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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[26]闇を貪る者
307/351

-298-:目を覚ますのは、マスター!貴方の方です!

 病院から飛び出してきたタツローは、入口のスロープで車椅子の女性とすれ違った。


「マスター。冷静になって下さい」

 背後から聞えた声に、タツローは足を止めて振り返った。


 コールブランドが病院入口で待ち構えていたのだ。


「コールブランド!?」

 どうして彼女が、ココミの元を離れて外出しているのか?


 しかも、どうやって病院にいる事を突き止めたのか?


「どうして君が?」

 訊ねた。


「残る白側マスター全員に召集が掛かっています。鈴木・くれはからお聞きになられていないのですか?」

 てっきりクレハは姉の見舞いに来たのだとばかり思っていた。


 当のクレハは、そのような事を一言も言っていなかった。


「あの娘、伝言の一つも、まともにできぬとは」

 舌打ち交じりに文句を垂れる。


「マスター。高砂・飛遊午が御陵・御伽の凶刃に倒れました。ですので、後々のアンデスィデについて、姫様から皆にお話があるとの仰せです」

 タツローのあまりの驚き様に、コールブランドはそれすらも伝えていなかったのかと、さらに舌打ちを鳴らした。


「ご、ごめん。病院内は携帯電話が禁止だからマナーモードにしていて気付かなかった」

 スマホを確認したら、夕方頃から何度もコールブランドから電話が入っている事に気づき、今頃になって謝った。


 ことごとくペースを乱してくれるマスターに、コールブランドは業を煮やして、「さあ、急ぎましょう。姫様がお待ちかねです」黒玉門前教会へ急ぐよう促した。


「ダメだ。僕はどうしてもオトギさんと会って話をしなくちゃならないんだ」

 同行の拒否をするばかりか、あろう事か、敵となり害を及ぼしているオトギとの接触を図ろうとするタツローに、コールブランドの堪忍袋の緒が遂に切れた。


「あの女と会って、今更何を話すというのですか!?あの女はすでに我が陣営の騎士を2人も殺害しているのですよ!同情はなりません!」

 それでも!タツローは断固として同行を拒否。


「オトギさんに間違いを正して欲しいだけなんだ。彼女の目を覚まさせてあげたいんだ」

 上手く理由付けできない。もう、思った事を口にして自分の意志を伝えるしかない。


「目を覚ますのは、マスター!貴方の方です!」

 当然と言えば当然。こんな子供じみた理由でオトギの元へと行かせてはくれない。


 だったら!


 タツローはそのまま駆け出した。


 コールブランドは車椅子。何が何でも振り切って見せる!


「痛っ!」

 突然、左耳に痛みが走った。


 思わず宛てた手にヌメりを感じた。


 耳に触れた手に視線を移す。


 血!?


「コールブランド!君の仕業か!?」

 不思議と、それ以上の痛みを感じない。彼女に対する怒りが痛みを忘れさせてくれているのだろう。


「マスター。もう一度申し上げます。我が陣営の騎士が、二人もあの女によって殺害されているのです。すでに彼女は敵なのです。姫様は敵との交渉はなされません」

 敵の元へと向かおうとする者は問答無用に敵前逃亡と見なす訳か。


 アンデスィデには参戦したけれど、ココミの軍門に下った覚えは無い。


 鈴木・くれはが首無し(デュラハン)のジェレミーアを撃退したとの知らせを受けて、最初は信じられなかった。


 人間が魔者に勝ってしまうなんて…。


 到底歯が立たないと思っていたのに、驚くばかりだった。


 あの話を聞かなかったら、大人しくコールブランドに従っていただろう。


 だけど、今は違う。


 立ちはだかるというのなら、コールブランドという壁を乗り越えてやる。


 タツローはパンツのポケットを探り、小銭を探り当てた。


 霊力をまとった小銭を投げつければ、コールブランドにダメージを与えられるかもしれない。


 敗色の濃い賭けではあるが、可能性はゼロじゃない。


 霊力を込めるなんて、どうすれば良いのか?全然分からないけど、感情を混めたら霊力も込められるものだと信じるしかない。


 タツローはコールブランドを見据えた。


 やってやる!


 そう覚悟を決めた、その時。


「それで霊力が込められたら、苦労は無いわ」

 背後で自動ドアが開いたかと思えば、聞き覚えのある声が耳に届いた。


呪符(アミュレット)があれば、簡単に武器化できるのだけれど、無いと相当な訓練を積まない限り魔者や妖魔にダメージなんて与えられない」

 レクチャーしてくれる声が近づいてくる。


「コールブランド。構えなさい。さもなければ、貴女、死にますよ」

 驚いた表情を見せるコールブランドが、慌てて髪の毛の結界を張る。


 が、彼女の張った結界は意とも簡単に破られてしまった。


 一体何が起きたのか?タツローは見ていたはずなのに、攻撃手段を知る事ができずにいた。


「髪の毛に霊力を込めてコールブランドに発射したのです。ふっ、所詮は僧正(ビショップ)ごときが女王(クィーン)に敵う訳ないのに」

 タツローは、声の主の正体を、ようやく掴むことができた。


 そもそも、声に訊き覚えがあっても、彼女(・・)自身を除外していたために判断が遅れただけ。


「コールブランド。訂正なさい。御陵・御伽は、我々白の陣営の誰一人とて殺害などしておらぬと」

 ようやく横に並んだ声の主へと顔を向ける。


「何をジロジロと私の顔を見ているの!?気持ち悪い」

 この毒舌っぷり。それに煙草を押しつけられて焼けた眉毛。間違いなく“神楽(かぐら)・いおり”本人のものだ。

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