-27-:考え中
スマホに記録されたココミたちのチェス盤を今一度確認してみる。
目を覆いたくなるような随分と荒れた局面。
惨状と言っても過言ではない。
確認の前に、チェス盤には数字とアルファベットが割り当てられている事をおさらいしよう。縦の列と横の行にも名前があることを忘れてはならない。
チェス盤には、縦の列には、白側から見て左から右へ aからhの文字が割り当てられており、横の列には、白側の手前から上部へ 1から8 の数字が割り当てられている。
よろしいかな?では現在の盤面を確認してみよう。
白側は。
キングは初期配置のままe1。
クィーンはa1にルークは2つ共に失われている。
ビジョップはf5、f4に、ナイトはh4。
ポーンは4つで初期配置のままのc2、e2、f2と、そしてすでに動いているg3。
失われている駒はポーン4つとナイト1つにルーク2つ。
クィーンサイドはビショップがキングサイドへ逃げ遂せているから、クィーンとポーン1つだけとなっており非常に寂しい光景である。
では、黒側も見てみよう。
キングは初期配置のe8。
クィーンも初期配置のd8。
ルークは1つ失われており、残りはh7へと移動している。
ビショップは、キングサイドは初期配置のf8に待機。もうひとつはh1に位置している。
ナイトもキングサイドは初期配置のg8に待機中。もうひとつはf6へ移動を果たしている。
ポーンは8つ全て顕在でb3、b6、c7、d4、d6、f7、g7、h6とすでに白側の駒を取りファイルを移動してしまっている駒もある。
チェスではゲームの評価に、駒の強さを点数として合計点数の多いことをマテリアルアドバンテージと呼び、駒が良い位置を占めることをポジショナルアドバンテージと呼ぶ。
さらっと計算して、まずキングは勝敗の決定に関わるので共に除外して、白側(ココミ側)はクィーン9、ビショップは4として×2で8、ナイト3とポーン4つなので4を合計して24。
黒側(誰かな?)はクィーン9、ルーク5、ビショップ4×2で8、ナイト3×2で6、ポーン全て顕在なので8の合計36。マテリアルアドバンテージはあえて計算するまでもなく黒側にある。
戦力差は単純計算して2対3といったところか…てか、黒側はルークをひとつ失っているだけではないか。
では希望を託してポジショナルアドバンテージはどうかというと・・ルールをおさらいしたばかりのクレハとヒューゴには評価のしようがない。
「どうするの?コレ」
クレハがパンを食みながら訊ねた。
「考え中」
パックのコーヒー牛乳に挿入されたストローで、チューと音を立てて啜りながら答えた。
何手先を読むとか、そんな芸当を期待されても困る。
そんな中考えられる手は。
現在安全確保できて相手の駒を取れるのはc2ポーンとa1のクィーンのみ。
だが、c2ポーンはすでにb3黒ポーンに狙われている状況なので逆にc2ポーンでb3黒ポーンを取らざるを得ない。
間違ってもc2ポーンを2マス前進させてはならない。
なぜならば、d4黒ポーンによってアンパッサンを食らってしまうからだ。 そうなっては悪戯に駒を減らす結果となってしまう。
悪手の中でも最悪の手だ。
「やっぱりc2だよなぁ・・」またチューとコーヒー牛乳を啜る。
「あっ、そうだ!」食んでいるパンを飲み込んでクレハが声を上げた。
「私たちみたいな素人が考えても良い手なんて見つからないって。こういう場合は経験者に聞いちゃえば良いんだよ」
「誰に訊くの?」
ヒューゴの問いにクレハは頭を悩ませた。
1時限目及びその他の授業でヒューゴは、クラスの心証を最低レベルまで悪化させている。
もはやこのクラスに味方は存在しない。
他のクラスにもチェスをプレイしているような人物に心当たりは無い。
「しょうがない。教師の中には一人くらいチェスの心得のある人がいるだろう」
ヒューゴの提案に、クレハはただただ。
「正気かよ…」




