-95-:一瞬でしたね
背後からの攻撃!
海面から発射された超電磁砲の砲弾が、オレンジ色の尾を引いて雲を突き抜けることは…なかった。
それはまるで、夜空を瞬く間に駆け抜ける流れ星のよう。
「一瞬だったな…」
高砂・飛遊午の口から、ふと洩れ出た。
「ええ。一瞬でしたね」
同調するベルタの声を耳にすると、発射元の後方へと目をやった。
霧が立つように、海上にモクモクと雲が立ち込めている。
ちょっと早いけど、アレは夏の雲だな。
あの状況から察するに、銃身の中に、大量の海水が残っていたものと思われる。
それが発射された弾丸の熱(火薬を使わないレールガンなので単に空気との摩擦熱)を奪って蒸発したものが銃口から吹き出して雲となったのだろう。
腕を上に向けたまま浮上してきたのが原因と思われる。
実際のところ、背後からの不意打ちだったので確証は持てないが…。
頭に火の点いた蚊取り線香らしきものを乗せた盤上戦騎の左腕から伸びていた2本のレールがポロリと崩れ落ちた。破棄したのか?
確かに、腕からあんな長い物が伸びていたら右手に携える三又槍が扱いにくいものね。
それとも、1発限りだったのか?結構威力は高そうだったし。
兵士のステータス割り振りを考えれば…きっと、そうなのだろう。
背中にデッカイものを背負っており騎体そのものの体型もガッチリとしている。とても頑丈そうだ。だけど、その分、脚は遅そう。
見立ては、大別して装甲強度>火力>機動力といったところかな。
こちらは関節強度及び回避推力総量>残りは全て最低値と、思い出すとつくづく泣けてくる。
「コホー。ちゃ・・んと・・してくれ・・よ。スホォー。マ、マ・サノ・リ。スフォー」
レールガンを発射した盤上戦騎、深海霊のカムロのマスターであるマサノリに通信が入った。
「ご、ゴメンよ。飯豊く、いや!ナガマサくん!」
慌てて言い直すも、カンシャク持ち女のアッチソンのマスター、ナガマサこと飯豊・來生の本名を、つい口を滑らせてしまった失態は、きっと許されないだろうと自覚していた。
幸い、アッチソンの超高速移動を可能にするために、ナガマサは宇宙服と同等の機能を有する耐Gスーツを着込んでいる。頭をすっぽりと覆うヘルメットの中へと供給される酸素吸入の音が、通信の所々に割り込んでくる。
まるで海中を散歩するダイバーと通信を行っているようだ。
なので、いちいち怒っている余裕など無い。
ただし、アンデスィデが終了したらタダでは済まされないだろう。胃が痛くなる。
常に強烈なGを全身に受ける中、ナガマサは失態を犯したマサノリに対して嘆くことは無かった。
むしろ、やはりしくじったのかと納得していた。
マサノリの犯した失態とは。
1:腕を上げたまま海中から現れたせいで、銃身に残った海水がレールガンの弾丸を冷やして、元々短い射程距離をさらに短くした。
2:朝から天候不順だと、あれだけニュースで言っていたにも関わらずに、海上から上半身だけを出してレールガンを発射した事。結果、海風と高波の影響をもろに受けて命中精度が大幅に低下した。
3:レールガンを発射する前に、あらかじめ大量に浮遊素を散布させておけば足元が安定して、より命中精度が上がっていたはず。
で、結果がこのザマかよ。
常にダントツで学年トップの成績を走り続けるナガマサの目には、周囲の人間たちが無能極まりなく映っていた。
とにかく、人の欠点が目についてしょうがない。
3年生のノブナガは他の者たちとは異なり、あの若さにして“新型発電システム”の原理を開発、製品化してすでに結果を出しているので自分と対等と言える。
だから、彼の誘いを受けてアッチソンのマスターになったのに、騎体がこれでは。
超高速と装甲強度を両立させた結果、一切停止できない欠点を抱える事になったものの、ピックをぶつけるだけで勝利を得られるというのに、未だ決着が着けられない自身に苛立ちを覚えていた。




