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盤上の兵たちは最強を誇るドラゴン種…なんだけどさ  作者: ひるま
[1] 高砂・飛遊午
15/351

ー13ー:良い的になるだけじゃねぇか

 ヒデヨシたちがライクの話に耳を傾けている隙に。


 ヒューゴはベルタの、両手のサバイバルナイフを前に突き出させて飛び立たせていた。


 両手のサバイバルナイフの切っ先を15度ほど下方に向けて、しかも騎体はうつ伏せに寝た状態。

 つまり水泳で泳ぐ姿勢だ。


 ベルタの挙動に気付いたキャサリン、ソネ両騎は横に並んでランスに内蔵されたマシンガンで迎え撃つ。


 しかし。


 2騎とも両手で構えての射撃なのに、ベルタには掠りもしない。



「ヒューゴ、うぅっ。この体勢、ちょっとキツいんやけど」

 うつ伏せの状態…今、重力に引っ張られているルーティの体を支えているのは、お腹に回されたヒューゴの左腕のみ。


 通常、戦闘機の形状は速力向上と燃料消費の節約を兼ねて空気抵抗を減らすよう求められている。また、レーダー波に感知されにくいように反射率を抑えるため、正面から見た面積は可能な限り小さく抑えられている。


 つまり“投影面積”は必然的に小さくなっているのだ。


 投影面積とは“前面投影面積”とも呼ばれ、これは3次元の物体に対して正面から光を当てた場合に、後方に設置された壁にできる2次元の『影』を意味する。

 が、おおまかに“物体が視認される大きさ”と解釈して差し支えない。


「さっきから不自然だったんだよな。何でみんなして、突っ立った姿勢のままで空飛んでんだろ?って。あんな事をしていたら良い的になるだけじゃねぇか」

 告げるも、当のルーティはそれどころではない。内臓がよじれそう。


 今のベルタは投影面積を著しく下げて、さらにサバイバルナイフに傾斜を持たせることによって、万が一被弾しても最低1発くらいは弾き返せるように心掛けている


 さらに、機体を左右にローリングさせて回避運動。

 射線軸が定まらずに、黒側2騎は無駄に弾をばら撒くだけ。


 その間、ベルタのコクピット内はミキサーに入れられた果物のよう。ただしブレードによって切り刻まれる心配は全く無い。


 一方で、ココミの魔道書からは絶え間なくルーティの悲鳴が聞こえていた。



 ヒューゴはベルタを文字通り、キャサリンとソネの間に割って入らせた。


 とても幸運だった。


 勝利条件を問うた時に、敵の大将であるライクが話に加わった事で敵騎体のマスターたちが一瞬とはいえ戦いの手を止めてくれた。


 おかげで飛行姿勢を変える時間も作れたし、何よりも1発も被弾せずに密接距離まで接近できたのは幸運と呼ぶしかない。


 とても短く、長い距離だった。さあ、反撃だ!



 ソネの頭部の、まるで自転車レース用ヘルメットが前にズレて両眼を覆った。


「アカン!ベルタはん、こっちもバイザー下して!」

 上に向かってルーティは叫ぶと、ヒューゴへと向いて。「ヒューゴ!死ぬ思うくらいまで息を止めときや!でないと本気(マジ)で死ぬから!」


 ベルタのバイザーも下された。

 視界はスリット越しになったので良く解る。


 すると、ヒューゴの口元に×印の付いたマスクが現れた。

 立体映像(ホログラフィック)のようだ。

(何だ?これは)


 するとキャサリンもバイザーを下してランスによる突きを仕掛けてきた。

 ソネはランスを振り下ろしている。


 ソネの攻撃は左手のツメ(サバイバルナイフ)で受け止めて右手のツメでソネの腕、胴から脇腹にかけて撫でるように刃を滑らせて行く。

 火花を散らせて浅いながらも傷跡を残していることから確実にダメージを与えている。


 キャサリンの突きをかわすと体を反転。今度はキャサリンを両のツメで、またもや刃を滑らせてダメージを与えてゆく。


 突きを終えたキャサリンは柄を両手で握ってそのまま横へとランスを振り抜いた。が、突き進みながらランスを下から振り上げてきたソネと互いにランスをぶつけ合いそうなハプニングに見舞われた。


 その間にもベルタはツメで双方の騎体に傷を付けてゆく。大きなダメージは与えていないが一方的に攻撃をHITさせている。


 武器の“取り回し”がこの戦闘を大きく左右している。


 キャサリンとソネが使っている馬上槍は、本来は馬に跨って突撃(チャージ)を仕掛けるためのもので、その重量や大きさから振り回したり打ち付けたりするのは難しく、ある程度敵との距離を必要とする。


 一方ベルタのサバイバルナイフは密接距離で真価を発揮する。


 黒側の両騎が未だ密接距離にあるにも関わらずに、同時に突きを仕掛けてきた。


 ベルタはツメを2騎のランスの切っ先に当てることで突きの軌道を逸らせて、ソネのランスはキャサリンのヘルムの側頭部を、火花を散らせて掠めてゆき、挙句キャサリンのバイザーの可動部を破壊してしまった。

 

 一方のキャサリンのランスも、ソネの右腕の袖部分のシースルー生地を大きく引き裂いた。ソネのバイザーが開いた。


「むはぁー」

 ヒューゴは限界を迎えて大きく息を吐いた。と、ホログラフィックの気泡が口から上方へと昇ってゆく。まるで水の中にいたかのように。

 同時にベルタのバイザーも開いた。


 キャサリンがソネの左肩を掴んで顔面を近づけていた。


「え?えぇーッ!?」

 クレハは驚きの声を上げた。と、顔は本とココミを行ったり来たり。


「ど、どうなってるの?今の。ベルタが敵に近づいたと思ったら、キャサリンがソネに詰め寄ってるじゃん。それに、いつの間にか敵の騎体にいっぱい傷が付いてるし」

 とても理解できない状況だった。

 確か全騎がバイザーを下したのはハッキリと見た。


 が、その先1分間ほどは、残像に残像が重なって何が起こっているのかサッパリ解らなかった。


 そんな中、ココミは呟いた。

「彼らは“クロックアップ”を発動させたようですね」


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