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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[26]闇を貪る者
305/351

-296-:………

 ところで、アンタ誰?


 クレハの、茫然とした眼差しに気付いた少女は、自ら名乗りを上げた。


「自己紹介がまだだったね。ボクはジョーカー。オトギの魔者ダヨ」

 それはそうと、クレハは急いでスマホの電話帳を開いてベルタを呼び出す。


「えー無視しちゃうのォ?」

 残念そうに告げていたものの、魔法陣から現れたベルタの姿を確認すると、小さく手を挙げて、「ちぃーすっ!」笑顔を添えて元気に挨拶。


 ベルタは召喚されると共に、足元に倒れ伏すヒューゴの姿、心配そうに付き添うクレハ、そして弓を手に佇むオトギへと目をやって、粗方の状況を把握した。


 どうして味方であるはずのオトギが主人(マスター)に危害を加えているのか?


 疑問は後回しに、ベルタは、ヒューゴの脈を取り、顔を近づけて呼吸の有無を確認した。


 すでに息はしていないが、まだ微かに脈はある。続けて傷口を確認。


 矢はヒューゴの体を貫いてはいるが、抜けてはいない。


 心肺停止の状態にはあるが、幸いな事に、おかげで失血死には至っていない。


「蘇生措置に入ります」

 クレハに告げると、ベルタは人工呼吸の手順に入った。


「無駄だよォ。そんな事したって。彼、もう死んじゃってるんだよ」

 必死になってヒューゴの命を引き戻そうと努力しているベルタに対して、ジョーカーは無駄な努力と笑って見せる。


「クレハ。直接彼の口に息を吹き込んで下さい」「え?」

 思いも寄らぬベルタからの人工呼吸要請。


 まだ恋人でもないヒューゴと唇を重ねるなんて…。


 だけど、戸惑ったのは一瞬だけ。


 命がかかっている状況で、恥ずかしがってなんていられない。


 手順はベルタが教えてくれる。何の問題も無い。


(これでタカサゴが戻ってきてくれるなら)

 祈る願いも込めて、ヒューゴの中へと息を吹き込む。


 同時に、人間の体温とは思えないほどに下がっている、今にも消えそうなヒューゴの命の儚さを、その唇を通して感じる事となった。




 オトギは、そんな彼らの姿を見届け。


「行くわよ。ジョーカー」

 弓を弓立てへと仕舞って、オトギはジョーカーに、弓道場からの退出を促した。


「ねぇねぇオトギ。もう少しだけ、彼らの様子を眺めて行こうよォ。ホラ!もうベルタの姿が薄っすらと透明になりかけているヨ」

 ジョーカーの言う通り、ベルタの体が透け始めていた。


 ヒューゴからの霊力が供給されなくなり、身体を維持する事ができなくなりつつあるのだ。


「お願いだよ。ベルタ。まだ消えないで」

 消え入りそうな声で、クレハが懇願する。


 不安に駆られたクレハに、ベルタは柔らかい笑みを返した。


「クレハ。貴女が願いを届けたい相手は、この私ですか?」

 優しく問い掛け、ヒューゴへと眼差しを向ける。


 クレハを取り巻く不安は、たちまちの内に消え去り、ベルタに首を強く横に振って見せた。


「戻ってきて!タカサゴ」

 願いは言葉となって。


「矢は胸を貫いているんだよ。命は片道キップで戻っては来れないのさ」

 他人の努力そのものを笑うジョーカーに、オトギはさらに強く退出を促す。


 二人が弓道場から立ち去って。




 クレハは再び唇を重ねると、ヒューゴに魂を吹き込む思いで息を吹き込んだ。




 しばらく経って…。


 ヒューゴの口元に、ベルタが耳を近づける。


「とても弱いですが、呼吸を取り戻したようです」

 瞬間、クレハが笑みを取り戻した。


「ですが、依然、予断を許さない状態には変わりありません。とにかくアーマーテイカーを呼んで彼の治癒魔法で生存率を上げましょう」

 後はアーマーテイカーに任せて、天に祈るしか手立ては無い。


 ベルタが連絡を取っている最中、クレハは立ち上がり、オトギたちが立ち去った弓道場の入口へと向いた。


「オトギちゃん…」

 彼女を許せない思いで一杯だったが、同じ痛みや苦しみを味あわせてやろうなどといった感情は、一切湧き起こらなかった。


 むしろ。


 こんな事をして、何になるのか?


 ただ、その疑問しか湧いてこない。



「そうだ!」

 思い出し、自分のスマホを鞄から取り出すと、早速タツローに電話を掛けた。


「もしもし?タツローくん」「はい…」

 電話に出た彼の声のトーンは異様に低かった。


「トラちゃんは無事?」「どうして、それを?」

 やはり、オトギが言った通り、トラミの身に何か起こっているようだ。


 確か、階段から突き落としたと言っていたのを思い出した。


「クレハさん。どうして姉さんが重傷を負った事を知っているんですか!?」

 感情をぶつけるように問い質す。


「重傷?トラちゃんの傷の具合はどうなの?」

 とにかくヒューゴと同じく命は取り留めたようだ。安堵するも。


「どうしてなんです!?教えて下さい!」

 家族として不安で居たたまれないのだろう。その気持ちは、たった今味わったので、よく解る。


「タツローくん。落ち着いて、よく聞いて」

 言ったところで、電話の向こうのタツローは興奮が冷める様子が無い。彼の荒い呼吸が電話で伝わってくる。


「トラちゃんに大怪我を負わせたのは、オトギちゃんなの。今さっき、本人から告白されたわ」


「…」


「……」


「………」


 通話障害でも生じているのか?と思えるくらいの長い時間、沈黙が続いた。


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