表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[26]闇を貪る者
297/351

-288-:まるで拷問器具ね

 その光景は、まさに天使たちの降臨。


 次々と天使たちが舞い降りてくる。そして。


 大多数同士が向かい合う光景を目の当たりにして、ココミは、これこそが真の王位継承戦だと感じた。


 これまでの戦いが、単なる小競り合いだったと思い知らされた。


 シャドーという軍勢を率いる能力を有する女王(クィーン)が参戦すれば、アンデスィデは、たちまちのうちに戦争と化す。


 名乗りを上げる者は誰ひとりなく、一斉に盤上戦騎(ディザスター)たちが火線を敷き、剣を交える。


 軍勢対軍勢の戦いの幕が切って落とされた。


 ココミの魔導書(グリモワール)には、次々と敵騎のデータが集まってくる。


 ラーナ・ファント・ドラコット率いるオリンピアの天使たち、通称アルマンダルの天使たちのデータが流れるように表記されてゆく。


 女王(クィーン)は太陽のオク。城砦(ルーク)は木星のベトール。


 そして僧正(ビショップ)は、以前、ライフの姿でヒューゴたちを襲った金星のハギト。


 それぞれが、白金色と金色、そして銀色の煌びやかな色彩を放ち、天使のような羽を背にしながらも、見た目からして残虐極まりない武器を手に戦場で暴れ回っている。



 コンソールタブレットに映し出された敵データをチェックしながら、御陵・御伽は彼らの天使とは程遠いシルエットと武器を心から嫌悪した。


「まるで拷問器具ね」

 見ているだけで吐き気をもよおす、その姿は。


 太陽のオクは、天使と呼ぶよりも、むしろ悪魔と呼んだ方が妥当な、山羊の頭と、携える大鎌は血を浴びて錆びたような茶褐色。


 訂正を入れるなら、悪魔よりも、むしろ死神を彷彿とさせる。


 木星のベトールはパワータイプ丸出しの巨体を誇り、立派な角を頂く水牛の頭に、巨大な杵のような打撃武器で、オロチが召喚したシャドーのベルタを一撃で地面に埋没させ破壊ししてしまった。


 金星のハギトは、まるで怪談に登場する“ろくろ首”のように、長い首をもたげる蛇の頭から炎を吐き、手には鎖を巻き付けたエクスキューショナーズソードを携える。


 元々は死刑執行人が斬首に用いたとされる刀剣ではあるが、ハギトの持つそれは、斬るというよりも、打撃武に近い。



 そんな中、ミュッセ軍のムルムルが、天使たちに囲まれ無残にも八つ裂きにされて(ほふ)られてしまった。


 それでもシャドーを2騎を倒しているので、兵士(ポーン)の駒としては善戦した方だと言える。


「フェネクス!其方(そなた)は下がっていろ!」

 彼を倒されてしまえば、アンデスィデは終了してしまう。


 ムルムルが抜けた穴を、妲己が埋めるべく前線へと躍り出た。

「行けるの?」


 訊ねるオトギの心配は、間を置かずして取り越し苦労に終わった。


 敵のシャドーのベトールを、瞬く間に蛇鉾の錆としてくれた。


 まるで舞うかのような華麗な槍さばき。


 映画の殺陣を間近で見ているようで心が躍る。オトギは思わず見とれてしまい、心奪われてしまった。


 !?


「妲己!ベトールが!」

 敵騎の接近に気づき、オトギが危機を報せるも。


「奴ならさっき屠ってやったぞ」


「違う!本物が右から、あぁッ!」

 ベトールのシールドバッシュが妲己の頭部を直撃。


 強烈な衝撃がコクピット内のオトギの体を揺らす。


 幸い、頭を飛ばされる事は無かったものの、ダメージは大きく、頭部は半壊。


 クロックアップが不可能となった。


「もらったぁ!」

 ベトールの頭頂部に浮いている光の輪が、大きく波打った。クロックアップを開始したのだ。


 オトギは戦慄した。


 10倍速の世界が襲ってくる!


 ベトールの巨大な杵が振りかざされる。叩き潰される!


 恐怖におののくオトギの口元に、突然×印の入ったマスクが現れた。


「!?」


 全ては、瞬く間に行われた。


「妾を見くびるなよ」

 ベトールの巨体が大きく跳ねた。そして、その頭部は、胴体から離れて蛇鉾の先に突き刺さっていた。


「そんな…バカな」

 体勢を崩すベトールに損傷回復(リペア)を使う間すら与えず、妲己は六芒星を描くように刃を走らせて敵の四肢を分断した。


 光の粒となって消滅してゆくベトール。


「妲己…貴女…」

 驚くあまり、言葉が出ない。


「あの程度のダメージでは、妾は仕留められぬよ」

 オトギが震えた。


 一瞬にしてダメージを回復する能力。


 これが敵ならば、これ以上恐ろしい相手はいない。


 しかし、今。


 これほどまでに頼もしい能力があるだろうか。


 オトギは絶対的な強さに、震えを抑えられない。


 またもやシャドーが迫ってくる。


 この敵は知っている。


 水星のオフィエル。草間・涼馬が仕留め損なった相手だ。


 胸躍るあまり、オトギは無意識のうちに。


「死ねぇ!」

 自らが叫んでいる事にさえ気づいていない。


 敵騎を破壊する妲己は、そんなオトギを不安に感じた。


「どうした?オトギ」

 訊ねずにはいられない。


「え?私が、どうかしましたか?」

 質問に質問で返すオトギ。


 彼女は何を訊ねられているのか?まるで自覚していないようだ。


「もしやと思うが、其方、(いくさ)を楽しんでおるのではなかろうな」

 思いも寄らぬ妲己の問いに、オトギは驚きを隠せない。


 無意識の事を問われているため、何を言っているのか?まるで理解できない。


 それでも、“戦いを楽しんでいる”と言われてしまえば、自身の変化に戸惑いを感じずにはいられなかった。


「わ、私…今、何を…」

 誰に問うでもなく、思わず呟いてしまう。

 と、その時。


「オトギは思うようにすれば良いんだよ」

 ジョーカーの声を耳にした。


 咄嗟に耳に手を宛ててみる。今のは、心に聞こえる声?


 しかし。


「今のは誰の声じゃ?」

 妲己が訊ねているではないか!?


 そんな…。


 それは心の声なんかではなく、事実、音声として聞こえる声。


「オトギの声では無いな。答よ。誰がオトギに語りかける?」

 妲己が問われ、オトギはコクピット内を隅々と見渡すも、誰の姿も見当たらない。


「シャドー!?」

 その最中、オトギの視界にシャドーが入った。



 ブゥンッ!



 咄嗟の出来事だった。



 何故かしら、妲己の騎体はオトギの思うままに敵シャドーを一閃に斬り伏せていた。


「何じゃと!?」

 驚く妲己の声を聞き、今の挙動が彼女のものでは無いと、オトギは察した。


 どうして私が、妲己をコントロールしているの?


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ