第80話:男の子に弓の使い方を教えました。
お試し用の弓に先端が球状になっている矢をつがえ、弓を引く。案山子との距離はざっと30mは離れているけど問題無し。
弓はやろうと思えば1km以上の距離まで矢を飛ばす事が可能だけど、勿論ただ飛ばすだけ。有効射程となると、通常の人間であれば100mにも届かない。
しかしここは異世界。身体能力も反射神経も通常の人間とは比較にならない位高い獣人の皆さんは、フォースなんていう謎パワーを使える人達だ。これで更に身体強化やその人固有の能力まで持っているって言うんだから最早人類など足元にも及ばない。
その謎パワーの元となっているマナを直接使えるお前は一体何なんだ?っていう突っ込みはご勘弁を。
兎も角!異世界の人達ならば、ライフルを使用したスナイパーな感じで弓を扱う事が出来るはず。実際に私は出来た。但し、風の影響まで計算出来ない私は100m以上ともなるとサッパリ狙い撃てなかったけども。
周りに居るであろう精霊に成る前の子達に助力を求めれば狙い撃てるだろうけども、それは何か嫌。やるからには自力で成し遂げたいのが私なのだ。
という訳で、発射~。
私の手から離れた矢は風切り音と共に案山子の中心部へと到達し、はじけ飛んだ。瞬間、結構な衝突音が発生しそこそこ離れた場所で試射している私に何事かと視線が集まってくる。
うん、木製ベースにそこらの石を鏃にした程度の矢じゃこんなもんかな。私は矢筒に入っている試射用の矢を取り出し再度矢を弓に番え、今度は早撃ちを披露する。
先程の威力は出ないが次々と案山子に矢が命中していく様は、男の子の目にどう映っているだろうか。数本の矢を残して早撃ちを終了し、弓の実演を見たいと言ってきた男の子へと振り返る。
「お姉ちゃん、凄~い!」
そこには年相応に目を輝かせた男の子が。いや~照れちゃうな~。
「こんな所かな。見ての通り、遠くから攻撃を仕掛けられるのが弓の特長。欠点は弓専用の矢っていうものが必要になる事かな」
私は男の子に弓と矢筒に入っている矢の両方を見せる。
「弦というこの細い糸状の箇所に矢をかけて、後ろに引いて手を離すとこの矢というものが飛んでいくんだ」
私の説明を熱心に聞く男の子。可愛い。
「弦はこの通り細いから矢を引いてる指が弦で怪我しちゃう事があるんだ。弓を始めるのなら必ずグローブを付けてね」
「はい!」
「よし・・・じゃあちょっとやってみる?」
「え、いいんですか!?」
男の子は触らせて貰えると思っていなかったらしく、戸惑いつつもそう聞き返してくる。私はニッコリとほほ笑むとシリカを手招きし、男の子でも扱えるサイズの弓を作って貰う。ツバキにもこっちに来てもらって男の子の手に合うグローブを用意して貰う。
私は弓とグローブを男の子に渡し、先ほど私が撃った距離よりやや近めの距離に男の子を伴って移動する。そこで男の子に短めに調整した矢を渡し弓にかけさせた。
「・・・っ!思った以上に力が入るんですねっ!」
「弓を引く筋力は独特だからね・・・そう、もっと前の手を自分の視線と合わせるように・・・手と視線を案山子の中央に合わせた状態で・・・後は自分のタイミングで後ろの手を放してごらん」
「はいっ・・・いきます!」
男の子の掛け声と同時に弓から矢が放たれる。スジがいいのか、男の子は一回で案山子に矢を当てて見せた。
「お~凄い凄い!初めてなのに綺麗に当たったね!」
「あ、ありがとうございます!」
私は男の子にもう一本矢を渡してあげる。
「今度は自由に撃ってごらん」
「はい!」
男の子は余程案山子に当たったのが嬉しかったのか、興奮冷めやらぬ感じで次矢を弓にかける。よし、今のうちにもう数本矢を作っておこう。
何本か矢を撃った辺りで、男の子は満足した感じでこちらにお礼を言ってきた。計5本を撃ち、その内3本を案山子に当てれたのは凄い。将来有望なスナイパー候補と言えるんじゃないかな。
「お姉ちゃん、ありがとうございます!本当はもっと撃ちたいんですけど、もう撃てないや」
男の子はそう言うと、疲弊して震える腕で私に弓とグローブを返して来た。
「よし、君にその弓とグローブ、あとこの矢筒も上げよう。但し、矢は自分で作るんだよ?見本の矢をいくつか矢筒に入れといてあげる。実戦で使える鏃も何個か入れとくから参考にしてみて」
「そんな!受け取れないです・・・」
中々謙虚な男の子だ。けど、私は君にプレゼントすると決めてしまったのだ!なので、
「あれ、弓は楽しくなかった?」
「いいえ!凄く楽しかったです!」
「なら受け取って欲しいな。現状だと弓に触れる機会は今以外に無いからさ。弓を作れるのも今はまだシリカだけだしね・・・折角スジが良いんだし、君が続けたいというのなら私は応援したい。ダメかな?」
「・・・本当に良いんですか?」
私は微笑みながら男の子に頷いてあげる。その瞬間、男の子が満面の笑顔で頭を下げて来た。
「ありがとうございます!このお礼は必ずさせて貰います!」
「私個人としては立派な狩人になってくれたらそれで満足だよ」
「狩人・・・ですか?」
「そう。弓を自在に使いこなす人の称号の様なものかな」
「・・・分かりました。僕、立派な狩人になります!」
「ふふふ、そんな気負わなくていいからね?辛くなったらいつでも辞めていいから」
「待っててください。いつかお姉ちゃんに認めて貰えるような・・・そんな狩人になりますから!」
「お~大きく出たね・・・そうだ、弓の練習をする時は周りに誰も居ない事をちゃんと確認してね?弓は立派な凶器である事を忘れずに・・・ね」
「はい!今日はありがとうお姉ちゃん!」
男の子は弓セット一式を抱えて、元気一杯な感じで走り去っていった。
ふ~いい仕事をしたぜ~・・・そんな感じで後ろを振り返ると、何か人が集まっていてその中の1人が、
「キョウちゃん、俺らも弓って奴を試させて貰っていいか?」
「お、なになに?さっきの実演を見て弓に興味湧いちゃった?」
「おうよ!あんなに強力だとは思わなかったぜ!」
そんな感じで急激に弓の人気が出てしまったので、シリカにお試し用の弓をいくつか追加してもらい、新たに試射出来るスペースを確保する。
「さっきの男の子とのやり取りを聞いてたんなら、説明は不要だよね?」
私が弓に興味を持った人達に聞いてみると、皆それぞれが問題無しって感じで返して来たのでシリカとツバキにフォローを頼んで後ろに引っ込んだ。
よく見ると刀の所にはミズキが、双剣の所にはレオナちゃんがおり、興味を持った人達に使用感を伝えている模様。いつの間に来たのだろうか。あ、エミリさんまでやってきたぞ!?お店は大丈夫なんだろうか。
私が後方で各武器のスペースを見守っていると、高齢と思しきおじいさんに話しかけられた。
「スマンがお嬢さん、少し話をしてもいいかな?」
「はい、大丈夫です」
そのおじいさんはサンタクロースの様な立派な髭を生やした人だった。見る人が見たらドワーフを想起するかもしれない。けどこのおじいさんは、ドワーフのようなずんぐりむっくりした体型ではなくスラっとしており、角も両耳の上辺りから短いながらも立派にそびえ立っていた。
「先ほど男の子に渡した弓という奴・・・アレの作り方なんぞを教えて貰う事は出来ないかね?」
「私が知っている範囲でよろしければ」
最初の武器群でした弓の説明は聞いていたという事なので、私は弓によく使われる素材や弓の種類を知っているだけ教えた。和弓とか屈曲形短弓・・・コンポジットボウとかね。
実際に見本として持ってきた和弓とコンポジットボウの予備がバックパックに入っているのでソレを見せる。尚、男の子に渡した弓や試射に使用している弓はコンポジットボウである。
おじいさんは渡された和弓とコンポジットボウを見て触り、何やら深く頷いた。
「なるほどのぉ・・・こういう作りをしておるのか」
「スミマセン。構造の説明が出来れば良かったのですが」
「いやいや、現物をこうしてマジかで見て触れられるだけで十分じゃ・・・これなら何とかなりそうだ」
そう言っておじいさんは和弓とコンポジットボウを返してくれる。
「ありがとうお嬢さん。何度か試作してみようと思うんだが、試作品の使い勝手をお嬢さんに試して貰いたい。どこで会えるかね?」
「ほぼ毎日遺跡に行っていますので、バンクの受付の方に言づてを頼んで頂ければこちらから赴きますよ」
「そうか、それはありがたい。その時はよろしく頼むよ」
「いえいえ、お孫さんの力になって上げてください」
「・・・いつから気づいておったのかな?」
「話しかけられた時にすぐピンと来ました。目元があの男の子とソックリでしたよ」
「あの子は他の子と比べて体が小さい。よくケンカで負けて自分の非力さを悔しそうに儂に吐露しておったが、もう大丈夫じゃろう。いい目標が出来た。儂に出来るのはあの子の成長に合わせて弓を用意してやる事かの」
「・・・弓の製作で何かお困りになったら、うちのシリカを頼って下さい。きっと力になってくれるはずです」
そうおじいさんに言ってシリカの方を見ると丁度シリカと目が合った。ちゃんとこちらの話を聞いていた様で直に頷き返してくれた。
そして私とおじいさんの話を聞いていたのはシリカだけじゃなかった模様で。
「という事は、じいさんはこれから弓を作る職人になるって事だろ?なぁ、素材はこっちで用意するから格安で作ってくれないか?」
「あ、てめぇ抜け駆けすんな!じいさん、頼む!俺の分も作ってくれないか!?」
弓を気に入った探索者達が次々とおじいさんへ弓の製作依頼をしだした。
「待て待て。まだ試作すらしていない段階で依頼をしてくるでない。ふぅ・・・こりゃノンビリしてる場合じゃないのぅ。さっさと帰って早速製作するとするわい」
そう言って帰り支度を始めたおじいさんはこっちへ振り返ると、
「まだ名乗っていなかったのぅ。儂はマスカスと言う。近々ノワールという名前で店を出すから、その時に気が変わってなければ製作依頼をしに来るといい」
こうして遺跡都市全体に武器ブームが到来したのであった。




