それは初めて聞く謎機能。


「遠隔操作モード?」

 コールブランドですら知らないらしい。


「ええ。出力は3割方低下してしまうけれど、遠く離れた場所からオロチを操作できるの。もっとも、有り余る霊力が無ければ叶わない能力だけどね。そこでほぼ450km地点から操作していたら、御陵・御伽が何だか知らないけど私に殺意を向けてきたの」

 結果的に、イオリの大着ぶりが功を奏した事になる。


「でも、なんで病院から出てきたの?どこもケガをしている様には見えないけど」

 タツローがイオリの足元からなぞるように顔まで眺める。


 そんなタツローの視線に、イオリは顔を真っ赤に染めた。

「そんなのどうだっていいでしょ!!それよりも、嫌らしい目で見ないでよ!ホンットに気持ち悪いんだから」


 その気持ち悪いと思う男子にキスをしたのは、どこの何方でしょうか?


 コールブランドは思春期丸出しのイオリに、つい溜息を洩らした。


「下手に街中を出歩いて御陵・御伽とジョーカーに生きている事を知られないためよ。貴方があの女と会っている間は足止めにもなるし、こうやって平然と外出できるってワケ」

 それでコールブランドの妨害を阻止してくれたのか。


「ですが、イオリ様。こうやって我がマスターに生存を報せてしまった以上、マスターの口から貴女様の生存がジョーカーたちに知れてしまうのではありませんか?」

 コールブランドが危惧するのはもっともだ


「だから、僧正(ビショップ)ごときが女王(クィーン)に敵わないと申したであろう?」

 告げて、イオリはタツローの額に札を貼り付けた。


「え?何?何を貼りつけたの?」「そ、それは!?」

 あまりのコールブランドの驚き様に、タツローは不安に駆られた。


 イオリが何やらブツブツと呟いている。


 これは何かの呪文?


 とたん、頭の中が真っ白になってゆく感覚に襲われた。



 ………………。



「ハッ!」

 気が付いたかと思えば、病院の玄関前。


 立ったまま白昼夢でも見ていたかのような感覚。


 さらに驚いた事に、目の前にはコールブランドの姿が。


「マスター?」

 心配そうな眼差しでコールブランドが声を掛けてくれた。


「いや、君こそ、どうしてここへ?」

 タツローが問うと、コールブランドはさらに驚いた表情を見せた。


「あ、あの…姫様から召集が掛かっているのですが、一向にマスターが電話にお出になられないので、つい」

 ただ理由を尋ねただけなのに、何故、これほどまでに困惑しているのか?


「ええッ!?黒玉門前教会から?って、あんな遠くから、わざわざ迎えに来てくれたの!?」

 一言違えば、とんでもない勘違いを招いてしまう。


 コールブランドは、さらに困惑した。




 そもそも、イオリの指示そのものが無茶でならない。


「御手洗・達郎を御陵・御伽の元へと向かわせよ。私はその間に姫様の元へと向かう。くれぐれも達郎の邪魔立てはせぬ様、良いな?」

 念を押されてしまった…。


 ……約束を破ったら、申開きの余地なく確実に滅却されてしまう。


 命は元より、こんな下らない理由で戦線離脱してしまうのは、心から勘弁願いたい。


 コールブランドはイオリの指示に従う事にした。



「マスター…。何かお急ぎのご様子でしたが…」

 知っている理由を、さも知らないように訊ねる事の滑稽さ。


「うん。でも、ココミさんからの召集って滅多に無い事なのに、僕は出なくていいの?」

 コールブランドは顔を背けて舌打ちを鳴らした。


 何で止めた時にはオトギの元へと向かおうとして、見過ごそうとすればココミの元へと行きたがるのか??


「ま、まあ…私たち下っ端が行っても、ただ話を聞いているだけですし・・ハハハ」

 引きつり笑いを交えて、コールブランドは自虐ネタをブッ込んだ。


「さあ、行って下さい。マスターにしかできない事をおやりなさい」

 一体何の事を言っているのか?タツローは首を傾げながら、「う、うん」困惑した様子で送り出された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ