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鬼が島  作者: 犬山 猫海
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桃太郎の日常

場面1。コールセンター。うだつの上がらない勤務風景。


ナレ:昔昔、あるところにお爺さんがいまして始まりますのが物語というものですけれど、これは今も今、文明の進歩も著しい現代の、至極最近の話でございます。あるところに、お兄さんがいました。

桃太郎:はい、こちら、コトブキ社お客様サポートセンターです。はい、はい、電子レンジの故障ということでよろしいでしょうか。はい? 機能が多すぎて使い方が分からない? そうですね、本機、多機能となっておりますけども、あたためスタート、オレンジのボタンさえ押していただければ、たいていの物は温まると思います。はい、そうです。はい、はい、それでは失礼いたします。

(受話器を下ろす。すぐ上げる)

桃太郎:はい、こちら、コトブキ社お客様サポートセンターです。はい、はい、電子レンジの故障ということでよろしいでしょうか。猫が濡れて寒そうだからチンしたい、ですか? お客様、生き物を温めるのはご遠慮願います。機器の故障だけでなく、爆発の危険性もありますので。いえ、レンジではなく生き物が爆発する恐れがありますので。はい、大変申し訳ありませんが。はい、はい、では、失礼いたします。

(受話器を下ろす。すぐ上げる。受話器コードをくるくる回す)

桃太郎:はい、こちら、コトブキ社お客様サポートセンターです。はい、はい、電子レンジの故障ということでよろしいでしょうか。動かないということですね。かしこまりました。ちなみに、現在電源は入っていらっしゃいますでしょうか。……入っている。では、レンジボタンを押していただいて、六百ワットで十秒と表示されると思いますが。……表示されない。電源は入っているけれど、文字は表示されない。……失礼ですがお客様、電源コードはコンセントに刺さっていますか。あ、はい、そうですそうです、コードのほうをコンセントに刺していただいて……はい、あ、動きましたか、はい、そうです、あとは問題なく動くと思います。はい、はい、では失礼いたします。

(受話器を下ろす)

桃太郎:どうやったらコンセント入れ忘れるわけよ。電話する前にまず落ち着けっての。

(大きく伸びをする)

(軽く呻いて、再び受話器を取る)

桃太郎:はい、こちら、コトブキ社お客様サポートセンターです。(時々小さく「はい」と相槌を入れる)

ナレ:このお兄さん、歳の頃は三十路、そろそろ中堅社員としてもっと職責ある仕事をこなしていきたいと願うも世は酷薄、上司からの評価を得られず今日も端役の仕事、とりとめもない質問や聞くに堪えない苦情の電話の応対に追われております。同僚たちが昇進で次々と現場を去る中、相も変らぬ仕事に鬱々とした思いを抱えながらも仕事は仕事、やらなければ生きていけませんから、どれだけ些末な質問だろうと、どれだけ口を極めた罵倒だろうと、どれだけ退屈なお爺さんの身の上話だろうと、怯まずたゆまず落ち込まず、ただ心の笑顔だけは忘れずに今日も受話器を取るのでございます。

(受話器を下ろす。不機嫌な顔で一息。笑顔で受話器を取る。少し声を強めて)

桃太郎:はい、こちら、コトブキ社お客様サポートセンターです。


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