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第81話:説教されました。

 男は遺跡内にある森の中を歩いていた。迷いはなくあたかもここは自分の庭であるといった体で男は奥へ奥へと進んでいく。


 道中男に襲い掛かったモンスター達は悉く一撃で仕留められ、そのまま放置されたモンスターは遠巻きに様子を伺っているモンスター達の腹へと収まっていく。


 それらをいつもの事だという雰囲気を漂わせつつ歩みを進め、機械的に数度繰り返す。そうして男は巨大な一本の老木に辿り着くと、徐にその幹へと触れる。すると老木の根が持ち上がり下へと続く道が現れる。


 男が地下へと続く道に入り程無く進むと老木の根は開けた口を閉ざすように根を地中に潜らせた。灯りも何もない天然の地下道らしき道を男は苦も無く進んでいく。地下水が近くを通っているのか、川のせせらぎとはまた違う反響した音が地下道に木霊する。


 迷路のように入り組んでいるその地下道を男は迷わず進む。半刻程、灯りの無い暗闇を進み続けた男の先に薄っすらと灯りを放つ広場が見えて来た。


 そこが目的地であったらしく、男はその広場に着くと初めて相好を崩し穏やかな表情で何処へともなくこう告げた。


「ただいま、エレン」


 男がそういうなり、広場の灯りが強くなる。


 その空間は辺り一帯に人間サイズ程もある蚕の繭のような物で埋め尽くされていた。中には中型犬サイズの繭もあったが、既に孵った後のようで内側から引き裂かれたような痕跡が残るのみだ。


 その異様な光景の最深部に一際大きな繭が天井近くの壁面に埋め込まれる形で明滅を繰り返していた。心臓のような脈動音と連動しているのか、明滅する度に繭の中に居るであろう存在のシルエットが浮かびあがって見えた。


 そのシルエットは膝を抱えている人間の女性に見えなくもない。男はその大きな繭に優しく触れて語り掛ける。


「もうじき全ての準備が整うよ。子供達が奮闘してくれているお陰で、新たに生まれてくる子達は更に進化を遂げれそうだ。俺も父親としてあの子達の頑張りに報いてやりたい・・・」


 男がそういうと大きな繭に亀裂が入り中に入れるようになった。我が家に帰り着いた夫のような安らかな表情で男は繭の中へと消えていく。


「負担を掛けてしまって済まない。本当は君に全てを注ぎたいんだけど、子供の良さに目覚めてしまってね・・・許して欲しい」


 そんな声を最後に繭は閉じられ、男が来る前の静寂が訪れる。明るかった灯りも抑えられ元の薄暗さへと戻っていった。






「あるじ!あるじ!見てみて~こんなの捕まえたよ!」


 遺跡内でゴーレムのミリアさんと何気ない日常会話をしていると、遠目から土煙が上がるほどの勢いでこちらへと走って来たカシアが、両手で抱えられている・・・もといホールドされている物体を俺とミリアさんに見せて来た。


 そうそう、どうでもいいかもしれないけど武器の展示会的なイベントから大分日数が経過し、俺はめでたく男へと戻りました。アルが相変わらず『早く女の子に戻ってね!』とか抜かしていたけど知らん。


 クランメンバーは元より遺跡都市の人達も俺の特異体質にはスッカリ慣れたようで『あ~やっぱキョウは男の方が落ち着くわ』と言ってくる人が居れば『女の子してるキョウもいいけど、男なキョウもこれはこれで有り』って何やら拝んでくる奴も居る。なぜ拝む?


 速攻で話が脱線してしまってスマン。改めてカシアがホールドしている物体を見てみよう。うん・・・あれだ、一言で言うと超巨大なクワガタ。よくそんなの捕まえたなカシア。


「ちょっとカシアちゃん!それってブラッドシザーズじゃない!なんてものを捕まえて来るのよこの子は!」


 ミリアさんが慌てて警告を発して来る。え?ナニ?あの巨大クワガタってヤバイの?それとなくミリアさんに聞いてみたら、


「ヤバイなんてもんじゃないわよっ!あの2つのハサミ状の顎に挟まれて上半身と下半身がサヨナラしちゃった探索者が山ほど居るんだから!」


 なるほど、ブラッドシザーズという名は伊達じゃないってわけだ。


「よ~し、カシア?今すぐ回れ右してあそこに見える大木に返してきなさい」

「え~せっかく捕まえたのに~」

「流石にそのサイズの昆虫?モンスターを家で飼うのはちょっとな・・・」

「え、飼う?今日のお昼ご飯にどうかなと思って捕まえて来たんだけど・・・」


 カシアさん、クワガタを食うのはちょっと遠慮したいな~。そもそもクワガタって食えるんだろうか?いやいや、ここは異世界・・・案外カニみたいで上手いのかもしれない。でもクワガタだしな!?


「ミリアさん、一つ聞きたいんですけど、アレって食えます?」

「遺跡都市の方々は茹でて食べるそうよ。茹でると赤くなって中の身はプリプリしていて美味しいって。見ての通り超危険なモンスターだから、滅多に出回らないって話よ」


 まんまカニだな!自分の常識に囚われて決断しかねていると、カシアにホールドされていたブラッドシザーズが暴れだし、カシアの手から逃れてしまう。


「あっ」

「あっ」

「あーーーー!」


 ブラッドシザーズは羽を広げて少し離れた場所で着地すると、その昆虫特有の足をシャカシャカ動かしてカシアに向き直った。どうやら相当ご立腹なご様子。


「カシア、向こうさん相当お怒りなご様子だぞ?謝ったら大人しく森に帰ってくれないかな・・・」

「生意気な~!あるじ、見てて!返り討ちにしてやる~」


 カシアはやる気満々だ。ヤバくなったらすぐ介入するつもりだけど、あれから大分強くなった事は確かだ。今はマグルのサポート無しでも単独で遺跡内を走り回れる。その証拠に今マグルはいない。不安な点は勿論あるけど、それは他の面々にも言える事。程度の差はあれど、カシアだけ過保護と言うのはどうかと思う次第です。

 因みに本日マグルはエミリさんの要請で、我が家の近くで取れる魚を獲りに行っている。お店をオープンしたての頃は伸び悩んでいた刺身だけど、ガルドさんやエミリさんの努力の影響か最近注文が増えてきたとの事だ。

 刺身は鮮度が命。というわけで、今日刺身として使用する魚の捕獲及び輸送を依頼され、その依頼を受けたのがマグルというわけだ。今頃はお店に到着してリカルドさんと一緒に倉庫じゃなかろうか。


 カシアが拳を構えて超巨大クワガタ・・・ブラッドシザーズの側面に周り込む動きを取り出した。当のブラッドシザーズはそのカシアの動きにしっかりと付いていき、かなり俊敏な動きで側面を取らせない対応を取る。


「ぐぬぬ・・・ちょっとデカい虫の癖に~」


 カシアが相当焦れている。カッカしだすと気配や感情のコントロールが疎かになるのがカシアの悪い所だ。障害物となる物が存在しない平原のような地形だが、気配を上手くコントロールしてフェイント等を織り交ぜて行けば近づけそうな相手なんだけど。

 虫特有の感知器官もあるにはあるだろうが、その鋭敏な器官を逆手にとってフェイントを繰り出し続ければ必ず何処かで引っかかる。冷静な判断力を残していれば辿り着けなくもない結論ではあるけど、見ての通りカシアはカッカしている・・・うん、今後の課題を浮き彫りにしてくれたクワガタさんに感謝の念を送っておこう。


「あ、面白い事思いついた」


 今から俺がそのモンスターの行動を読み取ってセリフを付けて上げよう。いい機会だ、そのモンスターから色々学ぶといい。でわ行くぞ・・・?


『ふんっ小娘が・・・我を捕まえたのは見事だが我が側面を付く事、お前には出来ん』

「言ったな~!今に見てろっ」


 俺が声を変えてクワガタみたいなブラッドシザーズがあたかも喋っているように見せかける。カシアは戦闘に集中しているからかノリがいいのか良く分からんが、ブラッドシザーズから聞こえて来る声にしっかりと反応を示す。

 ミリアさんがそんな俺の腹芸を見て、


「キョウって変な才能を持っているわね・・・ソレ、悪用したらダメよ?」


 ミリアさんからのさり気ない忠告に、俺は頷く事で了承を取らせて貰う。使い方によっては不和をもたらす事も可能な技能である事はこちらも重々承知している。今はブラッドシザーズの動きに声を付ける事に集中したい。


 カシアが素早くブラッドシザーズの側面に移動し、突っ込む。スピードがあるカシアならではの動きではあるが―――――


『甘いな』


 ブラッドシザーズはその突撃に見事反応して見せる。拳を突き出したカシアだったがその攻撃はクワガタ特有のハサミで受け止められてしまう。カシアの装着しているガントレットとブラッドシザーズのハサミが激突し甲高い音が響き渡る。


『そら、お返しだっ!』


 受け止めたブラッドシザーズは、ハサミと直結している頭を上に軽く振り上げる事でカシアの拳を跳ね上げ、閉じたハサミでチャージを慣行する。

 カシアは咄嗟に空いていた手を自身の体と迫るハサミの間に入れて盾とした。ブラッドシザーズのチャージが決まりカシアが盛大に吹っ飛ぶ。


「んにゃぁぁぁぁ~~~!?」


 狼なのに猫みたいな叫び声を上げながら吹っ飛ぶカシア。上手く地面に手を付いてバク転する感じで地に足を付け、急制動をかけた。ゴリゴリと地面が抉れ大分滑った所でようやくカシアは停止する。


『ほう・・・上手く対処したじゃないか。が、気づいたか?我がハサミを閉じていなければ、今頃お前は串刺しだったぞ』


 その事実にカシアは悔しそうな顔になる。


「まだ・・・まだ負けたわけじゃない!」


 頭に血が登りきったカシアは無計画にブラッドシザーズへと迫り拳や蹴りを繰り出す。だが―――――


『青いな・・・そんな攻撃が我に届くと思っているのか?』


 その全てをブラッドシザーズはハサミで受け止め時には受け流してしまう。


「そんな・・・そんなはずは・・・っ!」

『興覚めだな。小娘、貴様は自分の力を全く使いこなせていない・・・出直して来るがいいっ!』


 ブラッドシザーズはハサミで器用にカシアの姿勢を崩すと、がら空きになった腹に向けて再度閉じたハサミでチャージを繰り出した。

 見事にカシアの腹にチャージが決まり、先ほどとは比べ物にならない勢いで吹き飛ぶ。


「!・・・・っ~~~~」


 そのまま姿勢を立て直せず地面を転がるカシア。ようやく勢いがなくなり止まるが、カシアは起き上がる事が出来ない。


『我がハサミの錆になる資格も無いわ。身の程を弁えろ、小娘』


 ようやく顔だけをブラッドシザーズに向けるカシア。その表情は悔し気だが、目はまだ負けていないと訴えている。


『ふん、気概だけは一人前と見える・・・1度だけは許そう。が、次に我の前に立ちはだかる時、容赦はせん。努々忘れるな』


 ブラッドシザーズは茶褐色の翼を広げると森の奥へと帰っていった。


「・・・本当にブラッドシザーズがあぁ言っているみたいだったわ。本当に変な才能を持っているわね、キョウ」

「自覚はあります。まぁ殆ど使い道は無いんですけどね・・・」


 俺はミリアさんとそんな会話をしつつ、まだ立ち上がれていないカシアの元へと歩み寄る。


 カシアは顔を隠しているせいか、表情は見えない。が、小刻みに震えている所を見るに泣いているかもしれない。


「カシア・・・ものの見事に負けたな」

「・・・うん」

「悔しいか?」

「・・・グスッ・・・うん」

「そうか。負ける事は恥じゃない。まずは負けて死ななかった事を噛み締めようか。負けるという事は死を意味するからな」

「・・・」

「勝つ事は重要じゃない。死なない事が何よりも大事なんだ。カシアは今日、負けるという得難い経験が出来た・・・これはとても大きい」


 俺は顔を隠しているカシアの頭を優しく撫でながら語り掛ける。ビクッと一瞬強張りを見せたがすぐに嗚咽と共に震えだす。


「負けを経験出来た者は、強くなれる。それは何故か?意志が強固になるからだ。2度と負けてなるものかという強い思いが今後の行動全てを後押ししてくれるだろう。勿論全ての者がそうなるわけじゃない。圧倒的な力を見せつけられて心が折れ、再起不能になる者もいる。けど、そこから這い上がり己を奮い立たせる事が出来た者は以前とは比べ物にならない位に強くなる。俺はそんな勇気ある者の事を敬意を込めて勇者と呼んでいるんだ」

「勇者・・・?」

「そう、勇者だ。カシアはこれで2度負けを経験した。1度目は圧倒的な力を前にして負け、2度目は純粋な経験不足を露呈して負けた。カシアはどうしたい?ここで立ち止まっても誰もカシアの事を責めたりしないよ」

「わたしは・・・わたしは今よりも強くなりたい」

「また圧倒的な力の前に屈するかもしれない。自分の未熟さを嫌という程痛感するかもしれない。何よりもまた悔しい思いをする事になるかもよ?」

「それでも・・・わたしは今よりもっと強くなりたい!」


 カシアはいつの間にか泣き止み、俺の目を見てハッキリと自分の意志をぶつけてきた。うん、カシアの成長した瞬間を垣間見たね。


「そうか・・・ならまずは、感情をコントロール出来るようにならなくちゃね。熱くなって思考や視野が狭まってしまうのがカシアの欠点。以前よりはマシになっているけどまだまだ甘い。どのような状況下でも感情に囚われず常に冷静な思考を維持する事」

「うん!」


 俺はカシアの手を取り立たせてあげる。腹に重い一撃を受けたけど、思った以上にダメージは無さそうだ。


 この後、カシアと俺はミリアさんにコッテリ絞られた。折角私が安全なエリアを確保しているのに、サーベルボアすら易々と両断するブラッドシザーズを遺跡都市に続くゲート付近まで連れて来るんじゃありませんとそれはもう怒られた。


「あの、俺が連れてきたわけじゃないんですが」


 俺が説教中のミリアさんに直談判したら、


「あん?キョウはこの子の親代わりみたいなものでしょ?なら、子の不始末は親の不始末も同然じゃない。文句あんの?」

「いえ、その通りでございます。申し訳ありません」


 ミリアさんの言い分にグゥの音も出ませんでした、はい。

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