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第86話:一歩前進しました。

一月近く冬休みを頂いていました。

これからまた更新をしていければと思います。

 私の目の前で今さっきまで戦っていた灰色の寄生体、グレイが変貌していく。異質な力に頼った末路がアレだ。リスクを顧みず力を求めるから悲惨な事になる。同情すらする気にもならない。

 本当はこのまま戦闘を続けたいんだけどこれ以上は難しい。自分が思っている以上にこの体は脆い・・・少しダメージを負っただけで思い通りに動かなくなる。本来の私なら有り得ない事だけどキョウはこんな脆い体でドラゴンの私を圧倒して見せた。どうしてそんな事ができるのかな?日頃の鍛錬の賜物だときっと言うんだろうけど、鍛錬だけであんな動きが出来るようになるとは到底思えない。

 でも、この人の身で鍛錬を重ね続け、日に日にキョウの動きに付いて行けるようになってきているのは確か。こっちに合わせて加減している節は見られるけど、少しずつ近づいている。それでもその背中は遥か先・・・並び立つのはいつになるのか想像もつかない。

そんな事を内心で考えつつキョウにこの後起こり得る出来事を委ね、私とマグルは後ろへと下がり事の顛末を見届ける事に。

 キョウの後ろ姿を眺めながら、ふと私は先程の戦いを振り返っていた―――――





 キョウからアドバイスを貰った後、私は目の前にいる灰色の寄生体ことグレイと少しだけ言葉のやり取りをした。

 成程、こうやって相手の感情を揺さぶって自分の都合のいい結果を手繰り寄せようとするのか。私は別段悪辣だとは思わない。目の前の敵がそれだけ私を倒す為に手段を講じているという事。うん、参考になる・・・試しにこちらも少し返してみたけど、意外と向いているような気がする。


 今度はこちらから仕掛けてみるとしよう。

 足元に転がっていた石を無造作にグレイへ蹴り飛ばす。それと同時に私は間合いを詰めた。


「っちぃ!厄介な事してきやがる!」

「・・・貴方の真似をしてみただけ」


 飛んできた石を反射的に避けたグレイの動きに合わせて、私は刀を薙ぎ払う。グレイが両手のブレードでガードし、独特の音が響くと共に火花が散る。

 そのままブレードに刃を這わせ、返す刀で再度薙ぎ払う。こちらもガードされたが私は構わず斬撃を次々放っていく。切り上げ、袈裟斬り、逆風から唐竹と様々なパターンで連撃を叩き込む。


「・・・っぐぅ!くそがっ!」


 グレイのガードが少しずつ崩れて行き、二桁を優に超えた辺りでブレードの片方に亀裂が入った。


「なぁっ!?マジかよっ!」


 そして数合目の切り結びの後、亀裂の入ったブレードが限界を超え氷を踏み砕いたような音を立てて折れ飛んだ。

 私はすかさずブレードが折れて開いた空間に斬撃を見舞う。

 脇腹に入る―――――直前でグレイは咄嗟に腕を差し込みフェイスイーターの装甲で受け止めた。

 甲高い音と火花が散る・・・腕を差し込まれた所為で思い描いた斬撃とはならなかったが、私も無駄に斬撃を繰り返していた訳じゃない。

 刀を振り切る。と同時に火花に混じって鮮血が舞った。今まで斬撃が通らなかったフェイスイーターの装甲を切り裂いた瞬間だった。


「っ!?」


 血が舞うと共にグレイが焦りの表情で私から距離を取ろうとする。バイザーで顔半分隠れているというのに何とも分かりやすい。


「・・・」


 逃がさない。グレイが距離を取ろうとした分だけ私は踏み込み、更に斬りかかる。


「どうしてだ!?何で急に俺の装甲が―――――」


 そう叫びつつグレイは折れていないブレードで私の斬撃を受け止めようとする。最早それは悪手でしかない事にこの寄生体は気づいていない。

 私の刀とグレイのブレードが切り結び、グレイのブレードが抵抗空しく斬り飛ばされる。


「―――――は?」


 状況にまるで付いて行けずグレイが間の抜けた声を上げ、たった今斬り飛ばされたブレードの切断面を見つめる。

 次の瞬間、私の刀はそのままグレイの体へと吸い込まれた。あぁ・・・この寄生体には感謝しないといけない。お陰で私はまた一歩キョウに近づく事が出来たのだから。


 刀を振り抜き、グレイの体から血が噴き出すのと私が飛び退いたのはほぼ同時だった。両断とまでは行かなかったが、バッサリと斬られたグレイは誰がどう見ても致命傷だ。

 2歩、3歩とよろめいた後、グレイは膝を付いた。もう戦う力は残っていないだろうけど、私は警戒を解かず一定の距離を保ったまま寄生体を観察する。


「なんでだ・・・何が起こりやがった?あれ程防げていたお前の攻撃が、なんで急に・・・」


 大量の血を失い、急速に衰弱していくグレイを見つめつつ、私は答える。


「貴方が言った通り、私は対人戦の経験が無いに等しかった。鍛錬の過程で模擬戦をする事はあったけど、片手で数える程度・・・今後はもっと実戦に近い鍛錬を取り入れるとする」

「質問の答えになってねぇよ」

「・・・貴方の動きに慣れて、斬岩―――――という技を動いている相手にも出せるようになっただけ」

「要は本来の力を発揮できるようになっただけってか・・・ちっ、もっと揺さぶりかけて挑発を続けるべきだったな」


 グレイはそう吐き捨てると同時に震える足で立ち上がる。そんな状態で何をしようというのか。


「あんま舐めんなよ、女。探索者ってのはなぁ・・・死なねぇ限りあがく生物なんだよっ!」


 そうグレイが吠えると同時に、今までとは比べ物にならない速度で文字通り突っ込んできた。


 油断していたわけじゃない。けど、余りにも速度が変わり過ぎて反応が遅れてしまった。


 グレイのなりふり構わない型も滅茶苦茶な、拳による攻撃を肩に受けてしまう。どうにか避けようとしたが避けきれなかった。


「うあっ!?」


 最早体当たりと言える一撃を受け、衝撃でよろめくと同時に焼け付くような痛みを肩から感じた。思わず膝を付いてしまう。

 グレイはその一撃の勢いそのままに断崖へと突っ込んでいった。盛大な衝突音と共にグレイの高笑いが聞こえて来た。


「ハハハハッ!流石にコレは反応できなかっただろ?ブレードが折れてなきゃ、串刺しに出来てた所なんだがなぁ・・・ゴフッ」


 断崖に突き刺さった体を引っ張り出しつつ、こちらへと歩み寄って来るグレイ。さっき以上に血の気が失せているにも関わらず、戦意はまだあるようだ。血を吐きつつふらつきながらも構え、こちらへと襲い掛かって来る。


 先程と変わらぬ勢いで突っ込んでくるグレイ。態勢を整える暇もなく、膝を付いた状態でグレイの拳を刀で受け止める。


「くぅっ!」


 威力を殺す事が出来ず、私は思い切り殴り飛ばされた。地面に接地する前に手を付いてどうにか態勢を整える。

 どういうカラクリか分からないけど、グレイの動きが急に早くなったのは確かだ。けど、2度動きは見させて貰った。次は合わせる。私は迎撃すべく構えを取る。


「くそが・・・今の一撃で決めたかったんだがなぁ。今の俺でもコレは扱いきれねぇな・・・まぁそういう風に振ったわけだが」


 ・・・なんの話をしてるのだろうか?


「分かんねぇって顔だな。地道に積み重ねて来た探索者なら誰でも知ってる事だぜ?まぁお前らはコレに頼らずともツエーしてるから、まだ有難みを知らねぇだけだろうが・・・流石にこちらのアドバンテージを晒す程馬鹿じゃねぇよ」


 グレイが構える。と同時にさっき私がやったように今度はグレイが足元に転がっていた石を蹴り飛ばして来た。


「ほらよ!さっきのお返しだっ!そして、これで終わりだ」


 3度目の突撃が敢行される。グレイの手にはいつの間にか斬り飛ばされたブレードの刃が握られていた。


 蹴り飛ばされた石を処理していてはグレイに対処できない。かといって石を避けても、その瞬間に私はグレイに刺し貫かれてしまう・・・防ぐのは極めて難しい・・・よって私は―――――飛んできた石を無視して突っ込んできたグレイのみに狙いを定めた。

 飛来してきた石が腹部に命中する。激痛と衝撃が襲い掛かって来るが意志でねじ伏せ、グレイと交差する瞬間に合わせて刀を振り抜いた。グレイの手に握られたブレードが私の頬を掠めて行く。


「・・・ちくしょうが」


 互いの体が通り過ぎる瞬間、グレイのそんな呟きが聞こえた。グレイの体は再度切り裂かれ、血を飛ばしながら転がっていく。

 2度ある事は3度あるかもしれない。すぐさまグレイの方に向き直った所でキョウとマグルがこちらへとやってきた。


「っ?どうしたの2人共、そんなに慌てて」

「すまんミズキ、緊急事態だ」


 こうして異変は起こったのだ。

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