-161-:また、エラいのを出してきたわね
クレハたちの目の前に3つの光り輝く魔方陣が出現。
1つは赤色の、あとの2つは青色に輝く魔方陣。
グルグル回転した後、一気に上昇。そして中から人が現れた。
「あら、丁度いいわ。さっきの続きを始めましょう」
その声はライクたちの方から。
声の主は、テンガロンハットを被り顔や手、まとうトレンチコート以外から覗く部位を包帯でグルグル巻きにした男性。
木乃伊のアルルカン。
手首に巻いている包帯を解いて、すでに戦闘態勢に入っている。
「まだ、やんのかい!?」
思わずツッコミを入れてしまうクレハ。
彼女が手前の魔方陣から現れた人物を見渡すと。
高砂・飛遊午に草間・涼馬そして。
メイドさん!?
紺色のストレートヘアーにフレームレス眼鏡をかけた、メイド服を着た長身の巨乳美女。
「ま、また、エラいのを出してきたわね…」
驚くあまり、クレハは、彼女が手にする細身剣が目に入っていない。
いきなりの美女の登場に、ヒューゴとリョーマも驚きを隠せない。ついでに二人とも顔を真っ赤に染めている。
「まだ続けると言うのなら、受けて立ちます!」
レイピアを横一閃に走らせて臨戦態勢に入ると共に、膝上丈の短いスカートがヒラリと舞う。
「ココミちゃん。アレ、もしかしてダナ?さん?」
思わず“さん”付けしてココミに問うも「え、ええ」困惑した様子。
まさかのメイド姿に驚きを隠せずにいた。
対峙するダナとアルルカン。
「あれ?」
突然、ヒューゴが声を上げた。
皆が彼に注目する。
「今の声、ダナさんだよね?じゃあ、クィックフォワードは何処にいるんだ?」
ヒューゴの疑問に「不具合が生じているのですよ」すかさずココミが即答してくれた。
すると、ココミはライクへと向くと。
「こちらにはベルタさんもいます。ライク、ここは一旦、剣を納めては頂けませんか?」
告げつつ、2回ほどウィンクして見せた。
「あ、ああ」
何かを思い出したかのような表情を見せて、ライクはサッと右手を上げる。
「退くぞ。アルルカン」
皆に撤退命令を下した。
「え、えぇ~ッ!?ウソですよね?ウォーフィールドもいるのに撤退ですかぁ?」
ライクの下した命令に納得がいかない様子。
「坊ちゃまのご決定に何かご不満でも?」
ウォーフィールドの視線を受けて、アルルカンは背筋に氷を入れられたかのようなリアクションを見せた。
「い、いいえ。滅相もございませんわ。ホホホ」
包帯で隠した顔からは表情を掴むことはできないが、明らかに冷や汗をかいているのは話口調から理解できる。
ライクがウォーフィールドを従えて去ってゆく。
やや不満げに、アルルカンも彼らに続く。そして。
「いくわよ。マサムネ」
声を掛けた先に、初めてマサムネなる人物がいた事に気付いた。
「えぇッ!いたの?」
全員の視線がマサムネへと向けられる。
マサムネとは。
日焼けした、ドレッドヘアーの。
顔の半分を隠すほどの、サイバータイプ・ワンレンズサングラスを掛けた。
長身の、やけに肩幅の広い。
太った学生。
学ランの前をはだけているというよりも、単にボタンが留まらない?と疑問を投げかけたくなる出っ張り具合。
見た目インパクトがもの凄いのに、とても影が薄い。
と、そのマサムネがヒューゴたちの方へと向かって走り出したではないか。
すぐさま危険を感じて、主のリョーマを守るべくダナが間に入るも、「大丈夫。下がっていろ」マスターの命令を聞き入れて、素直に退き下がる。
と、マサムネが跳んだ!
「コイツ、デブなのに!?」
口にしたのはクレハだけだったが、おそらくその場にいた誰もが同意見。
マサムネの跳躍力は凄まじく、ヒューゴたちの頭頂高よりも高く跳ぶと、横並びに立つヒューゴ、リョーマの顔それぞれにキックをお見舞いした。
二起脚。
高く跳躍し、空中で続けて左右の蹴りを繰り出す、蹴り技の中ではかなり難易度の高い大技。
倒れ間際にリョーマは、悔しそうに「コイツ、デブなのに…」ポツリと呟く。
トン。
軽く着地を果たしたマサムネは、倒れる二人を見下ろして。
「お前ら、超バテ過ぎ」
それ以上の追撃を仕掛ける事もせずに、待っていたアルルカンに「待たせた」と告げる。
そんな彼らをクレハは。
「ちょっと待って」
呼び止めた。
二人の足が止まった。
「アンタ、さっき戦っていなかったでしょう?」
突然のクレハの指摘に驚いたのはココミだった。
「な、何を言っているのです?クレハさん?」
訊ねてきた。
「明らかに動きが違うのよね。たった今見せた動きと盤上戦騎の時とで」
クレハはマサムネを見据えて。
「身体のキレが全っ然違うのよね」
マサムネがクレハへと向き直った。




