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第73話:地下遺跡から出て来たっぽいです。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」


 レオナちゃんがシリカから新しい鍛錬用双剣を受け取る。折れてしまった双剣はシリカに返却され、インゴットに戻るだけなので問題はない。


「難しいとは思うけど、なるべく折れないように使ってあげてね」

「はい、もっと技術を身に着けてキョウさんみたいに扱えるようになりたいです!」


 私みたいに・・・か。私よりも凄い人が元居た世界に居るんだけど、あの人が今のレオナちゃんを見たら何て言うかな。きっとレオナちゃんに誰から教えて貰ったかを聞いて、私の方を向き『非効率』って言うな。うん、間違いない。

 でも、改めて考えてみるとレオナちゃんが扱っている双剣はかなり特殊だ。多少雑に扱ったとしても早々折れたりしない・・・はずなんだけども。


「私の様にと言っても、折れる時は私も折れるよ?私やミズキが扱ってるタイプの武器は薄刃だからね。一瞬の力加減や振り抜く方向を間違えるだけでポキッっと逝っちゃう」


 対してレオナちゃんが扱っている双剣は幅広で刃も分厚め。何かに突き刺さった状態で横合いからハンマーの一撃でも貰わない限り、折れるなんて事はまずない。何よりも双剣のメイン素材にイリジウムを使っているのだ。コイツが折れるとかよっぽどの事態である。叩きつけて刃こぼれしたりヒビが入るのならまだ分かるんだけどなぁ・・・。因みにイリジウムはとっても重くてすんごく硬い金属です。


「レオナちゃん、不思議に思ってたんだけど・・・何と戦ったらその双剣が折れるなんて事態になるの?」

「実はですね・・・」


 そう言ってレオナちゃんが背負っていたバックパックを地面に降ろし、中をまさぐりだして取り出された素材を見て、私は納得した。


「成程、確かにコイツと戦ったら折れるかもしれない」


 バックパックから出て来たのはフェイスイーターの亡骸だった。


「でも、備蓄庫で会った時は一切この話題が出なかったけど、それはまたどうして?」

「父の配慮です。私達以外の人達が近くにいるかもしれない場所では、話題に出すなと言われてました。バンクには既に報告済みなので、後は向こうが情報を公開するかどうかの判断はしてくれるとも言ってました」

「地下遺跡の外で遭遇したんだよね?」

「そうです」


 そこら辺の事も踏まえて、バンクが判断するという事のようだ。


「因みに今回は誰に寄生していたの?」

「人ではなく、モンスターに寄生していました。寄生対象はエクウスです」


 エクウスとは馬タイプのモンスターだ。馬は本来草食だけど、エクウスは肉食。コイツ等は普通に襲い掛かって来て私達探索者を捕食しようとしてくる危険なモンスターだ。探索者になりたての新人がよくコイツに襲われて食われたって話を耳にする。

 その一方でエクウスのお肉は脂身が少なくサッパリとした赤身肉であり、比較的遺跡都市内でも流通している食材の一つだ。強さ的には大したこと無いモンスターな上、向こうから襲い掛かって来る事も影響してかなり狩られているモンスターなのだが、一向に減る気配がない。

 遺跡都市の人達は、エクウスの肉を保存食として処理する事が多い。栄養価も高く、探索者達のお供として永らくお世話になっている干し肉の原材料である。

 尚、私が試しに寄生虫対策をしたエクウスのお肉を馬刺しにして、生姜醤油で試食していた所、何処からか嗅ぎつけたアルとエミリさんが現れ『私達も食べたい!』と言ってきたので、生食だけどそれでもいいのか一応確認した所『既に魚の刺身を食べてるんだから、今更じゃない?』と返して来たので生肉の危険性というものを語ってあげる事に。

 そして再度食べるかどうか確認し食うなら自己責任だよ?と念を押したんだけど『ちゃんとキョウちゃんが処理してるんなら大丈夫でしょ』と一蹴され、あえなく私の馬刺しは2人に食いつくされてしまった。

 いやまぁ、寄生虫対策もしたしマイナス20度以下で48時間の冷凍処理も一応したけどここは異世界。こちらの常識など通用しない可能性が高いのだ。

 そんな私の警告も何のその。2人は『美味しい~!馬刺しって言ったっけ?エクウス以外にも生食出来そうなお肉ってあるの?』と言い出したのでエクウスだけに限定しておくよう釘を刺して置く事に。勿論、なんで?と聞いて来たので各種お肉の保菌率について説明する事に。詳細は長くなるのでここは割愛。

 結果、納得はした2人だけどいつか他の肉も生食しだすんじゃなかろうかと不安は拭いきれない。きつく言ったつもりなんだけど・・・最悪一度食中毒の辛さを味わってもらうのも手かもしれない。


 そんな事を思い出しつつ、私は改めてレオナちゃんがバックパックから取り出したフェイスイーターの亡骸を観察する。


「は~・・・コイツ、人以外にも寄生出来るんだね・・・それとよく見ると、以前戦ったフェイスイーターとちょっと形状が違うかな」

「個体差があるんだと思います。以前の私達だったら危ない相手でしたけど、マナによる鍛錬を続けていたおかげでどうにか倒せました。と言っても、私達の攻撃は弾かれて殆ど有効打になりませんでしたけど」

「ん?じゃあどうやって倒したの?」

「私が倒した」


 私とレオナちゃんの会話に加わって来たのはミズキだ。


「相手が相手だったから、シリカの刀を使った」


 フェイスイーターと戦い、倒したというミズキは何処か不満気だ。


「ほ~・・・フェイスイーターの亡骸を見た限り、斬れはしたんだよね?以前遭遇した時、斬撃は悉く弾かれていたから、寧ろいい結果に見えるけど」


 そう、このフェイスイーターはバラバラに切り裂かれているのだ。所々に凹みが見えるのは、恐らくレオナちゃんの双剣が付けたものに違いない。


「斬れはした。けど、それは力任せによるもので決して私の技術で成したものじゃない」


 あ~・・・ドラゴンの力で無理やり叩っ切ったと。鍛錬刀じゃなく、シリカが作った刀だったからこそ出来た訳だ。


「私も鍛錬用の双剣が折れてから直にシリカさんの双剣に持ち替えたんですけど、結果は折れなくなっただけで切り裂くまでには至れませんでした」

「ふ~む、なるほどねぇ・・・」


 2人の不満は理解した。これ以上ない位の切れ味を誇っているシリカ作の武器を使用したのに、斬れなかった。その打開策及び修正点の指摘が欲しいって所かな?でもその前に――――


「ミズキ、技術面で斬れなくても斬れた事に変わりないんだよ?時には力でねじ伏せる事もある・・・その場で実行できる選択肢が在った事、それが出来た自分をまずは褒めてあげないと・・・ね?」

「・・・うん」


 まぁ言われてすぐに納得できないのは承知の上だよ。自分が求めてる結果を得られなかった訳だし、不甲斐無いと感じてしまうのも分かる。


「じゃあこう言おうか。レオナちゃんも言ってた事だけど、その場にいた面々で有効打を与える事が出来たのはミズキだけだったんだ。もしミズキもダメージを通せなかったら最悪その場で全滅、そのままフェイスイーターはミリアさんを突破して遺跡都市へと侵入して都市の人達に襲い掛かり、今頃私はその対処に奔走していたかもしれない」

「「・・・」」


 ミズキだけでなくレオナちゃんもその最悪を思い描き、苦い顔になる。


「まぁあくまでも最悪の話だからね?リカルドさんも居た事だし、誰も攻撃を通す事が出来ないと分かったら、すぐ遺跡都市に救援要請を送る要員を走らせると同時に誰かしらに念話で緊急事態を知らせてたよ。残りはひたすら時間稼ぎと足止め及びその場への縫い付けって所かな。それすらも難しいようなら、素直に逃げる。自身及びパーティメンバーの命が何よりも最優先だからね・・・とはいっても、前回と違って野外だったのならレオナちゃんの能力で焼き払う事も出来ただろうから、まず起こらない話だけどね」


 今回の出来事はいい経験となったに違いない。その体験を元にこうして大事な助言をしてあげれているのだから。


「まぁ何が言いたいかというと、実戦はこちらの都合など関係なく起きるという事。常に相手が格下だなんてあり得ない事。普段行っている鍛錬は実戦で実行できる選択肢を増やし、生き残る可能性を少しでも上げる為の物。生き残る為ならば、逃げる事に躊躇しない事。あとは・・・実戦はいわば殺し合い、手の内を考え無しに全て晒すのはダメだけど出し惜しみしてると、その内足元を掬われるよ?拘りを持つのは悪い事じゃないけど、自分の手札を切る場面を見誤っちゃダメ」


 ミズキの場合は普段セーブしてるパワーなり、元の姿に戻る事がそうだし、レオナちゃんの場合は発火の能力が該当する。

 2人は武器で相手を倒す事に傾倒しがちなので、ここで注意出来た事の意味は大きいだろう。武器はあくまで攻撃手段の一つであって絶対ではない。効かない場合は直に他の手段へ移行すべきだ。


「ミズキは前回同様斬れなかったから止む無くパワーを上げたのかもしれないけど、その判断は間違ってないんだ。大事なのは倒す方法じゃなくて、倒せるかどうか。武器が有効じゃない場面で他の手段があるのなら、即そっちに切り替えよう。おっけー?」


 私がそう締めくくると2人は神妙な顔で頷いた。よろしい。


「とはいえ、武器による攻撃に拘る気持ちも十分に分かる。なので、これから硬い物を斬るにはどうすればいいのか、実演も踏まえて教えます」


 2人の表情が一気に明るいものへと変わった瞬間だった。

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