第74話:習得の速さにビックリしました。
※2020/02/27 一部文章を修正。
大岩がある場所に移動してきた私達。この付近はドラゴン状態のミズキが岩壁やらを体当たりで蹴散らしたおかげで、大岩がゴロゴロと散乱している。
「よし、到着。ミズキとレオナちゃんにはそこら辺にある大岩を鍛錬用の武器で斬ってもらいます」
「・・・そんな事したら刀が折れると思う」
「私の方は折れはしなくても、刃が欠けて斬れなくなるかと・・・あっ、このやり取りって武器を受け取った時にもしたような」
うんまぁ2人の意見は最もかな。そしてレオナちゃん、よくぞ思い出してくれた。刃物系の武器で岩なぞ斬ったら、折れるなり刃が欠けて使い物にならなくなる。
「普通はそう。硬い相手と戦う時は打撃系の武器や攻撃をした方が有効だし、何よりも効率的だね。普段はパーティを組んで互いの欠点を補ったりする。でもね、一々戦う対象に合わせて武器を持ち替えたり、他の者の助力を得て打開するなんて俺は嫌だね。そもそもそんなんじゃ単独行動なんて出来やしない。え?だから色んな武器を持ち歩くんだろ?ばっか、そんなんじゃ動きずらくて満足に攻撃できねぇだろ。何処の〇慶だよお前。ってほざいた人が居てね・・・その人が言うには、あれだ、俺は不器用だからよ、今から他の武器を習得するなんて器用な真似はしてられねぇんだ。する気もねぇし?俺は刀一本あれば十分だ。え?相性?そんなの、無理やり斬るに決まってんだろ。ってドヤ顔で私に言ってきてね・・・じゃあその刀じゃ到底太刀打ちできそうにない大岩も斬れるの?って言い返したら、不敵な顔して、おぅよ!岩如き目じゃねぇぜ、見てろよ?って言って岩と向き合ったんだ・・・そしてね――――」
私が自身の鍛錬用に使っている小太刀を無造作に構えて、目の前にある大岩に斬り付ける。硬い物を斬った時特有の感触が掌に伝わってくると同時に、冬の夜中に聞こえて来る耳鳴りの様な音が響き渡る。不思議と硬い物がぶつかり合って聞こえて来るであろう衝突音は響いてこない。
この衝突音が響かず独特な音が発生する点が、今回伝える技術の要点となる。目の前で大岩が切り裂かれた光景に唖然としている2人。私も初めてこの光景を目にした時、似たような表情をしてたんだろうなきっと。レオナちゃんはお目にかかるの2度目だからそんなに驚かないと思ったんだけど、初めて見た時と同様の反応をしている。
「ざっとこんなもんよ!って言って再度私に向かってドヤ顔してきたんだよねぇ・・・その後、刀の刀身を見せて貰ったんだけど、刃こぼれ一つしてなかったのは本当に驚いたな」
そう言って私も小太刀の刀身を2人に見せる。そこには刃こぼれしていない鍛錬用小太刀の綺麗な刀身があった。
「これが斬岩って言われる技術ね。原理は至って簡単。刃を対象に叩きつけるんじゃなく、引き斬る。これを突き詰めて早い動作で行うとこの通り、岩すら切り裂けるというわけ」
私は岩を斬った時の動作を、ゆっくりとなぞる形で2人に見せて行く。
「成功すれば硬い物を斬った独特の感触が手に伝わってくるから直に分かるよ。失敗したら、普通に硬い物通しがぶつかる音と共に手が痺れて刃が折れるか欠けるかヒビが入るかな。成功の目安として今さっき響いた独特の音がでれば合格」
私は鍛錬用小太刀を鞘に納めると、2人に向き直る。
「とりあえず、日が暮れるまで岩を斬り付けて感覚を体に叩き込もうか。シリカ、悪いんだけど大量に2人の武器が破損するだろうから、この場に鍛錬用武器のストックを作って貰ってもいい?」
後ろで私達を見守っていたシリカに声を掛け、2人の鍛錬の手伝いを要請する。
「いいわよ。破損したのは私に渡してちょうだい。予備の鍛錬用武器は邪魔にならない所に纏めて突き刺しておくわ」
そう言うとシリカは早速2人の武器を創り出しては地面に突き刺して行く。そしてミズキとレオナちゃんはやる気を漲らせて何度か私の動作を模倣した後、意を決して岩へと斬りかかった。
同日の夕暮れ。
「は~い、そこまで~。流石にここまで折りまくって欠けたりヒビ入ったりを繰り返せば、嫌でも体に染み付いてくるっしょ?」
目の前には息を荒くしたミズキとレオナちゃんが居る。腕は見るからに震えており、辛うじて武器を掴んでいると言った所か。2人の手に握られている武器は折れこそしていないが、武器としての役割はもう果たせそうにないほど損耗している。
「・・・難しい」
「もう少しで何か掴めそうなんですけど・・・」
互いに3桁は折っているしその倍は欠けたりヒビが入ったりしている。特にレオナちゃんは双剣の為、難易度はどうしても高くなる。
シリカが損耗した鍛錬用武器を2人から回収しつつ、感想を述べてくれた。
「初めから見てた者としての感想だけど、大分良くなってきてるんじゃない?お父様と2人の違いは何なのか私には分からないけど、音が段々とお父様が振るった時に近づいてきてる・・・そう感じたわ」
その通り。2人は着実に前進している。通常1ヶ月かかる行程をミズキとレオナちゃんは階段を3段飛ばしで登って行くようなペースでこなしている。この調子なら10日・・・いや、一週間で合格を出せる領域に辿り着くかもしれない。
凄まじいペースで岩に斬りかかっているのもそうだけど、やはり覚えが早いと感じてしまう。私が師匠に及第点という名の合格を貰ったのが丁度2週間。自分の記録をアッサリと越えられそうで思わず身震いしてしまう。私の教えが必要となくなる日は案外早く訪れるのかもしれない。
「・・・そうね、お父様に2人の武器で斬岩をして貰ってはどう?その動きを見れば改善点が分かるかもしれないわよ」
「なるほど」
「あの、キョウさん・・・お願いしてもよろしいですか?」
おっと、軽く考え事をしてる内にシリカから最もな意見が。いいですとも!
「じゃあまずはミズキの刀から行こうか」
私はまだ無数に突き刺さっている鍛錬刀の一本を引き抜くと正眼の構えをとる。そして刺突を除いた、唐竹、袈裟切り、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、左切り上げ、右切り上げ、逆風と斬岩を繰り出して行く。
ミズキが見逃すまいと見つめる中、見え易いようにゆっくりと、けど失敗しない程度に早くを心掛けたけどうまくいったかな・・・。
「凄い・・・」
「・・・」
レオナちゃんから感嘆とも言える声が聞こえて来た一方で、ミズキは無言だ。そして近くに刺さっていた鍛錬刀の一本を引き抜くと、私と同じく正眼の構えを取って振りかぶり、上から下へと振り下ろす唐竹を繰り出した。
――――それはまごう事無き斬岩と言えるものだった。それを見た瞬間、全身に鳥肌が立つ。本当に驚いた・・・まさか1日と経たず扱えるようになるとは。
ミズキはその感触を忘れまいと、唐竹を何度も繰り返す。まだ雑音が混じっているものの、岩が切り裂かれて行く毎に少しずつ改善されていっている。
10回目の唐竹で鍛錬刀が欠けてしまったが、この調子なら合格の領域にすぐ到達しそうだ。
残念ながら次の袈裟切りは上手く行かずに折れてしまったが、唐竹が出来るようになったのなら残りの斬撃は時間の問題だ。明日には一通り繰り出せるようになってるかも。
「キョウ!出来たよっ」
余程嬉しかったのか、ミズキが満面の笑顔で抱き付いて来た。ちょっ胸!ミズキの胸がっ!私の顔が挟まれて埋まり呼吸ができな~い!
「む~!む~!?」
「ちょっと、ミズキ!?お父様が、お父様が埋まってるわ!」
「・・・あ、ごめん」
「~~~~ぷはっ!?死ぬかと思った!」
胸の感触?それどころじゃ無かったです!何はともあれ、ミズキは見事斬岩を習得した。素直に褒めるべき所だよね。
「ふぅ、やれやれ・・・合格とはまだ言えないけど、おめでとうミズキ」
そうミズキに伝え、頭をナデナデしてあげる。私の身長が低い所為もあって、こちとら背伸びしないとミズキを上手くナデナデ出来ないのが悲しい。
そんな事は一向に気にしないミズキは、陽だまりの猫のような安らいだ表情を浮かべている。めちゃ可愛いよね!
「・・・さてと、次はレオナちゃんだね」
そして私は、先ほどの斬撃を見て上の空となっているレオナちゃんの頭をナデナデしだす。
「・・・ふわっ!?」
ナデナデされている事にようやく気付いたレオナちゃん、かわぇぇなぁ・・・。
「キョウさん!?・・・あれ?何で撫でられてるの私!?」
見るからに慌てだすレオナちゃん、尚の事かわぇぇなぁ・・・。
「そ、それよりも!次は私の番です!」
「うん、だからナデナデしてる」
「意味が分からないんですけど!?」
あ~もうこのまま抱きしめてしまいたい!だが、これ以上はレオナちゃんを怒らせてしまう。退き時を間違えてはならないのだ!ふぅ、ご馳走様です。
「ごめんごめん、じゃあ次は双剣でやって見せるね」
「はい、お願いします!」
基本的には刀と同じで刺突以外を双剣でやるだけ。但し、双剣の利点である2刀同時による一撃と交互に連続で斬り付ける連撃の2種類をレオナちゃんに見せる。
「見ての通りどちらも体の動きがまるで違うから、いきなり両方を習得しようとするのは止めた方がいいかな。一撃に重点を置くのなら同時斬りの方、手数で相手を圧倒したいのなら連撃だね。最終的には両方を使いこなし相手のリズムを崩す事も考えながらスイッチしていくのが理想的」
「・・・うん、私にはムリ」
双剣の動きを見ていたミズキは、お手上げとばかりに首を横にふる。双剣はハデで華やかなイメージが
強いけど、実際に振るうとなると筋力、持久力、そして何よりも体の柔軟さ・・・しなやかさを求められる。
2刀全てに体重を乗せるのは並大抵の事ではなく、体幹の重要度が他の武器と比べても圧倒的である。双剣の使い手が少ないのは難易度もさることながら、そのポテンシャルを引き出す領域にまで辿り着く事が難しいのだ。
中途半端な双剣では大剣の一撃に対応できないし、片手剣の腰が入った一撃に競り負けたりしてしまう。ミズキは私の動きから刀への応用を考えたのだろうけど、刀と双剣では動作一つ一つがまるで違う。下手に取り入れても今の動きに支障が出るだけで良い事なんてない。
これはあくまでも双剣を扱うレオナちゃんのみが参考になる動きなのだ。
「まずは同時斬りの方から・・・」
そう言ってレオナちゃんは地面に刺さった双剣を引き抜いて岩へ向き合う。私の動きをトレースして繰り出された一撃は・・・惜しい。双剣が岩へ接触した瞬間、刃を引く動作がワンテンポ遅れていた。結果、衝撃で双剣が折れとんでしまう。
「・・・くっ!違う、こうじゃない!」
シリカに折れた双剣を渡すなり、すかさず新たな双剣を引き抜いて岩へと向かうレオナちゃん。
「今の斬撃は惜しかったよ。何がダメだったのかわかった?」
「刃を引くのが遅かったかと。キョウさんは岩に斬撃を当てるんじゃなく、撫でるように振るっていた・・・」
私からの質問にレオナちゃんは満点とも言える答えを返してくれた。私が強く頷いたのを見て、再度レオナちゃんは岩へと向き直る。一度深呼吸をした後、一撃が岩へと放たれる。
瞬間、独特の音色が聞こえた。おめでとうレオナちゃん。切り裂いた感触が手に伝わったのか、自分の手を見ると同時に刃こぼれ一つしていない鍛錬用の双剣が目に入る。次に自分が切り裂いた岩を見やり、ようやく斬岩を繰り出せたという実感が湧いて来たのか、こっちへと振り返って
「やった!出来ましたキョウさん!」
そう叫んで喜びを爆発させるレオナちゃん。早速掴んだ感触を忘れまいとミズキに倣うかの様に岩へ斬りかかる後ろ姿は喜びに満ち溢れており、盛大に振られている尻尾がその気持ちを最大限に表していた。




