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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[26]闇を貪る者
302/351

-293-:折角なので、この際じっくりと話し合いましょう。クレハ先輩

 それは驚愕の出来事。


 アンデスィデの翌日の事であった。


 御陵・御伽が、普通に登校しているのを目の当たりにしたクレハは、言葉を失った。


 恐るべし、御陵・御伽。


 昨日、殺人を犯しておきながら、しれっと何事も無かったような顔をして、普段の生活を送っていることに、驚かざるを得なかった。


 事情を知らされていないキョウコやシンジュはさて置いて。


 とにかくクレハはヒューゴとタツローとで相談する事にした。


「早速だけどタツローくん。イオリちゃんは、やっぱり来てなかった?」

 ココミの報告が信じられないという訳でもないが、あのふてぶてしい“神楽・いおり”が大人しく殺されるようなタマではないと信じたい一心もあった。


 なので、事前に、タツローに教室まで確認しに行ってもらっていた。


「1年B組に行ってきましたが、彼女の席は空席でしたよ」

 タツローの報告。


「いやいや、そうじゃなくてさ。彼女が亡くなったとか聞きたいワケよ。クラスメートには確認取ったの?」

 知りたいのは出欠ではなく生死の確認だ。


 視覚的にも、机にお花が飾ってあるとかあるでしょう?


「訊ける訳が無いでしょう。男子の僕が彼女について訊ねるなんて、変に勘ぐられるのがオチですよ」

 何をしょうもない事を気にしているのか?まったく使えないヤツだ。


「曲がり曲がってオトギさんの耳に、僕がイオリさんを心配しているなんて伝わったら、彼女にどんな目で見られるか、心配で」

 それを取り越し苦労と言うのだよ。


 話を聞く二人は、同時に溜め息を漏らした。


 とはいえ、今のオトギなら、逆上してタツローを殺害しないとも限らない。


 結果を出せない男ではあるが、これ以上彼に探偵の真似事をさせない方が身のためだ。



 本人が学校に来ている事だし、クレハは直接オトギと話をする事に決めた。



  ―放課後ー



「オトギちゃん、良い?」

 迎えの車に乗り込もうとするオトギに声を掛けた。


「何の用でしょう?クレハ先輩」

 訊ねつつも、その目は険しさを宿していた。


 素直に話を聞く様子は無さそうだけど、とにかく話し合いたい。


「ちょっと、いいかな?」

 オトギは頷く事はしなっかったが、運転手に言伝をして、学校から出て行ってもらった。


 クレハは、走り去る車を見送ると。


「そんなに時間は取らないんだけど…」

 手早く済ませるつもりでいたのに。


「折角なので、この際じっくりと話し合いましょう。クレハ先輩」

 笑みを浮かべるオトギ。


 まさか、彼女の方からも話があるのか?何故か背筋の凍る思いをするクレハであった。


 オトギに連れられてやってきたのは、弓道場の射場であった。


「ここなら誰にも邪魔されませんよ」

 確かに部活は休止中ではあるが、誰かに聞かれて困るのなら、こんな開けた場所でなくても構わないのに。


 それに、オトギが弓立てから弓を手に取っているのも気になる。


「気晴らしに、矢を射りませんか?」

 誘いつつも、オトギの手にはすでに矢が握られていた。


 的も配していない的場に向かって、オトギは射法八節の“足踏み”に入っていた。とはいえ、すでに射位に入っている。


「あのね、オトギちゃん。悪いんだけど、弓を置いてくれないかな」

 気晴らしも良いけど、キチンと向き合って話がしたい。


 だけど、オトギは足踏みを終えて“胴造り”へと入ってしまっている。


「どうして神楽・いおりを殺害したのか?それを訊きたいのでしょう?」

 図らずも、訊ねたい事を、向こうから直球で訊ねてきた。


 でも、話には手順というものがある。


 それも訊きたい事だけれど、どうしても先に言っておきたい事がある。


 言っておきたいというよりも、今更であるけれど、どうしても謝っておきたい。



「確かにそれもあるけど、この間、タツローくんとのデートを尾行していた事を謝りたくて」


「ああ、どういうつもりだったか存知上げませんが、あの後、皆さん揃って帰られたので、話が途中で終わってしまいましたね」

 あの後、クレハ、ヒューゴ、タツローの3人はすごすごと帰ってしまった。


 それぞれがバツの悪そうな顔をして。


「あぁ、う、うん。大切なデートだったのに、ゴメンね」


「気にしていませんよ。別に。存分に楽しんだ後でしたので」

 そう言ってくれると、有難い。少しは気が楽になった。


 これで、この話はお終い。


 では、本題に入ろう。


「じゃあ、本題に入るね。本題と言っても、イオリちゃんの件とは別の話だけど、良い?」



 話の内容が、想定していたものとは異なることに、オトギは弓の下端を左膝頭に置き、弓を正面に据えた状態で、一旦手を止めてくれた。


「ええ。構いませんが」

 承諾を得て、クレハは話を始めた。


「どうして今回の共闘アンデスィデに参戦したの?クレイモアに仕返しが出来るから?それともお爺様の仇を討てるから?」

 訊ねた。


「どちらも同じ意味合いとしか受け取れませんが、実のところ、それもあったと思います。ですが、本当の理由は、これ以上、余所の魔導書(グリモワール)チェスに、この国で好き勝手をして欲しくなかったからです。その証拠に、私は彼らの誰一人とて殺害はしていません」

 面倒くさい答えが返ってきた。


 仇討ちをほのめかしておきながら、否定も忘れない。


 これでは、分からないと黙秘を続けているのと何ら変わらない。


「うそ」

 そっちがその気なら、真正面から否定して、突破口を切り開いてやろう。


「嘘?私が嘘を申しているとでも?」

 案の定、白を切るつもりだ。


「オトギちゃん。貴女はクレイモアを倒さなかったんじゃなくて、倒せなかったんじゃないの?妲己の妨害を受けて。山羊みたいな盤上戦騎(ディザスター)と戦っていた貴女の声のトーン。とても楽しそうだった」

 録画画像を見た自分なりの見解を、オトギにぶつけてみた。


 それでもオトギは、なおも素知らぬ顔を貫いている。


「言い掛かりですわ。クレハ先輩。あの時は、少し興奮していただけで、楽しかった訳ではありません」

 ムムム。これじゃあ、(らち)が明かねぇ…。


 話の組み立てとしてはムチャクチャではあるが、彼女の目を覚ますには、全てをスッ飛ばして本題に入るしかない。


「復讐を果たしてスッキリした?お爺様は、それで喜んでくれたと思う?」

 まったく会話になっていないのは、重々承知の上。だけど、効果はあった。


「何ですって…?」

 オトギの声のトーンが急に低くなった。

 

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