錆になるまで斬り続け
場面6。切り替わり続ける場面、背景。
(桃太郎御一行。スマホを構えた犬。刀を振りかぶった桃太郎。尻もちを付いている鬼三体)
ナレ:さて、桃太郎御一行の鬼退治は続きます。まずは理不尽にパワハラを行う鬼を――
桃太郎:桃太郎の桃は、どこから流れて来たと思う?
パワハラ鬼:えっと、天国?
桃太郎:上流からだ!
(桃太郎、刀を振り下ろす。パワハラ鬼、斬られた演技。床に倒れる)
ナレ:斬り捨てましてその様子をネットにアップし、続いて、
(横に少し移動。やはり尻もちを付いている鬼に刀を振りかぶる桃太郎)
ナレ:可愛くなくなったからという理由で近所の川にミシシッピアカミミガメを捨てた鬼を――
桃太郎:桃太郎の桃は、どこから流れて来たと思う?
捨てた鬼:ええ? なんか、神聖な場所から?
桃太郎:上流からだ!
(桃太郎、刀を振り下ろす。捨てた鬼、斬られた演技。床に倒れる。パワハラ鬼とポーズ一緒で前衛芸術感を出す)
ナレ:斬り捨てましてその様子をネットにアップし、続いて、
(横に少し移動。やはり尻もちを付いている鬼に刀を振りかぶる桃太郎)
ナレ:鄙びた地方都市、ネット通販に押されて客が来なくなり、明日には店を閉じよう、借金を作らないうちに営業をやめよう、と思うけれどぽつぽつ訪れるネット環境のない老人やキッズのために、可能な限り店を開け続けよう、と、老後のための貯蓄を切り崩して電化製品店を経営しているお爺さんとお婆さんのお店からアップル製品を窃盗した鬼を――
桃太郎:桃太郎の桃は、どこから流れて来たと思う?
窃盗鬼:あぁ? 川の上流、とか?
桃太郎:…………正解!
(桃太郎、刀を振り下ろす。窃盗鬼、斬られた演技。床に倒れる。前二人の鬼とポーズ一緒で前衛芸術感を出す)
ナレ:斬り捨てましてその様子をネットにアップし、という風に鬼退治を続けた結果、ごく狭い範囲で桃太郎の活動は認知されるようになり、斬り捨ててほしい鬼の通報も舞い込むようになりまして桃太郎一行、裁きのために忙しい週末を送るようになっていったのでございます。