表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人を呼ぶ家

作者: くみたろう
掲載日:2018/07/25

それは、あっつーい真夏の夜の話だった。


チクタクチクタク……

古びた大きな時計の針が振り子のようにユラユラと揺れて、妙に響く音を奏でている。


チクタクチクタクチクタク………


「すいません、すいませーん!!」


古い一軒家の外から聞こえる男性の声。

扉を叩く音も聞こえていた。

古い家に扉を叩く音が聞こえて、女性は玄関に走りよる。

薄い茶色の着物に、髪を結い上げた女性だ。


「はいはい、どなた?」


がチャリ…と鍵が開き、扉が開かれる。

そこにはずぶ濡れの男性が立っていた。

服や髪が雨で張り付き、髪を指先で払っているところだった。


「…………まぁ、ずぶ濡れ」


「いきなり雨が降ってきて、雨宿りさせてもらいたいんですがいいですか?」


「えぇ、寒かったでしょう?どうぞ中に入って」


大きく開かれた扉の中は古いが綺麗に整頓された玄関で、濡れたまま男は入っていった。


町から町を繋ぐ長い山道を男性は車で走っていたのだが、車は新車なのにエンストを起こした。

携帯も使えない場所のため仕方なくふもとまで降りる途中だった時に降り出した雨だった。


「まぁ、災難でしたね」


タオルと着替えの浴衣を渡された男は礼を言い着替えを済ませていた。


「あらぴったり。旦那様のでしたけど良かったわぁ」


ふふっと笑った女性に、男性は着ている浴衣を見た。

男物の浴衣だ。


「………旦那さんはいまは?」


「旦那様はまだお帰りになりませんの。」


「そうなんですか、女性1人の家に来てしまいすいません」


「いいえ、ここは山深いでしょ?此処しか来れませんもの仕方ありませんよ」


山深い…………?

男性は首をかしげた。

たしかに此処は町から町へと繋げる山ではあるが別に山の奥地ではない。


「少しお湯の様子を見てきますわ、お待ちになってね」


お風呂の用意をしてくれると準備をしてくれている女性を男は見送った。


室内を見渡すと周りは全て古いものだった。

電気は小さな豆電球。それ以外は蝋燭で灯りをともしている。

テレビなども無く、田舎だったり昔の人が住んで居たような平屋だ。

ここから見えるキッチンも似たようなもので一切の家電製品がない。

1番目に付くのはチクタクチクタク…と針を進める大きな時計。


「変わった家だな………」


薄い敷き布が敷かれた床に座っていた男は違和感に気づいた。

一つだけ、たった一つだけ写真が飾られている。

それは少し古ぼけた白黒写真。

旦那様だろうか、女性の横にまっすぐに立つその姿はまるで戦争へと向かう兵隊の姿。

帽子をかぶりこちらをじっと見ている。


そういえば、今の時代必需品な家電は一切ないし、説明した時女性は車の説明で驚きを見せ、携帯はわからないと首を傾げていたのだ。


「…………」


まるで昔に迷い込んだような、そんな雰囲気に写真を持ったまま固まる男を、女性は後ろからじっと見ていた。


「……………どうなさいました?」


「あ!いえ!!なんでも……」


「そうですが、お湯の準備が出来ましたのでどうぞ…………………………」


「え?」


最後に何か言ったが、聞き取れずに聞き返すが女性は風呂場へと案内を始めた。





「無理にでもお風呂を作って良かったですね」


浴室に案内されたが、すきま風のはいる小さな小屋の様なもので筒状の浴槽があっただけだった。小さな洗面器代わりのものはあるが他はない。


「…………………」


「では、ゆっくりと温まって下さいね」


離れていった女性を見送った男はその浴室を見て呆然となった。

シャンプーリンスはもちろん、石鹸すらなく。

浴槽も筒………と、絶句。

冷えた体を温めるため、取り敢えず入った男はその温かさに顔を緩ませる。






「……………………旦那様、帰ってきてくださったのですね。ずっとずーっとお待ちしてましたのに、遅いのですから心配いたしました。」


女性の持つ白黒写真の旦那様が映っていた場所には、いつの間にか軍服を着ている男が映っていた。

来ていた浴衣は女性が抱えている。


「………死んだかもと、思いましたのよ」






その頃、テレビでは一人の男性の行方不明の情報が流れていた。

すでに10年が経ち、諦めた家族がやせ細って写っていた。


「…………………あの道を走行中、雨が降った時人が消えると言う話を聞きました。信じられない…」


泣く女性は車の鍵を握りしめていた。

見つかった時にエンストなどしていない、しっかりと動いてた車の鍵をしっかりと離さないように。








『おかえりなさいませ、もう決して離したりは致しませんよ。私の旦那様』


恍惚な表情で女性は写真にそっと口付けした。

初の短編小説です。

ちょっと夏らしくホラーにしてみました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ホラーみたいな小説を書いていて、他の方々がホラーをどのように書いているのかと気になって探しているうちにこの作品に流れ着きました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ