-273-:見てるぅ、クレハ
ココミたちは、個々の戦闘スキルUPを図って、バーチャル・リアル略して“VR”アンデスィデを用いて訓練を行っていた。
「こんなチュートリアル機能があるのに、どうして毎回ぶっつけ本番なんかしていたの?」
クレハは、魔導書のページに映し出されるライブ映像を眺めながら、機能を生かし切れていないココミを嗜めた。
VRアンデスィデとは。
魔導書の機能ページのひとつで、盤上戦騎には搭乗できるも、実体化することなく、あくまでもデータ上で戦闘を行うチュートリアル及びトレーニングモードの事である。
すでに失われた駒も参戦できるので、猪苗代・恐子は現在、高砂・飛遊午が駆るベルタと対戦中であった。
「行くわよV‐10。ベルタを叩き潰すわよ」
「…了解」
まるでゲームをするかのようにテンションの高いキョウコとは対照的に、当のヴェン・テンは低血圧なのか?声も小さければ言葉数も少ない。
V‐10の騎体は。
7本の替え腕を襟に連ねて、さも髪のようになびかせている。
両腰に刀剣類の代わりに2連装のミサイルランチャーを備え、膝には打撃力を高めるニースパイクを備える。
ベルタと同じく近接戦特化仕様騎であるが、ベルタが基本ステータス値を下げて関節強度をMAX値まで引き上げているのに対し、ヴェン・テンは基本値はそのままに、肩関節から腕を取り換える事によって継戦能力を高めていた。
ベルタの脇差しと、ヴェン・テンのナックルガードが激しく打ち合う。
手数で圧すヒューゴの二天一流剣術ではあるが、両拳に加え、肘や膝を駆使するキョウコのムエタイの技に、次第にベルタは巻き返しを許す事になる。
ヴェン・テンがいきなり背を見せた。
と、一気に回転して裏拳をベルタの側頭部めがけて放ってきた!
「もう、その手は食わない!」
裏拳なら、すでにウォードベスが駆る深海霊のカムロが繰り出したのを受けている。その対処法なら!
脇差しの石突きを逆に打ち付けてやる!
これも、耳翼吸血鬼のスグルとの戦いで繰り出した技だ。
あまりの威力に、ヴェン・テンの拳が砕け散ってしまった。
「あんなに破壊力があるのか!?」
ヒューゴが驚いている最中、ヴェン・テンは拳を失った腕を、肩関節もろとも破棄。
襟のレールから新たな腕がスライドして、腕を換装するなり、すぐさま殴り掛かってきた。
再び激しい打ち合いが始まる。
「それにしてもキョウコちゃん、試合になると、あんなに豹変しちゃうんだ…」
美人でスタイルも良く、さらに家柄もよろしいキョウコは、ベルタを見て大騒ぎするまではクラスの中心人物であった。
多少口うるさい面も持ち合わせてはいるけれど、大体対象になるのはクレハ、ヒューゴ、トラミの3人なので、彼女の人気に陰りは無かった。
暴漢3人を病院送りにしたときは、それはもう、クラスはもちろん、学年での人気はバスケ部のエース貝塚・真珠に次ぐものだった。
ところが、盤上戦騎のベルタを見て、皆に逃げるよう指示したとたん、彼女を見る周囲の目は一変、今まで彼女を取り巻いていた女子は、揃って彼女から距離を置くようになった。
それでも今でも彼女の世間一般の評価は“おしとやかなお嬢様”なのである。
ベルタの顔面にクリーンヒット。
「やばい!クロックアップ!!」
先にベルタがクロックアップを発動!ヴェン・テンも間を置かずしてクロックアップを発動!
同者の動きがとたんに早送りになる。
もはや魔導書のページから眺めているココミたちには何が起こっているのか?目で追う事は叶わない。
両拳に加えて肘や膝蹴りを駆使するキョウコに、ヒューゴは隠し腕を展開させて対処。
それでも激しい打ち合いは続き、とうとうベルタの脇差しが肘打ちを受けて砕け散ってしまった。
さらに!
ヴェン・テンの飛び膝蹴りを受けてベルタが地面へと叩き付けられた。
「チェックメイトよ!ヒューゴくん!」
叫んで一旦解除したクロックアップを再び発動!
霊力の高さという決定的な違いを見せつけられる事となる。
空中に浮遊素で構築した場を作り、それをジャンプ台にするかのごとく足場にして地面に仰向けの体勢でいるベルタめがけて突進!
推進器による速力の変化が見られないクロックアップ中の、唯一の速力アップの手段を用いての助走とも言える。
何たる対応力!
ただでさえ打撃力の高いキョウコのパンチに加えて加速力まで加えてくるとは。
脱帽するばかり。
ダダダダダダダ!
あと一歩でベルタを完全粉砕にできるという距離で、突然背後から銃撃を受けた。
機関砲の火線が連なり迫ってくる。
思わぬ乱入者に、キョウコは一旦ベルタから離れた。
すると。
「ウゥリャアァァ!」
ヴェン・テンは乱入者の回し蹴りを食らうも、キョウコは両腕でガード。だけど遠く後ろへと蹴り飛ばされてしまった。
「クロックアップ中に声!!」
魔導書でライブ映像を眺めていたクレハが驚いた。
こんな事ができるのは、アルルカン最終形態だけのはず!
しかし、画面に映るのは、アルルカン3ではない。
「なんなの?コイツ」
後ろに三つ編みに束ねた髪が、後腰部に下げている予備のショートソードの石突き部分にある輪に通されて結ばれている。
踵に杭、おそらくパイルバンカーを備え、腕にはすでにショートソードを握っている。
ヴェン・テンが放ったミサイル4発を全て、その謎の盤上戦騎は顎に内蔵されているバルカン砲で破壊。さらに。
爆炎と黒煙を突き抜けてヴェン・テンの背後へと回り込むと、ヴェン・テンの延髄に踵のパイルバンカーを打ち込んだ。
「猪苗代!」
思わず叫び、ヒューゴはクロックアップを解除してしまった。
「お前、それで勝てるのか?この刹那に」
!?
セツナが繰り出すショートソードの撫で斬りを、ベルタは腕のサバイバルナイフで受け止める。
しかし。
踵落とし、前蹴り、回し蹴り、最後に前蹴りの4連蹴りを全て片足で繰り出す攻撃に、ベルタは成す術も無く打ちのめされた。
紛いもなく、その高速動作はクロックアップの動きによるものであった。
倒れるベルタに顎のバルカンを容赦なく撃ち込む。
騎体にノイズが走り、ベルタが消滅。
「ヒューゴ…くん」
ヨロヨロと立ち上がったヴェン・テンの胸に、セツナは前蹴りを繰り出すかと思えば、ただ足を着けるだけ。
バコォーン!!
ヴェン・テンの胸を鉄の杭が貫いた。
踵のパイルバンカーを放ったのだ。
ぐったりとするヴェン・テンの体にもノイズが走り、ベルタと同じく消滅。
「そ、そんな…タカサゴとキョウコちゃんを瞬殺するなんて…」
クレハは、凄まじい戦いぶりを見せつけたセツナを、ただ画面越しに茫然と見つめる。
「見てるぅ、クレハ」
そんなクレハに向かって、セツナが画面に向けてVサインを送った。
ふざけるな!!
その声には聞き覚えがある!
セツナのマスターは、同じ鶏冠井道場出身の、掃部・颯希だ。




