第7話:仲間が増えました。
投下。日が変わってしまった。オ・ノーレ!!
精進いたします、ハイ。
※2019/03/29 一部修正。
気配を抑えながら騒ぎがする方向へ進んでいると所々に血痕が見られた為、慎重に進む事少々。低木の濃い所からソッと顔を覗かせてみると、大きめの狼?柴犬?のような獣が横たわっておりその後ろに子供であろうか2匹の獣が悲壮感漂う鳴声で親狼?に泣きついている。
そこから少し離れた所に立派な牙が血に染まっているイノシシ?のような獣を発見。大自然の過酷さというものを体現している光景がそこには広がっていた。
「弱肉強食って奴か・・・よくある事と言ってしまえばそれまでなんだが、なんか様子がおかしいな?」
「うむ、あれだな。あのずんぐりむっくりしてるの、食べる為ではなく遊んでいるような感じがする」
そんな会話をしている内に、子狼の片方がお母さんの仇!というような形相でイノシシへと向かっていく。
イノシシの方はというと、特に動きは見せず子狼に噛み付かれても痛くも痒くもないわ!という雰囲気を醸し出しながらそのまま親狼の方へと歩き出す。
徐々に速度を上げていきその勢いのまま横たわっている親狼へ、ぶちかましをかます。その衝撃で噛み付いていた子狼は吹き飛ばされ、親狼に寄り添っていたもう一匹は親諸共巻き込まれ後ろの大木へと叩きつけられた。聞くに堪えない慟哭が響く。
吹き飛ばされた方は地面に叩きつけられはしたものの、まだ動けるようだが大木に叩きつけられた方は動く気配がない。親狼の方は・・・既に息がないのだろう。大木に新たな血痕を刻み付け、そのすぐそばには全ての元凶であるイノシシが嘲りを多分に含んだ表情でその結果を見下ろしていた。
「・・・どんな所でも弱い者いじめってのは、胸糞悪いな」
「どうするつもりだい?」
「せっかくだ。あのイノシシ、今日の晩飯にするか。食えないって事は?」
「僕が見た限りでは大丈夫だね」
精霊さんからも食ってよし!という中々に過激なお声を頂きました。
「よし・・・こっちに来てから初ともいえる戦闘?もとい狩猟だ、安全確実に逝ってみよう」
「なにやら不謹慎な響きが混ざっていたような気がするけど、力の加減にはくれぐれも気を付けるんだよ?」
「了解。力み過ぎて自滅とか、本当に笑えないからなぁ」
元の世界でもそうだったんだが、マナを取り込み気として発動する時、加減を間違えると自分の体が耐え切れず、最悪壊れるという事が起こる。
向こうにいた時早い段階(自分が小学1年の時)で、それをやらかし救急搬送されるという事態に発展してからというもの、マナを取り込み体に馴染ませながら体が耐えれるギリギリの所を見極め尚且つ気を運用し続けるという、とち狂った鍛錬を己に課していた。
そのおかげで俺の体はマナにどんどん適応していくと同時に、気として発動する際に体へとかかる負荷にも強くなった。目に見えない第3の筋肉が身に着いたとでも言えばいいかな。
以前は出来なった拳大の石を握り砕くという行為(やろうとしたら腕全体に痛みが走った)が、今なら豆腐を握るが如く出来る上に痛みも走らないと言えば伝わるだろうか。
気を運用しているときは体の強度も上がるようで、未使用の時はサボテンに触れると棘が刺さって痛いが、運用中だと刺さりすらせずそのまま抱えて運ぶ事が出来る。
とはいえ、こちらの世界ではマナ濃度が段違い。同じ感覚で気を運用しようものなら、んー?間違ったかなぁ?というフレーズが頭に響いたその瞬間、体が弾けてしまうに違いない。俺はもう死んでいる。
「さて、アホな事考えていないで晩御飯をゲットしに行きますか」
俺はマナで気を運用しつつイノシシの後ろへと周り込む。気を運用する事で俺の存在感は自然のそれと化すので見つめられでもしていない限り、俺を特定するのは難しい。
暗殺者の如くイノシシの後ろに到達し、俺は飛び上がりイノシシに跨る。跨ると同時に左右から生えている牙を掴み時計回りに回す。瞬間、硬い物が外れる感触と耳障りな音が鳴る。
すぐさま飛びのき獲物を観察する。イノシシはそのまま倒れ込み、何が起こったのか最後まで知覚する事なく嘲りの表情そのままに息絶えていた。
「ミッションコンプリート」
「それだけで、誰の事を指しているのかわかる人はそうそう居ないと僕は思うんだ」
分からなくたっていいさ。ただ一度言ってみたかっただけさ!
そう思いつつイノシシに近づいていくと、噛み付き吹き飛ばされた方の子狼がこちらへと近づいてきた。そのまま俺には見向きもせず、親狼ともう1匹の元へと寄り添い力が尽きてしまったのか気絶してしまった。
「どうしたもんかなぁ」
「キョウの好きにするといいさ」
さすがにこのまま放置とか・・・できないよな。
とりあえず、この2匹の子狼の安否を確認する。大きな怪我とかはないようで、所々汚れてしまってはいるが命に別状はないようだ。ひとまずは安心だろう。
親狼の方は、やはりもうダメなようだ。こちらは後で簡易的なお墓を作ってあげよう。
「・・・肉の処理をさっさとしちまおう」
俺はナイフを取り出し、頑丈な蔦をある程度束ねたロープを作りイノシシの腹回りに巻き付け木に吊るす。そして吊るしたそのすぐ下に穴を掘り、イノシシの首をナイフで切り裂き血抜きをする。
血が抜けきるまでの間に親狼を収める穴を掘り、底に埋葬する。
「あんたの子は俺が預かった。確約はできんけど、独り立ちできるまでは俺が育てよう。安心はできんだろうが、見守ってあげてやってくれ」
俺はそっと手を合わせしばし黙祷をする。
「・・・よし!こいつら連れて帰るとするか」
「起きた後のフォローが大変だろうけどね・・・うまく落ち着くといいけど」
「そこは俺もどうなるか分かんないな。噛み付かれて『ほら、痛くない』を実行するにはサイズがサイズだし」
「そんな事したら、最悪キョウの腕が千切れ飛ぶ気がするね」
「・・・気纏っておくわ」
こんな所で隻腕になるのはゴメンである。
俺は両肩に子狼を担ぎ上げ、バランスを取りつつ血抜きが終わったイノシシを引きずっていく。もっと丁重に扱いたいが別々に輸送するわけにもいかない。目を離したすきに掠め取れでもしたら目も当てられん。
多少手間取りはしたが、無事遺跡前へと帰還。目の届く場所に2匹を下ろし、早速イノシシを解体していく。
皮は何かに使えるかもしれんが、如何せん処理の仕方が分らん。止む無く内蔵と一緒に掘った穴へと投棄する。くそう、勿体ない。
それにしても、肉の量が凄まじいな。俺は焚火を熾しながらどう肉を消費していくかを考える。
探索の途中で岩塩が手に入ったから、塩はある。油もあるからやろうと思えば揚げる事も可能か。コンソメスープもあるし煮込みもいける・・・が、鍋など無い。鍋・・・鍋かぁ、そのうち作れたらいいな。
・・・今食う分は塩で焼き上げてみよう。残りはとりあえず塩漬けにして干そう。いい感じに水分が抜ければそのまま干し肉にしたり、燻製とかにしてもいいだろう。よし決定!
焚火で肉を炙っていると、匂いに反応したのか子狼達の目が開いた。瞬時に臨戦態勢と思しき態勢を取ってこっちを威嚇してくる。
「おいおい、命の恩人に対してその態度は頂けないな」
まぁ、通じてはいないと思うが言わずにはおれない。暫くの間、お互いに睨み合う形となる。このままこの場を去るというのなら、仕方ない。親狼には悪いがそこまで面倒を見る気はない。逆に飛び掛かってくるというのなら、やむを得ん・・・椿と精霊さん達にお聞きして、食肉可ならお肉と化してもらう!
さぁどう出ると警戒していたら片方の子狼の耳が垂れ、伏せの姿勢を取った。それを見たもう片方の子狼も唸り声を止め伏せる。
・・・まさかとは思うが、俺の言葉が理解できたのだろうか?
「椿?」
「うーん、何とも言えないなぁ」
俺は今焼いている肉に目をやり、
「この肉はお前らの仇の成れの果て・・・なんだが、どうする?食うか?」
そう言って子狼達の目の前にソッと差し出してやった。
すると、悲しいような表情をしばしの間見せていたがおもむろに肉に顔を寄せ、匂いを嗅いだ後少しづつ食べ始めた。
一通り食べ終わった後、じっとこちらを見上げてくるので、
「俺と一緒にくるか?」
と聞いてみた。すると、2匹は俺の元までやってきて体を擦り寄せてきた。
「・・・そっか。今はまだ心の整理が追い付いてないかもしれないが、よろしくなお二匹さん」
そう言って優しく2匹の頭を撫でてやった。