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第85話:ハラハラしました。

 僕はミズキ姉さんの戦いを眺めていた。お互いが苦手な方を相手取ろうという事でこちらの赤っぽい寄生体を選んだのだけど、どちらも似たり寄ったりな感じだったので余り変わらないかもしれない。


「・・・余裕こきやがってチビガキ。俺なんざ目を離していても余裕だってか?こらぁっ!?」


 別にそういうつもりではなかったのですが、向こうは気に食わなかったらしくこちらへと飛び掛かってきました。


「いえ、単にミズキ姉さんとあちらの戦いが気になっただけなのですが」


 僕は答えつつ攻撃を繰り返して来る寄生体の連撃を両手のガントレットでパリィしています。あるじが言った通り早くて重たい攻撃ではあるのですが、受け流す分には問題なさそうです。

 時折混ぜてくる蹴りに関しては僕の体格では受け流し難いので、こちらは回避。回避が難しいものは大人しくガードして蹴りが来た逆方向に飛んで威力を殺しています。


「めんどくせぇ・・・やる気ねぇなら大人しく俺らの糧になれや!」

「それは遠慮します」


 大振りの斬撃をパリィした後、僕は足払いを仕掛けてみます。これまで攻撃らしい攻撃を仕掛けていなかったせいか、突然の攻撃に対処できずに当たってくれました。


「うおっ!?」


 バランスを崩して転倒した寄生体に、僕は前宙で回転を加えた両足による踏みつけをしました。迫る両足に対処できず綺麗に攻撃が決まりました。瞬間、硬い物が砕ける感触が足に伝わってきます。この感覚は余り好きではないです。


「ぐあぁぁぁっ!?」


 攻撃が決まった後すぐにバックステップをし、僕は寄生体の様子を見ます。


「あ、足が・・・っ!クソガキぃぃ、やりやがったな!?」


 悪態をつく元気はまだ残ってるみたいです。再度接近し残りの足も折りに行きます。


「2度もやらせるかぁっ!」


 踏みつけに反応して地面に手を付いて素早く膝立ちに移行した寄生体は、目の前にいる僕を追払うように残りの腕で切り払ってきます。それをバックステップで躱した後、再度寄生体の懐目掛けて突っ込みそのまま勢いを乗せた突き蹴りをフェイスイーターの本体らしきバイザー部分に叩き込みます。


「っ!?」


 まともに食らった赤っぽい寄生体はそのまま後ろに倒れ込み、地面に後頭部をしたたかに叩きつけた後軽く中に浮いたので、そのままハイキックを叩き込みました。


「ギィッ!?」


 そのまま横方向へ吹き飛んだ赤っぽい寄生体は、地面をバウンドしながら茂みの中へと消えていきます。程無く樹木に叩きつけられたのか、奥の方に見えていた大木が盛大に揺れました。


(パーフェクトだよ、マグル。自信を持っていい。マグルは間違いなく成長してるよ)

(あるじ、ありがとう!)


 念話で僕の事を褒めてくれた主の方へ顔を向けると、とてもいい笑顔で頷てくれたのが見えた。

 最近姉さんが急成長して、置いていかれたくない一心で鍛錬をしていたけど、そのやり方はダメだと諭された。

 現状の僕はどれ程強くなっているのか正直実感が無かったけど、あるじは自信を持っていいと言ってくれた。

 さっきまで感じていた焦りが嘘だったかのように無くなった。とても晴れやかな気分。もう大丈夫だよ、あるじ。


(よしマグル、第2ラウンドだ。カッパー・・・マグルが相手してた寄生体の事な。アイツの性格からして確実にキレる。今まで以上に動きが激しく予想しにくくなるだろうが、慌てずしっかりと観察すれば対処できる。大丈夫、マグルは強い。自信を持つんだ)

(はい、あるじ!)


 茂みが鳴ったのでそちらに目を向けてみると、全身ボロボロになった赤っぽい寄生体・・・あるじはカッパーって言っていたっけ。そのカッパーが足を引きずりながら出て来る所だった。

 バイザー部分もひび割れ寄生体に絡みついているその他の甲殻部分も衝撃で砕けている。バイザー中心にある一つ目が血走り、こちらを憎らし気に睨み付けているのが見えた。


「許さねぇ・・・殺す、絶対にコロス!クソガキがぁぁぁぁっ!!」


 折れている足を力任せに戻し、ぎこちない動きで迫って来るカッパー。迎撃すべく待ち構えていたけどカッパーの腕が瞬時に肥大化する。

 パリィせず回避に切り替える。紙一重で避けたカッパーのブレードが地面を切り裂いた。あのまま受け流そうとしていたら、腕ごと体を真っ二つにされていたかもしれない。

 もう片方の腕も肥大化し、切り裂かんと襲い掛かって来る。回避しないと・・・そう判断しカッパーから距離を取ろうとする。その瞬間、目の前にいる寄生体が嘲るような笑い声を上げこうボソリと呟いた。


「ビビったな?」


 そんな呟きが聞こえたと思ったら、僕はもう吹き飛ばされていた。遅れて腹部に鈍い痛みが襲ってくる。


「がはっ!?」


 なんだ?一体何をされた?腕と足の動きからは目を離していなかった。どうやって僕に攻撃を?

 地面に背中を打ち付けたタイミングで手を付いて態勢を立て直す。すると、目の前には既にカッパーが攻撃の姿勢を取っていた。


「死ね」


 カッパーの抑揚に欠けた声と共に両手によるブレードが振り下ろされる。


 あ、避けれない。死ぬ。咄嗟に両手をクロスさせて防御の姿勢を取る。瞬間、腕が折れてしまうと感じる程の衝撃が襲ってくる。


「ひゃはははっ!死ね!死ねチビガキ!!」


 2度3度とブレードの連撃が襲ってくる。僕は地面に縫い付けられてしまい防御以外の動きが出来なくなる。タイミングを見計らって離れたいけど、上から押さえつけられるようにブレードが襲ってきて逃げる事ができない。


「いいぞチビガキ、その表情が見たかった。その恐怖に染まった顔がよぉ・・・どうだ怖ぇだろ?必死にガードしろよ?じゃねぇと死んじまうぞぉぉ~?」


 何度も何度も両手のブレードで打ち据えられた。既に両手の感覚は無い。怖い。けど必死に防御した。僕はまだ死ぬわけにはいかない。怖い。姉さんを残して僕だけ死ぬわけには逝かない。あの時母さんに守られ、姉さんに守られ、姉さんがやられても最後の最後まで何も出来なかった。怖い。怖いけど、もうあの時の無力な僕じゃない。諦める訳には・・・いかない!


「飽きて来たなぁ・・・そろそろ本当に死ね」


 カッパーが止めを刺そうと大きく振りかぶった。今だ!僕は今日一度もまだ使っていなかった爆発の力を使用する。使い方を間違えると自分にまで被害が及ぶ危険な能力だけど、なりふり構っていられない!

 両足に爆発の能力を使い思い切り飛び上がる。


「んなっ!?」


 カッパーが驚愕の声をあげる。そのまま僕は奴の顔目掛けて膝蹴りを見舞い、綺麗に顎へ入った。無理な姿勢で爆発の力を使った所為で体が悲鳴を上げているけど我慢だ。ここで畳みかけないと勝ち目が無くなる!


「っ!・・・こ、このクソ―――――」


 アッパーカットを食らったボクサーの様に頭が跳ね上がり、一時的に棒立ちとなるカッパー。少し離れた場所に着地した僕は思い切り踏み込み、今出せる最大威力のハイキックをカッパーの頭部に蹴り込む。ヒットする瞬間、爆発の力も加えた。

 爆発音と共にカッパーが地面に叩きつけられバウンドし、岩壁へと叩きつけられる。モンスターにこの攻撃をするとヒットした箇所が爆ぜるので使い処が難しかったけど、コイツには全力で挑まないとこちらが殺られてしまう。


 倒れ込んだカッパーの様子を伺う。今の攻撃を受けて頭部が存在している事に脅威を感じるが、流石に無事では無さそう。首が折れ頭が有り得ない方向を向いているのが遠目からでも分かった。

 通常の人間であれば間違いなく死んでいる。けど、コイツはフェイスイーターに寄生された人間・・・注意するに越したことはない。


「・・・う、ゴア、アァァァッ」


 カッパーが呻き声の様なものを上げながら立ち上がって来る。頭はあらぬ方向へ向いた状態のまま、2歩3歩とよろめきながらもこちらへ向かってくる。

 口から血の泡を吹きながら向かってくる様に、本能的に後ろへ後ずさってしまう。するとカッパーの体がビクッっと痙攣したかと思うとガクガク震えだした。


「ガ、アガ、なんダ?カラ、だガかッデに・・・」


 ビクビクと痙攣しながらカッパーはよろめき立ち止まる。


「ヤめ、ろ!オデのか、ダにナをす・・・ギ?アァァぎゃばグギィィっ!?」


 カッパーの体がボキボキゴリゴリと音を立ててひしゃげていく。まるで見えない手か何かによってこねくり回され、無理やり整形されているよう。


「マグル!何かヤバそうだ。ギリギリまで見守るつもりだったんだけど、流石にアレは見過ごせない」


 あるじが慌てて僕の元にやってくる。


「あるじ・・・あれはいったい?」

「分からん!少なくともロクな事にならないのは確かだ!ミズキの方もじきに終わる。すぐ行動出来るよう向こうと合流するぞ」


 あるじに促され、僕達はミズキ姉さんが戦っている場所へ急ぎ向かう。僕らが辿り着いたのは、丁度ミズキ姉さんが灰色の寄生体を斬り伏せた瞬間だった。


「っ?どうしたの2人共、そんなに慌てて」

「すまんミズキ、緊急事態だ」


 あるじが事情をミズキ姉さんに話そうとした所で、こちらでも同様の異変が起こりだした。


「オ、ゴ?なんだ、体が?ダレだおめぇ、オ、れをどうす、るゴゲ、がぁアアアッ!」


 嫌な音と光景がこちらでも繰り広げられる。ソレを見たミズキが盛大に顔を顰めながらバックステップしこちらへと合流を果たす。


「なにアレ?気持ち悪い・・・」

「全くだ。同様の現象がマグルの方でも起こった。嫌な予感しかしないから、マグルを回収してこっちに合流した次第だ」


 改めてミズキ姉さんの様子を伺う。所々傷を負ってはいるものの余力はまだ残っていそう。


「マグル?大丈夫だった?」


 そんな僕の視線に気づいたのか、ミズキ姉さんが心配そうに聞いて来る。


「はい、どうにか・・・ただ、もう戦闘は難しそうです」


 僕はさっきの戦いでダメージを受けすぎてしまった。無理をすれば行けなくも無さそうだけど、あるじとミズキ姉さんの足を引っ張るのは嫌だ。


「私も似たようなもの・・・どうするの?キョウ」


 ミズキ姉さんも戦うのは難しいようだ。僕とミズキ姉さんの自己報告を聞いたあるじは、ウーンと考えだす。


「・・・とりあえずミズキとマグルはいつでも逃げ出せるよう俺の後ろに下がっててくれ。後は俺がどうにかしてみる・・・ダメだったら全力で逃げるぞ!」


 あるじはこう言っているけど、あるじなら問題にすらならずこの場を納めてくれる・・・そんな気がしてる僕だった。

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