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第62話:夕食で戦争が勃発しました。

「美味ぇっ!?美味しいぞぉぉぉ~~!!今まで食ってたものなんざ比較にならねぇっ!」

「落ち着けリカルド!嫁さんが用意した飯が美味いのは分かったから、食いながら話そうとするな!周りに飛び散るだろうがっ!?」


 リカルドさんとガルドさんが最早定番とも思ってしまうようなやり取りを繰り広げている。

 現在、エミリさん宅の敷地内で私とエミリさんが作った料理をテーブルにズラリと並べ、立食形式で頂いている。

 残念ながら室内では総勢14名もの大人数を格納できるスペースは無かった為、このような形式をとる事に。とりあえず食事を終えたら座って休む事が出来る様、少し離れた位置にイスとテーブルを設置したのでそちらでくつろいで欲しい。


 私のクランメンバー達とレオナちゃん、エミリさんは我が家である遺跡にてアルの料理や私の料理を経験済みなので、そこまで騒ぎもしないし驚いたりはしない。散々我が家でその光景は堪能した。しかし、


「おいこらシエル!それは俺のだっつっただろうがっ!」

「何言ってんのよ!?あんたそれ1人で幾つ食べるつもりなのよっ!ちょっとは遠慮しなさい!」


 ロイさんとシエルさんがとある料理を巡って醜い争いを繰り広げていると思えば、


「お姉ちゃん、ズルい!それ私も狙ってたのに!」

「ダメよっニーナ!いくら妹でもこれは譲れない!」


 こっちでもミアンとニーナが同様の争いを起こしている。


「ははは、いやいや・・・凄い光景だね」


 その光景を一歩引いた場所から眺めているのはカイムさん。でも手に持つ皿にはしっかりと大量の料理が積まさっている。


「!?ガルドっ!その料理を寄越せぇぇぇっ!」

「うおっ!?まだあっちに大量にあるんだから取りに行けよっ!」

「貴様に嫁の飯を食わせてなるものかぁぁぁっ!」

「ふざけんなっ!?キョウが作った奴なら問題ないってのか!?」

「ヌァァァァァッ!!」

「聞いちゃいねぇっ!?」


 ・・・大変っすね。ガルドさん。本当に何と言っていいのやら。


「あらあら、アレはちょっと目に余るから止めて来るわね?」


 そう言ってエミリさんが音もなくリカルドさんの後ろに立って


「ほら、貴方?人様に迷惑を掛けちゃダメでしょ?」

「うっ!?」


 躊躇いなくその首に手刀を打ち込んで意識を刈り取った。


「ごめんなさい、ガルドさん。どうぞゆっくりしてってくださいね?」

「お、おう。つか、リカルドは大丈夫なのか?」


 そのままエミリさんはリカルドさんを掴み、引きずりながら家の中へと入っていった。


「・・・恥ずかしいです」


 父親の醜態をマジかで目撃していたレオナちゃんは顔を真っ赤にしている。リカルドさん、娘さんの好感度がまた下がりましたよ?


「いや~それにしてもすんごいね?まさかエミリさんとキョウちゃんの作った料理で戦争が起きるなんてね」

「笑えない冗談だね。このペースだと追加で新たに作らないと料理が枯渇しそう。シリカとツバキが皿洗いと片付けをしてくれてるから、今の内に何皿かパパっと作っちゃうわ」

「よし、日中私はシリカの方に行ってたけど今度はキョウちゃんの方を手伝うとするかな」

「アルが手伝ってくれるのなら心強い。エミリさんともローテーションを組んで、皆の腹を満たすとしますか」


 強敵なのはミズキだけだと思ったのがそもそもの間違いでした。他の面々も大食い選手権か何かの如き勢いで一つまた一つと料理が盛られた皿を平らげていく。

 この勢いを止めるいい術は何かないのか!?煮込み料理は時間が掛かってしまう為、今のこの状況には適さない。なるべく短時間で大量に仕上げる事が出来る料理が望ましい。

 料理を作るペースが鈍って来た私とエミリさんがローテーションで入れ替わる。アルの方もレパートリーが苦しくなって来たのか焦りが見えて来た。こうなったら、再度同じ料理を作って出すか?いや、既にエミリさんがおかわりを求められた一品をお出ししている。レパートリーがまだ乏しいエミリさんにおかわりをお任せして私とアルが新たな料理を出さなくてわ。

 えぇい!パスタやパンがあれば、いくらでも量産など可能だと言うのに!あれらはソースや挟み込む具材で幾らでもアレンジが効く。連続で出さずに一定のペースでお出しすれば、炭水化物という事もあって皆の腹リミットを素早く減らせるってのに!


 ここに来て遂にアルの手が止まってしまう。ネタ切れだ!アルの料理歴も決して長い訳ではない。私と知識共有をしているとはいえ、それでも限られた食材の中で被らずに新たな料理となるとキツイものがある。

 ・・・そうだ、アレがあったじゃないか!パスタやパンにも並ぶ主食の代表格。お米!コンロ口は空いてないのですぐさま敷地の空きスペースに焚火台を設置し火を起こし、仮設のコンロを手早く用意して米を炊く。

 アルの方もどうにかこうにかアイデアを引き出して調理に取り掛かっている。よし、もうひと踏ん張りだ!もうじき増築ついでに敷地の隅っこに設けた石窯で焼き上げている猪肉のローストが仕上がる。別途こちらで切り分けて、皆の視線や鼻を引きつけつつ2人の援護をする!


「はい、こちら猪肉のローストが焼きあがったよ~。こちらの特製醤油ダレを掛けて食べると美味しいよ~。シンプルにこちらの岩塩で食べるのもアリだ~!」


 私は声を張り上げつつ石窯から猪肉のローストを取り出し、仮設した調理台の上に置く。するとその瞬間、焼きあがった猪肉のローストから香ばしい肉の香りと脂の甘い香りを伴って辺りへ広がっていく。

 私は手早く猪肉のローストをスライスしていきながら、周りの反応を確認する。よし、皆の視線と鼻を引き付ける事に成功した!アルとエミリさんの方へ目を向けると、2人が強く頷くのが見えた。今の内に立て直すぞ!


 炊きあがったお米を使用したアツアツでパラパラな炒飯を投下してしばし、皆の腹は満たされたのかペースがガクっと落ちたのを見計らい、デザートとして果物を切り分けて提供する。本当はアイスとかチョコとかをお出ししたいけど、材料諸々が現状では揃わない為製作ができない。材料が見つかり次第作ってみたいものです。


「・・・」


 あ、アルが轟沈してる。なんだかんだ言って朝から晩まで働き詰めでしたね。お疲れ。


「ほら、アル?賄い作ったから、あっちで休憩しがてら食べて来るといいよ」

「ありがとキョウちゃ~ん。うぅ、疲れた・・・探索するより疲れた」


 料理人達の激務具合が分かる光景だねぇ。忙しいお店だと普通に体重が落ちるからね、この業界。火元の近くに常にいる事もあって、汗も凄い事になるし。


「どうでしたか、エミリさん?料理を提供するお店が繁盛すると大体こんな感じです。普通は注文を受けてから作るのでここまで無軌道じゃあないですけどね」


 私は苦笑しながらエミリさんに今日の感想を聞いてみる。


「いや~激動でしたね。自分の未熟さ加減が良く分かりました」

「いやいや、何を言ってるんですか。料理に興味持って調理し始めてまだ1日経ってるかどうかですよ?既にこれだけ動けるんだから、驚異的ですよ」

「んふふ~キョウちゃんにそう言って貰えると自信つくかな~。にしても、お二人の引き出しの多さには脱帽です。咄嗟の出来事にもすぐ対応できる所とか凄かったです」

「あればっかりは経験ですよ。調理をしていると些細な事から厄介なトラブルまで様々起こりますから。食材が底を付くとか、想定外の人数が押し寄せるとかですね。こういう出来事の蓄積が料理人としての土台になっていきます」


 我が家には暴食の権化とも言えるミズキが居ますから。カシアやマグルも普通じゃない量をお腹に納めるから、私とアルの料理人としての経験は結構なものだ。


「当分開店はしないけど、私1人でこなせるのかちょっと不安になってきた」

「そこはリカルドさん達と要相談ですね。誰かをサポートとして付けて貰うか、お店の経営方針でお客さんの人数を制限するか・・・色々やり方はあると思います」

「ん~・・・お客さんに対しては余り制限とかは付けたくないかなぁ。誰でも気軽に来れるお店にしたい所ね」

「となると、今日の布陣が参考になるかと。私とアルとエミリさん、それに裏方としてシリカとツバキの計5人で11人の腹ペコ達を抑えた・・・あ、ダメか。今回はバイキング形式にしたからこのパターンじゃないと参考にならないですね」

「月に何度かバイキング形式で振舞うのも悪くないって考えてるから、十分参考になってるなってる。後思ったのは、お客さんの入り様によってはコンロ口が2つだと心許ない事かな?」

「ですよね・・・家庭用を想定して今回のシステムキッチンを組んだから、お店として使用するとなるとキャパシティが圧倒的に足りないですね」


 まさかお店を出す方向になるとは思ってなかった。普通にお店として機能させるシステムキッチンならば、今の倍はスペースが欲しい。


「む~・・・キョウちゃん、私達の家の隣って空き家なんだけど、そこを買収して自由に使えるようにしてお店に改築したらどうかな?」


 なんかトンデモナイ事を言い出したぞ?え、隣の土地を物件ごと購入するつもりですか?


「それは・・・あくまでこっちは家庭用ですからね。隣を買収して完全にお店とするのなら、本格的な規模の奴をシリカやアルと協力して組んで見せますけど・・・本気ですか?私達の喧騒と料理の匂いに釣られて、結構な人達がこっちを見てはいましたが・・・流石にリスクが大きすぎるんじゃないです?」


 ここまで大事になってくると、発言は慎重にならざる負えなくなる。自分のお店を持つとか、一世一代の大起業ですからね。


「キョウちゃんがオッケーしてくれるのなら、私はあらゆる手段を用いて隣を確保するよ?私は今日の皆の反応を見て確信した!これはイケるって!探索の方は難しくなるけど、私はこっちの道に進んでみたいの」


 これはマジですわ。いや~展開が突飛過ぎて付いていくのがキツイわ~。この規模の話を即断即決で進めるとか、私はムリ!


「・・・そこまで言うのでしたら、こちらとしては許可を出さざる負えませんね。けど、今回は新たな料理人誕生を祝してシステムキッチン諸々を贈りましたが、こちらのお店の話は別です・・・正直、何処まで私達の手を借りようと考えてます?」


 ここからは商談である。私だけでなくクランメンバー達の力も確実に必要になる。シリカとアルは必須と言ってもいい。


「手は抜きたくありません。お店の改築からシステムキッチンの製作及び設置までをして頂きたいです。後は料理に必要となりそうな設備の追加を」


 うおー殆ど丸投げっすね!?建物そのものの改築もとなると、流石に私だけで決めていい話じゃない。急遽私は食休みをしているクランメンバーをこっちへと集める。


「・・・という訳なんだけども。暫くシリカとアルをこっちの作業に専念して貰うって事でよろしいでしょうか?特にご本人方」

「お父様、私は構いません。寧ろ、一からとか楽しみです」


 うん、すっかり職人と化したシリカは心配してない。問題はアルの方だ。


「うぐぐぐ、た、たまにカシアちゃんやマグルを愛でたり、息抜きとして探索に行ってもいいのなら・・・」

「うん、探索くらいなら全然構わないよ。カシアとマグルに関しては本人達と交渉しなさい」


 首を縦に振ったアル。よし、確保ー。


「残りの面々は随時必要になった時に声を掛けたりするけど、それ以外の時は好きに動き回ってて問題ないからね?よし、皆ありがとねー」


 皆は食休みの続きを堪能すべく、周りへと散っていった。


「と言う訳で、こちらは問題ありません。あとは作業に対する対価ですが・・・」


 私は何処ぞにいる司令官の様に腕を組み、そこに顎を乗せる。これ程の大規模作業だ、安請け合いはしませんよ?


「そうね・・・私のお店で出す料理をクランメンバー全員ずっと2割引きってどうかな?」

「ダメです。お店が上手く行く保証は今の所ありません。何か目に見える形で利益になる物を要求します」

「む~・・・キョウちゃんが手強い・・・なら、リカルドを奴隷の如く酷使できる権利とか」

「リカルドさんが不憫過ぎるので止めてあげてください!」


 エミリさんの場合、冗談じゃなく本当に実行してしまいそうで怖い!


「まぁ、ソレは冗談として・・・やだなぁ、そんな『冗談って本当ですか?』って顔しないの。流石にうちの旦那を売り飛ばしたりしないわよ~」

「人身売買以外でお願いしますよ!?」

「と言う訳で~・・・これ何かどうかな?」


 そう言って持ってきたのは、一つの赤い鉱石の様な物。


「これは?」

「わかんない~」

「・・・はい?」

「正確に言うと、どんなに調べても何なのか分からなかったの。私の伝手でバンクのとある方々にも調べて貰ったんだけど、そっちでもお手上げ。分かってる事と言えば、この鉱石っぽいのはモンスターの体内で精製されたって事くらいかな。なんせ、モンスターを解体してる時に出て来た物だから」


 その話、とっても身に覚えがあります。しかも悪い意味で。それっぽい一つは私の体内へと消えたし、残り2つも我が家の物置辺りに置いてあるはず。

 正直、手に取りたくはない。でも、エミリさんがしっかりと手に持ってきたのだから触っても問題ない・・・か?あの時は確か、光を発した瞬間に体内へと消えたから、直に放せば大丈夫・・・かなぁ。

 そんな内心を押し殺して、私はその赤い鉱石の様な物を手に取ってみる。


「・・・何というか赤い水晶って感じですね?」

「見た目はね~でもそれ、全く異なる組成?で出来てるって話だよ。どうかな?正直、価値を付けるのが難しい代物なんだけど、キョウちゃんってお金とか興味無さそうだしこういう未知未知してる物だと食いつくかな~って」

「・・・」


 どうやら赤い鉱石っぽいコイツは触れても問題ないようだ。まぁもう油断なんてしないけど。


「どうでしょうか?」


 エミリさんがこっちと同じく司令官のポーズで返してくる。私は赤い鉱石っぽいのをテーブルに置き、しばし考える。


「・・・よし、決めました。これで手を打ちましょう」

「よかった~・・・これでダメだったら、いよいよもって自分の身を差し出す位しか手段が残って無かったんだよね~」

「いえだから、人身売買はNGって言いましたよね!?」


 私からの突っ込みも何のそのって感じだ。全くいい度胸というか何というか・・・。


「よ~し!じゃあちょっとうちの旦那と話をつけてくるね~」


 そう言って立ち上がったエミリさんは、テーブルを囲んでいるリカルドさん、ガルドさん、ロイさん、シエルさんの所に行って何やら話し出す。

 何かリカルドさんの絶叫が聞こえて来た。


『まてまて!エミリ、ソレは無理だって!え、俺のへそくり?ちょっ!?何で知ってるの!?や、ヤメテー!それだけはご勘弁を!』


 ・・・ガルドさんとロイさんとシエルさんが哀れな者を見つめるようにそのやり取りを見守っていた。そして、遂にリカルドさんがテーブルに突っ伏して嗚咽を漏らしだす。

 そしてその状態で何やら頷くような仕草をしたのを見届けたエミリさんは、満面の笑みでもってこちらへと戻って来た。


「おっし!隣の空き地&空き家をゲットしたよ~。いや~物件の持ち主がシエルちゃんで助かっちゃったよ~格安で譲って貰えちゃった♪」


 絶対に確信犯だコレ!リカルドさん、貴方は一体どんな弱みを握られているんだ?テーブルに顔を押し付けてすすり泣く姿を見つめながら、私もガルドさん達と同様に同情の眼差しをリカルドさんに送るのだった。

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