第68話:お店のプレオープンに招待されました。
本日は食事処アオイのプレオープンである。エミリさんが開くお店の名前は結局、リカルドさんから挙がった名前候補から決まる事は無かった。
いや、本当にリカルドさんは頑張って考えていたんだよ?リカルドさん的には末永く立派なお店になって欲しいというのをテーマにして、ヴィクトリーとかグローリーとかエクセレントとかもう色々と・・・ね。
個人的には栄光って意味があるグローリーとかいいと思うんだけど、エミリさんはどうしてもシックリと来なかったみたいで結局没に。
そしてとうとうネタが尽きたリカルドさんが『キキョウ君、もう俺はダメだ!何かいい名前は無いかい!?』と助けを求めて来たので、その場に居たエミリさんから了承を頂き一緒に考える事に。
飲食店の名前と急に言われても勿論思い浮かばない。私自身もネーミングセンスは無い部類だと思っているので、大抵は他所から名前を頂いてくる。
今回もそんな感じで名前の候補を考えてみた。私は植物関係から名前を頂く事が多いので、そっち方面でいいのが無いか候補を絞っていく。
そこで花言葉の存在を思い出した。それと同時に飲食店とはどういう場なのかを考えてみる。食事をする所、人が集まる所と連想していき・・・出会いがある所と連想した辺りで、出会いという響きがとても良く合うんじゃないかと思った。
料理に出会う、人と出会う・・・よし、確か花言葉でも出会いに関するものがあったはずだ。とはいえ、あまりお店の名前に合致しそうな植物の名前が出てこない。
キブシとかセンテッドゼラニウムがそうなんだけど、お店の名前にするには今一な気もする。一部切り取って使うにしてもセンテッド・・・うん、何かしっくりこない。ゼラニウム?鉱物っぽくて飲食店に付ける名としてはいかがなものか。キブシ・・・キブ?これじゃあ何処ぞのサッカー選手の名前になってしまう。
ウンウン唸りだした私は、自分だけで考えても仕方ないと思って考えていた内容を2人に話す。そこでエミリさんが『出会いって響きがお店に合いそうって所は私も賛成。問題は出会いで連想できる名前が殆ど思いつかない事かなぁ・・・キョウちゃん、その花言葉で当てはまるのは他に無い?』と聞き返してきたので、他に出会いに該当する植物を思い出してみるが残念ながらこれ以上は出て来そうになかった。
その代わり、センテッドゼラニウムの別名をいくつか思い出した。ニオイゼラニウム、コウリョウゼラニウム、ハーブゼラニウム、ニオイテンジクアオイ・・・と、エミリさんやリカルドさんに別名を伝えていき、最後に挙げたニオイテンジクアオイの所で『ニオイテンジクアオイ・・・最後の部分のアオイって部分、お店の名前にいいんじゃないかな?』とエミリさんが私達に聞いて来た。
リカルドさんはもう自身で良い名は出てこなさそうとだと前置きした上で『エミリがその響きでシックリ来ると言うなら、俺はそのアオイという名前で良いと思うぞ』と答え、私は『お二人のお店ですから、双方が納得いくのでしたらアオイでいいんじゃないかと。そうですね・・・私の故郷風に名を付けるのなら、食事処アオイって感じでしょうか。お店の名前の前にどんなお店なのか分かるように区分けするんです。武器屋アオイとか宿屋アオイとかそんな感じですね』と答えた。
結果、食事処アオイという名にする事が決まった。決まった瞬間、リカルドさんはテーブルに突っ伏して『当分名づけとかゴメン被りたい』とボヤき、エミリさんは『リカルドにしては粘り強く考えてくれたわ』と苦笑交じりではあったものの、リカルドさんの事を珍しく労っていた。
お店の名前が決まる頃には内装も整い、外装も後は看板を付けるのみとなった。敷地内のガーデニングも済み、店外で食事を希望する人向けにベンチやテーブルを設置し、景色をまじかで楽しむ事も出来るようにしてみた。
残りはお客さんに提供する料理の価格設定くらいである。周りに競合店など存在しない為、強気の価格帯で行く事も可能だろうがエミリさんはなるべく多くの人に料理を食べて欲しいという考えの元、使用した食材代といくばくかの料理代で設定すると公言していた。
遺跡都市で売られている食材の殆どは遺跡内で採取或いはモンスターから得られる肉類だ。遺跡に入れない子供達が遺跡都市の外部分で採って来る食材も少量ではあるが出回ったりする。
大量に手に入る食材はキロ単位で大体銅判1枚から3枚の間で取引され、希少で高価な食材でも銀判2枚から5枚位の間で取引されるのが殆どだ。
また季節によって旨味が増す食材も存在しており、旬の時期は銅判から銀判に格上げされる食材もあったりする。
尚、品質が悪いポーション一つで銀判1枚、品質の良いポーション一つで銀判5枚で売られており、バンクで一番難易度が低い採取クエストと言われている暖炉石5個と冷蔵石5個納品するクエストで銀判1枚が手に入る。
つまり、各々を25個集めて納品すればそれだけで銀判5枚が手に入る。遺跡都市に居る人達は基本的に自らの住家がある事も考えると、とても豊かな暮らしだと言える。
まぁ遺跡都市の人達は探索者たるもの、モンスターと戦ってなんぼって方々が大半で、よっぽどお金に困らない限りこの納品クエストは受ける人が居ないと以前エリスさんがボヤいていた。
なので私が探索ついでにこのクエストを受けて、バンクへの供給を満たしていた。よって我がクランは意外と金持ちだったりする。
黒いモンスターやフェイスイーターで得た素材も、一部バンクが買い取りたいという申し出があったのでコレを売却。結果、我がクランはバンクにおおよそ金判100枚という貯金が出来上がった。ホクホク。
私のクランの面々はほぼ全てにおいて自給自足で成り立ってしまっている為、お金の使い道がまるで無い。ちゃんと皆へ収入に見合ったお金を分配してるんだけど一様に『使わないからクランの維持費に使って』と言われ、結局は私が管理する事に。
因みにビッグホーンラビットは全売却で金判1枚という価格が付いた。見た目に反してそのお肉はジューシーで遺跡都市の人達からはご馳走の一つとして食卓に上がるそうな。角もインテリアに使用される事もあれば、防具の素材にもなるそうで殆ど捨てる箇所が存在しないとの事。
これ程の収入が見込めるのなら、誰もが探索者になりたいと思うのも頷ける。けど現実は遺跡都市の住人の2割程が探索者で残りは違う。探索する以上、命の危険は常に付きまとい、その所為で腕を失った物、探索に恐怖を覚えた者、様々な出来事や理由によりドロップアウトしていくのだ。
じゃあ8割もの人達は何をしているのかというと、ざっくりと言うと遺跡都市の維持管理である。公共施設である浴場やトイレ等の施設を管理したり、下水処理、崩れそうな外壁の補修等々。
これらの仕事をバンクと提携して住民達に割り振っているのが、所謂お貴族様方である。バルガスもこのカテゴリーに含まれるそうで、以前バンクの会議室で『儂のおかげで遺跡都市が成り立っているのだ!』と偉ぶっていたのは、この仕事をこなしていたから。
これら割り振られた仕事をこなしている住人の一日の収入は銀判1枚。それでも食費にかかる食材の大半が銅判1~3枚程で買える事を考えれば、悪くない収入と言える。
8割の中に防具屋やポーション屋も含まれているんだけど、これらを営んでいる方々は大抵身内に探索者が居る。
使用する素材類は身内が安く或いは譲ってくれたりするので元手が抑えられる上、防具に至っては安い物でも金判1枚はする。
ポーションの方も容器以外の素材は安く手に入れられるし、探索者達に常に必要とされる消耗品である事から多利多売が見込める。尚、容器は探索者が使用済みの物を回収して再利用したり自身で製作したりしている者もいる。
因みに武器屋は存在しない。嘆かわしい事だよね。採取とかに使われるナイフ類は防具屋でついでに売られている。
という訳で、エミリさんは恐らく料理の価格帯を銅判2枚から4枚辺りで設定するものと私は考えている。高い料理でも銀判3枚から6枚という予想だ。
本日の食事処アオイに招待された面々は我がクランメンバー達とガルドさん、ロイさん、シエルさん。リカルドさんのクラン、スルトの面々はエミリさんが扱う食材を調達するべく裏方に回るそうな。
ツバキとシリカが食事できない事を心底残念がっていたが、今の所ソレを解決する術は見いだせていない。
今度ティリアやナギに相談してみようと思う。精霊の2人ならば、もしかしたら解決策を知っているかもしれない。
こうして私達は食事処アオイの前で集合を果たし、雑談をしながら店内へと歩みを進めるのだった。




