ー11ー:生きてますか?先輩
時は数分ほど遡って。
チーム戦国のヒデヨシこと山田・疾駆は生命の危機に瀕していた。
彼の駆る黒側の盤上戦騎、骸骨亡者のキャサリンが敵騎ベルタの隠し腕に捕まり、今まさに握りつぶされようとしていた。
騎体の損傷度合いを示すダメージゲージが、両腕と胴体の計3箇所だけで20パーセントを超えてさらに上昇中。危険を知らせるアラートがコクピット内に赤色照明の点滅と共に鳴り響く。
「あの肩の部分が怪しいと警戒していたんだが」
ベルタの隠し腕を振り解こうともがくも、隙間無くガッチリと掴まれているので身動きが取れない。
さらに盤上戦騎の構造は、手首の部分は人間と同じく360度回転できず、せいぜい270度くらいにしか左右に回せない。ロボットプラモデルのように“エ”の字のパーツが溝に収まった構造ではないのだ。
敵騎ベルタの手首から肘部分にかけて“ハ”の字状に板状のシリンダーが伸びている。
どちらかが伸びてどちらかが縮むことによって手首を左右に回転させる仕組みだと分かり易い。
それにしてもベルタは何故か内部機構が丸見えの箇所が多々見られる。
手首を回転させて馬上槍をぶつけようにも回転幅が狭いために、遠心力も得られないままただ隠し腕を小突くだけ。
キャサリンの両肩上部に付いている“手”の形をした補助装甲では、紐を解くような器用な作業はできない。せいぜい回転させて飛んでくるミサイルなどを叩き落とすことくらいだ。
「きゃあぁぁぁー!」
キャサリンが堪えきれずに悲鳴を上げた。
「な、何とかする。キャサリン!すまねぇ。もう少し堪えてくれ」
言ったものの何の手立ても思い浮かばない。
ダメージゲージはなおも上昇中。30パーセントを超えた。
アンデスィデ強制退場となる60パーセント超にはまだまだ遠いが、コクピット部分に当たる胴体がダメージを被っている。
もはや危険域に達そうとしていた。
そんな中、レーダーに反応あり。
識別信号は味方を示している。
僚騎である飢屍のソネがようやく戦場に到着したのだ。
だが、味方の到着による安堵の感情など一切湧くことなく、むしろソネを駆る主人のミツナリに対して疑念が湧き上がる。
それは、黒側のプレイヤーであり彼らの王として君臨する亜世界の少年ライク・スティール・ドラコーンから『おおまかな騎体特性』を聞かされていたからだ。
“スケルトンのキャサリン”は、すべてに於いて平均的で無個性に設定された騎体であり、ステータスの割り振りには一切手を加えていない。
強いて言うならば、“分解”なる特殊能力を有することくらいだと。
一方の“ゾンビのソネ”は全騎体中最も小型で6.7メートルの頭頂高しかなく、また生け贄の権利を行使して弾数は一発だけではあるものの強大な破壊力を有する火器を所有している。
その他、初期値を少しずつ下げる代わりに、最大速力に大きく数値を割り振っているとの事。
“噛み砕く”特殊能力など、この際どうでも良く、何故キャサリンよりも脚の速い騎体でありながら今になってようやく戦場に駆け付けたのか?それが不可解でならなかった。
騎体全身に衝撃が走った。
キャサリンを捕えていたベルタの隠し腕をソネが突撃を食らわせて粉砕したのだ。
「生きてますか?先輩」
その気も無いくせに無事を確認してきやがった。




