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鬼が島  作者: 犬山 猫海
5/7

成敗いたす!

場面5。雉の勤務先。


(オフィスの庭で女と男が談笑している。植え込みの陰から様子を窺う桃太郎たち)

藤壺:そうなの、貴世さんが部長と付き合ってるって話で。

男:うわ、そこ行くかぁ。貴世さん、可愛い顔してえぐいなあ。

藤壺:もうびっくりして。同じ部署の子たちがトイレで噂してるの聞いちゃって。でもそれよりももっとえぐい話があるの。あんまり大きな声で言えないから。

(藤壺が男を手招き。男が一歩距離を縮める。ひそひそ話)

(桃太郎、植え込みの陰から頭を出して)

桃太郎:あいつで合ってるの、雉?

雉:うん。あの人。藤壺って呼ばれてる。

猿:見るからに鼻っ柱強そうだなあ。フジツボって、船底に張り付く、みたいなイメージ?

犬:おそらく源氏物語からの引用でしょうね。

桃太郎:あの、横で話聞いてる兄ちゃんは関係あるの?

雉:あれは、単に藤壺が好きなだけで、悪いことはしてません。

桃太郎:なるほど。じゃああの女を断罪すればいいわけだな。

ナレ:ターゲットは藤壺と呼ばれる女性、雉の先輩社員に当たる彼女は職場で同僚に陰湿な嫌がらせを行っており、それに挫けて辞めていった社員も片手では数えきれないとの雉の報、そんな巨悪が身近にいるならば裁かぬ手はないと出張ってきたのが桃太郎一行で、これが晴れ晴れしい鬼退治第一弾となるのでございます。

桃太郎:さて、どうする?

猿:さて、どうする。って、ここまで来て無策だったの?

桃太郎:しょうがないだろ、出会い頭に殴るとか、そんな感じでいいと思ってた。

猿:雑すぎだろ。それ下手したらオレらが警察に捕まるわ。

桃太郎:そういう猿はなんか策があるのか。

猿:ない。

桃太郎:断言したな。そこどや顔するところじゃねえから。

猿:雉は、なんか悪さの証拠物件とか持ってないの?

(雉は首を横に振る)

雉:意地悪された体験ぐらいしか。

桃太郎:くそ。ここまで来たはいいけど、最後で手詰まりか。藤壺に、悪行を認めさせたうえで裁かないと。わざわざ有給取ってまで来てんのに。ああー、どうすりゃいいんだ?

猿:落ち着け桃太郎。

桃太郎:落ち着いてるよ。

猿:桃太郎:落ち着いてないよ。桃太郎は落ち着かないと髪を触る癖があるんだよ。

桃太郎:え? オレ触ってた?

猿:耳たぶ触ってた。

桃太郎:髪じゃないじゃん。耳たぶ触るってどういう精神状態なんだろ。

猿:パン生地って耳たぶぐらいの柔らかさって言うよね。

桃太郎:今パン関係ねえから。藤壺を調理しなきゃいけないんだよ。

猿:ほらイライラしてんじゃん。

桃太郎:してねえから。犬も真面目にやれよ、ずっとスマホばっかいじってさあ。

(犬、振り返る桃太郎にスマホを見せて)

犬:これ、十中八九藤壺のツイッターの、裏アカウントです。社内での悪行が愚かにも画像付きでたくさんツイートされています。

(桃太郎と雉と猿、犬のスマホを見る。犬が数回スクロールさせる)

桃太郎:雉、この悪行に憶えある?

雉:はい。シャーペンの消しゴムを盗むのは私も被害に遭ってます。

猿:地味な嫌がらせだな。

雉:でも、油断するとシャーペンの芯がこぼれ落ちる、地味に嫌な嫌がらせです。

桃太郎:なるほど。よし、この裏アカウントが犯行の証拠になるわけだから、あとはこれを藤壺が投稿してるってことを証明すればいいのか。

猿:よし、決まりだな。藤壺のほうは任せた。オレは男の相手をする。

桃太郎:ちょっ、おい。

(猿、サングラスをかけて植え込みから出る。藤壺へ向かうと男が気づき、立ち塞がる)

男:何だよ、見ない顔だな、何か用か?

猿:タコ、こら、タコ。お前こそオレの女に何の用だよ。

(男が藤壺を見る。知らない、と藤壺は首を振る)

男:お前誰だよ。会社の敷地に勝手に立ち入るな。

猿:あ、すんません。

桃太郎:何言い負かされてんだ猿の奴。

猿:じゃなくってぇ。ちょっとな、藤壺のことで話がある。お前は騙されてただけだから、お前は悪くない。順を追って説明するから。な。

(怪訝な顔つきの男を猿が引っ張るように無理やり連れだす。猿と男、退出。それを見て桃太郎と犬が植え込みから出ていく。藤壺の顔が強張る)

桃太郎:あ、どうも、怪しい者ではないんで。逃げなくて大丈夫ですよ。

藤壺:明らかに不審者じゃない。警備員さん呼びますよ。

桃太郎:大丈夫です、すぐ済みますんで。

藤壺:ほんと、何なんですかあなたたち。

犬:こちらのツイートに覚えはありませんか。

(藤壺、犬のスマホを眉間に皺を寄せて見て、一瞬愕然、だがすぐに調子を取り直して強気の姿勢)

藤壺:知りません。私と何か関係があるんですか。

犬:この社内で、陰湿な嫌がらせが起きているという話を聞いたんですけど、これって、言うなれば犯行の記録ですよね。

藤壺:はあ。そうなんでしょうね。あなたたち何なんですか?

犬:こちら、裏アカウントと呼びましょう。ではあなたの表のツイッター、見て見ましょうか。はい、こちらです。ここの、爪のマニキュア、さっき見た裏アカウントの画像と同じですね。

藤壺:……つまり、同一人物だって言いたいの? 嫌がらせの犯人が私だっていう。

犬:認めませんか。

藤壺:同じマニキュアなんて、証拠として弱いわよ。そんなの何千人といるでしょ。

犬:この写真に写ってる、この鞄も裏と表で一致しています。机が写り込んだ写真もありますが、ボールペンと手帳も合致してます。……まだ続けますか。

(藤壺、苦々しげな表情で)

藤壺:私がやったからって、うちの会社じゃない人に何の関係があるわけぇ?

犬:このカメラに向かって謝罪して、品行を改めてください。でなければ――

(桃太郎、一歩前へ出て、抜刀して)

桃太郎:この桃太郎が貴様を斬る!

藤壺:ちょっと、危ないわよ。

(二三歩後ずさりした藤壺、ヒールが引っ掛かり後ろに尻もちを付く)

桃太郎:(犬に向かい)決め台詞考えてきたんだよ。へへ。(藤壺に向かい)改心する気はないか。

(藤壺、震えてまともに答えない。犬がスマホを構える)

桃太郎:おい。桃太郎の桃は、どこから流れて来たと思う?

藤壺:ええ? えっと、桃源郷、とか?

桃太郎:上流からだ!

(白刃でずばっと袈裟に斬る。藤壺仰向けに倒れる)

桃太郎:(犬に)撮れた?

(犬がスマホを見せる)

桃太郎:よし。後でネットに上げといてね。さて、猿を回収するとして、あ、雉も会社の人間に見られるとまずいから別行動にして、よし、アフターファイブ、今夜は桃太郎御一行で酒宴を開こうぜ。鬼退治の後には宝物だ!

ナレ:かくして、桃太郎御一行、初めての鬼退治は成功に終わったのでございます。ちなみにこの夜、桃太郎は泥酔した勢いで川に飛び込み翌日風邪をひき、かかりつけの医師に叱責されたのでございます。


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