第61話:新たな拠点が誕生しました。
「お、終わった~・・・」
「過密な一日だったよ・・・」
「アル、まだお昼を少し回ったばかりよ?」
疲れた。本当に疲れた!アルの今日はもう終了という気分も分からなくもない。よって、シリカに加勢するのは止してあげます。
「お疲れ様です皆さん、そしてこんな立派な物を本当にありがとうございます。ふふ、これは期待に応えて腕を磨かないといけませんね~」
ここはエミリさん宅。そして私達はシステムキッチンの搬入及び設置作業諸々を終えた所である。案の定、搬入した機材が上手く納まらなかったので、エミリさんから許可を頂いてシステムキッチン側ではなく家の方に手を加えてどうにかした。
エミリさんの満面の笑顔はシステムキッチンが我が家に来たのもそうだろうが、設置する上でキッチンとして使用している区画を改築及び増築した事も大きいかと。
悪ノリと勢いでやってしまった事だけど、正直やりすぎだと反省中。ちょっとしたレストランの厨房と化してしまった。
「それにしても~キョウ君の所は知識もそうだけど技術面も飛びぬけてるわよね。ここまで凄いと周りに与える影響も凄いんじゃない?」
「そうですね。なので一部の方々にしか教えていませんし、これ以上広めるつもりもありません。情報漏洩の部分もしっかりとやりましたし。後は遺跡都市の人達が、どれほど私達からこの情報群を見て自身の糧としていけるかです」
私は私の手が届く範囲をしっかりと守れればそれでいいのだ。これ以上はキツくなるし、何よりも面倒臭い!
どっちかというと私は独りで自分の世界を作って唯我独尊するタイプだ。少数精鋭で十分である。
「キョウ君、相談なんだけど・・・この設備を使ってお店とか開いてもいい?」
ははは、エミリさんは既にレストランでも開こうと画策してるのかな?遺跡都市には屋台のような手軽にその場で食べてしまえるタイプが殆どだ。というのも、この世界の食材は生で未加工の物であっても十分に美味しいからだ。精々、肉や魚を塩すら振らずにそのまま炙って提供する程度のものだ。
宿屋も一応存在はするが、素泊まりがメインで食堂を併設してる所は殆どない。あっても未加工の果物や水、後は芋をそのまま提供してる程度。
米とかパンなんて勿論無い。米に関しては自力で見つけたから何とかなったけど、小麦は現在見つかっていない。なので、遺跡都市の人達は主食が生の芋とかなのだ。せめて蒸かしてから食べて欲しい。
というわけで、こちらの住人達の食生活は私にとっては正直耐えがたい。栄養が私の居た世界とは段違いで高いからまかり通っているだけなのだ。肉や魚、果物や芋からでも炭水化物は摂れるが探索者という稼業の事を考えると・・・もうちょっとどうにかなりませんかね?
なので私やアル、エミリさんがこれから覚えていく料理というものは、この世界では結構目立つし変な目で見られたりする。『そのままで十分なのに、なぜそんな時間を掛ける必要があるのか?』って感じかな。
私から言わせれば、美味しく食べるという事がどれほど幸せな事なのかを味わってないから言えるセリフだと言いたい。そうのたまうのなら、私達の料理を食ってみろ。今まで食べて来た物は何だったのかと後悔してしまう程のインパクトを食らわせてあげようじゃないか。
因みに食文化は壊滅的なのに、何故か居酒屋は存在する。勿論酒屋も。この前見つけた時はビックリして、ついつい見入ってしまいました。
種類としては芋を使ったお酒と果物を使った果実酒があった。こちとら未成年なので酒には手を出しておりませぬ。あくまで・・・そうあくまでも気になったので調べただけです!
「お店を開く分には構いませんよ。逆に聞きますけど、なんでお店を?」
「キョウ君の所で食べた物はどれも美味しかったわ。それを遺跡都市に居る人達にも知って欲しい・・・からかな」
「・・・なるほど。いいと思いますよ?正直遺跡都市内で食べれる物って、最低限の事しか考えられていませんから私としてもこちらで食事できる場所が生まれるのは大歓迎です」
「ほんと?ありがと~キョウ君!」
「まぁでもその前に・・・エミリさんはまず、お店を開ける位の腕とレパートリーを増やさないとです。最低でもアル位の腕前になってから開店して欲しいですね」
「よぉ~し、じゃあ早速作るとしましょうか。ふっふっふ、昨日の内にアルちゃんから色んな料理の情報を既に引き出し済みよ!カシアちゃん達が一杯食材を差し入れてくれたから美味しくなるよう料理しなきゃ!」
「今日は私も手伝います。色々と私から学び取って頂ければ」
「ありがとキョウちゃん~。今度キョウちゃん達と一緒に探索行った時は、遺跡内で採れる食材の事とかを教えて欲しいな?それに、折角ハルバードの事も教えて貰ったんだから試しておきたいしね~」
いや~貪欲ですねエミリさん。その何でも自分の糧にしようとする姿勢、大変好感が持てます。このタイプの人は凄く伸びる。ビックリするくらいに。リカルドさん、凄い人を嫁にしましたね・・・もはや勝ち組なんじゃないですか?
「私に出来るのはここまでね。お父様、結構な量の鉱石を消費したから遺跡へ採りに行ってもいい?」
「ありがとうシリカ。もう用事らしい用事はないから、行ってきても大丈夫」
「ありがと~シリカちゃん!この設備大切に使わせて貰います」
「いえいえ、私の趣味が多分に入っているから気にしないで。寧ろ一杯使って改善して欲しい箇所の洗い出しをしてくれると私も嬉しいわ」
すっかり職人気質になってしまったシリカである。物作りが楽しくて仕方ないという感じかな。エミリさんだけでなく、人が喜んで感謝してくれるのが心地いいのかもしれない。
「アルはどうする?ここで私らと一緒に料理する?」
「ん~・・・うんにゃ、私はシリカに付いていこうかな。シリカが採掘してる間、モンスターが寄ってこないように見張ってるとするよ」
「あら、じゃあお願いしようかしら」
「お願いされましたよっと。というわけで、私らは採掘に行ってくるね~」
「お~気をつけてなー」
「いってらっしゃい~。日が暮れる前には帰ってきてね?」
「了解であります!」
尚、ここに今現在居ないカシア、マグル、ミズキ、ツバキの4名とレオナちゃん、ミアンとニーナの双子姉妹3名は遺跡に赴いて探索中。
ガルドさんとリカルドさんとカイムさん、ロイさんとシエルさんは昨日の地下遺跡の件でまだバタバタしている。終わって帰って来る頃には冗談抜きで疲れ切ってるだろうから、料理でもてなしてあげるつもりです。
シリカとアルを見送った後、私達は早速料理をする為の準備に取り掛かる。
「総勢14名分の料理か・・・結構大変ですよ?」
「やりがいがありますね~。室内には入りきらないので、外にもテーブルを出して・・・ついでで周りに料理のアピールでもしちゃいましょう。これで他の人達も興味を持ってくれたら上出来って事で~」
いやはや本当、使える物は何でも使うその精神、見習わないといけない。こういう人の所には、自然と人が寄って来る。そういう意味でもこの人は料理に向いている気がする。教えがいがあるというものだ。
「よし、コンロ口は2つしかないのでテキパキと行きますか」
「はい~料理の方でもよろしくお願いしますね?先生」
こうして私は皆が戻って来るまでに、様々な料理を作りつつエミリさんに教え伝えていくのだった。
 




