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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[24]白き闇、黒き陽光
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-263-:これが世に言う“ツンデレ”というヤツか!

 ウソでしょ!?


 思うも、声に出せないクレハ。


 ツウラは確かにこの手で仕留めてしまった。勢いでやってしまったとはいえ、それは今でも後悔している。


「どうしたの?聞こえてる?聞こえてますかー?」

 一向に声を発さないクレハにしびれを切らして、ツウラから再度声を掛けられた。


「あ、う、うん」

 でも、どう対処すれば良いのか?


「元気だった?」

 訊ねられるも、ここで迂闊に「ツウラさんも元気だった?」と返す訳にはいかない。返してはいけない。


「う、うん…。あ、あのね」

 ここは、やっぱり謝るべきだろう。どんなに激しく非難されようが、それは致し方の無い事である。


 だが。


「私の事なら、気にしないで。あれは、そういうルールの下に行われたんだから」

 そう言ってくれるのは、心から有難いと思う。だけど、もっと早くにシンジュたちを撤退させていたら、無駄に倒す必要も無かったのは事実。


「でも」

 やはり謝りたい。


「“でも”も謝罪も良いからさ。クレハの事だから、罪悪感に苛まれていると思ったのよ。だから、こうして連絡したのよ」

 たいして話もした事もないのに、昔から知っているような素振りに驚いた。


 今頃になって後悔してばっかりだ。もっと仲良くしておけば良かったと。


「ねぇクレハ。貴女との用件はこれまでとして、ひとつ思う事があるんだ。だから、リョーマと代わってくれないかな?」

 リョーマくんと?不思議に感じつつも、ツウラの願い通りに、リョーマと電話を代わる事にした。


 リョーマを見つけるなり、他人の間をかいくぐって彼目指して歩き出す。


「あっ、ちょっと、私のスマホ」

 シンジュもクレハを追ってゆく。と、「ロボはパーティーを楽しんでいて」ひとまず離れた。



「リョーマくん!」

 スマホを掲げてリョーマを呼ぶと、彼がこっちに向いてくれた。


「やあ、鈴木さん。写真を撮って欲しいのかい?」


「誰がお前なんかと!それよりも、ツウラさんから電話だよ。リョーマくんと代わって欲しいんだって」

 スマホを渡した。


「ツウラから?彼女はとっくに」「いいから、電話に出て!」首を傾げながらも、催促されたので仕方なく電話に出た。


「リョーマ、お久しぶり。元気だった?」

 社交辞令の挨拶にしては、やけに馴れ馴れしい。


「君たちに殺されかけたけど、なんとか無事に元気だよ。それよりも何の用だ?」

 嫌味を込めて返してやる。


「アンデスィデの後、建前・静夏が貴方の下を訪ねたと思うけど」「ああ、来たよ」

 どうやらツウラはシズカの変調に気付いていたようだ。


 普段のシズカは、格闘家とは思えないほどにオドオドとした態度を示していた。それが、アンデスィデでは凶戦士のごとき戦いぶりを見せていた。


 あれはアルルカンの戦闘能力を底上げするために、パイロットを興奮状態にさせ、さらに破壊衝動を煽る機能が備わっていたからである。


「彼女、僕たちに謝っていたよ」

 結果を伝えた。


「そうじゃないの!彼女の性格、アンデスィデの時とまるで違っていたでしょう?」

 ツウラに訊ねられ、リョーマは見えぬ電話の向こうの相手に頷いて見せた。


「貴方たちは平気?私、クレハと戦っていて、ちょっと気になっていたの。彼女、肝が据わっているっていうか、腹をくくり過ぎって。ケンカ慣れしていても、銃口にまったくブレが見られなかったわ」

 言われてみれば、リョーマはクレハの事が頼もしく思えるあまり、彼女が普通の女子高生だった事をすっかりと忘れていた。


 的を外さない自信があるにせよ、あそこまで派手に銃撃戦が出来るものなのだろうか?


「まさか、僕たちの騎体にも、アルルカンのような機能が備わっていると?」

 それは心の片隅に追いやっていた疑問でもあった。


 自然災害の名を冠する盤上戦騎を駆るマスターが、いちいち躊躇(ちゅうちょ)していては戦いにならない。


 パイロットの心のタガは外れていれば、盤上戦騎は本来の力を遺憾なく発揮できる。


「私のマスターもそうだったのよ。絶対に勝てない相手だというのに、無謀にも格闘武器でクレハに挑んで敗北したのよ」

 恐ろしい事に、恐怖を抱いて戦いを退く事すらしなくなるのか…。


「だから、気をつけて。これはたぶん、ココミも知り得ていない盤上戦騎の隠された機能だと思うの。貴方たちが戦いに気を取られるあまり、破壊衝動を抑えられなくなるような事だけは、何とか策を講じて防いで欲しいの」

 ツウラから伝えられた懸念は、当のリョーマも抱いていた。


 何か、きっかけでもあるのか?疑念を抱くも、果たして自身はどうだったのか?平常心でいられたのか?まず、その事実を突き止めなければならない。


「分かった。とりあえず、この事はココミとライクに伝えてみるよ。ありがとう、ツウラ。みんなの事を心配してくれて」

 心からの感謝の言葉を述べた。


「べ、別に貴方の事なんて、何とも思っていないんだから!」

 それだけ言って、向こうから電話を切ってしまった。


 それでもツウラには感謝している。


 不本意な戦いだけは、何としても避けねばならない。


 それにしても。


 リョーマは、ふと切れてしまったスマホを見つめた。


 これが世に言う“ツンデレ”というヤツか!

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