第60話:結構バタバタしました。
一通りの型を教え2人に素振りを指示した後、私はエミリさんとレオナちゃんに渡すメンテ道具セットを取りに武器庫へ足を運んでいた。
奥の棚に陳列してあるメンテ道具類をリュックサイズのバックパックに放り込んでいると、
「・・・ん?」
何か見慣れない物が目に入って来た。ラグビーボール状に荒く削った様な鉱石が棚の隅っこにポツンと置かれていたのだ。
「んん?こんなの武器庫に保管したっけ?」
2人分のバックパックに道具一式を入れ終えた私は、その鉱石が気になったので近づいて手に取り、マジマジと観察する事にした。
「・・・これ、どっかで見た事あるんだよなぁ・・・、・・・・?・・っ!あぁ、ミズキの牙の隙間に挟まってた奴だ!」
おぉ、思い出した!そうだそうだ、あの時のミズキをメッチャ不快にさせてた異物君だね君は。にしてもだ、何故コレがここにあるのだろうか?確か武器庫ではなく、私やカシアが何処からか拾ってきた雑多な物を放り込んである物置部屋に置いといたはずだけど。
そう思いつつ、色んな角度で観察してる私。よく考えたら、この鉱石の事をすっかり忘れていた上にまだ何も調べてなかったんだよね~。
何処かマナダイトに似た雰囲気を感じる。シリカの本体であるマナダイトは水晶の様に透き通っており限りなく透明に近い色彩を放つ。一方こちらは、黒一色ではあるが透かしてみればこちらも水晶の様に光を透過しそうだ。
そう言えば、黒いモンスターやフェイスイーターを解体した時にもマナダイトに似た雰囲気の鉱石が出て来たのを思い出した。この異物君ももしかすると、モンスターが体内で精製した鉱物なのかもしれない。
・・・あの2つも何処に仕舞ったんだっけ?丁度タイミングが悪くてバタバタしていた時だったから、こちらもすっかり忘れてたよ!いい機会だから忘れない内に2つとも見つけ出しておこう。こちらは恐らく素材部屋にあるはず。
それにしても、黒いモンスターとフェイスイーター以外のモンスターから類似した鉱物が出て来た事は今の所無いし、聞いてもいない。
何か精製される条件でもあるのかな?私は見知らぬ物や知らない現象とかを目の当たりにすると、自分の思考に深くはまり込んでしまう悪い癖がある。
おっと、いかんいかん。今はエミリさんとレオナちゃんに素振りしてもらっている最中だ。必要な道具類も回収した事だし、さっさと戻りましょうかね・・・あ~、こんな風に後回しにしてるから忘れちゃうんだろうな。
私が苦笑しつつ掴んでいる鉱物を棚に戻そうとしたその時だ。その鉱物が淡く紫色に発光しだしたのと同時に嫌な予感がしたので、すぐに手を放そうとした。
けど、一歩遅かった。その鉱物は音も立てずに私の掌に吸い込まれるようにして消える。立ち竦む私。
「・・・あぁぁぁっ!?」
思わず叫びだしそうになった自分を、自らの手でもって口を塞ぐ。落ち着け、落ち着け私!こんな状況を他の面々に見られても説明しようがない。精々アル辺りから『なに、また何かやらかした?キョウちゃんも懲りないよね~アハハハ!』ってプギャーされるだけ。
・・・イラっと来た。自分の想像だけどイラっと来た!あぁぁぁもう!こんなくだらない事考えてる場合じゃないでしょうに!
体に異常は!?・・・無いよね?いきなり体が膨張しだして弾けたり、異形の存在へクラスチェンジとか本当に止めてよね!?
よし、異常なし!多分。そう思わないと精神を保てない・・・そうだ精神面は!?・・・別段誰かの意思に乗っ取られるとか頭の中で囁き声が聞こえるとか古ぼけた井戸が見えるとかそういう事は無い。
大丈夫問題ない・・・今の所は。クッソー!当分は自己観察を続けないと。爆弾を抱え込んだ気分だよ~最悪だよ~何なのよ~ふざけんなちくしょ~!!
暫くの間、立ち直れなくてorzの姿勢で嘆いてる私でした。
「キョウ君お帰り~随分と時間かかったね?」
「・・・えぇ、ちょっと厄介事が増えまして・・・ね」
「厄介事?」
エミリさんがカシアの様に首をコテンと横に倒す。あざと・・・いや、可愛らしい。とても2人の子持ちとは思えない。
「あぁ、大丈夫です。個人的な事ですから・・・さて、エミリさんもレオナちゃんもそろそろ切り上げましょうか。とりあえず、型による素振りは日課に落とし込んでください。怠るとすぐにフォームが崩れちゃいますから」
「「はい、先生」」
「お二人は温泉で汗を流してくるといいですよ。後これ、メンテ道具セットです。使い方の説明は遺跡都市に向かう道中ででも」
「あれ、キョウさんは一緒に行かないのですか?」
「ごめんレオナちゃん、私はこの後シリカとアルと一緒にエミリさん宅に設置するキッチン機材の打ち合わせなんだ」
「そうなんですね・・・残念です」
「んっふっふ~。丁度親子水入らずで聞きたい事があったのよ~。それじゃキョウ君、いってきます~」
「はい。ちゃんとクールダウンしてくださいね~」
「「は~い」」
親子2人が我が家の温泉方面へ赴く後ろ姿を見届けた後、私はエミリさん宅に設置する機材の進捗状況を確認する為、シリカとアルが作業しているであろう場所へ足を向ける。
「どう2人共、どんな感じ?」
「お父様、丁度出来上がった所よ」
「我ながら、いい出来と言わざる負えない」
シリカとアルがいい仕事したという体で、そう伝えて来た。
「どれどれ・・・ほうほうなるほど・・・よくこの短期間でここまで詰め込めたね」
エミリさん宅のキッチンスペースはそこまで広いわけじゃあない。なので限られた空間を余す事なく使えるようにシステムキッチンを組む事になった。
使える空間の幅とかはエミリさんの記憶頼りなので、結構な誤差が発生すると思われる。なのでパーツ事に組み替える事が出来る仕様にし、入りきらない箇所が出た場合は別途外した状態で独立させて使えるようにした。キッチン収納として使うキャビネットが主に該当する。
それでも調理台・流し台・コンロ台と連結させても5m無い。人によっては調理台が狭く感じるかもしれないが、エミリさん4人家族と2人くらいならばこれで十分。
コンロは現在試作中ではあるものの、実用段階までこぎつけている暖炉石を使用したのを採用。火力調整に難があるがそこはコンロ口を2つにする事で高火力・低火力と使い分ける事で、現在妥協中。ゆくゆくは自在に調整できる見慣れたコンロを目指したい。
流し台はステンレス鋼にマナダイトを含ませた合金を使用。こちらはある程度の耐久性と耐食性、それと軽さを求めた結果の末出来上がった。我が家である遺跡でもまだ設置していない最新版の流し台である。
調理台も同じくステンレス鋼にマナダイトを含ませた合金で作製した。
「料理をする側である、アルが居たからこそ実現できた速さね」
「私達が今使っているキッチンの不満点を、時間の許す限り潰したわ。これをエミリさんに使って貰ってそこから得た使用感から更に改良して・・・ねぇキョウちゃん、果てが無いよっ!?」
「モノ作りは、満足しない限り終わらないからね。死ぬまで物や技術を生み出し続けた猛者がいるくらいだし」
「業の深い世界よね」
シリカやアル、私も遠くを見つめてボヤく。
「後はこれらをエミリさん宅に設置して微調整かな。お疲れ様2人共、システムキッチンは私がバックパックに入れるから2人は片付けを済ませちゃって」
私は2人を労うと同時に持って来てあったバックパックに出来立てのシステムキッチンをパーツ毎に納めて行く。
「お父様も朝からずっと動きっぱなしじゃない?それが終わったら温泉でスッキリしてきなさいよ」
「私も汗で結構ベタ付いてるから、一度入りたいなぁ」
「ならこっちが一段落したら、後は遺跡都市に行くくらいだし休憩と行きますか。丁度今、エミリさんとレオナちゃんが温泉に入っているはずだし」
アルの瞳が怪しく光った気がしなくも無いが、まずは作業を終わらせてからのお話。せっせとやって少しでもマッタリしたい!
「そういえば、残りの4人は何をやっているのかしら?」
「ツバキ達かい?カシアとマグルは今現在も頑張っているであろうガルドさん達の差し入れとして、食材を確保して貰ってる。ミズキは自身の鍛錬用武器のメンテで、ツバキはエミリさんから絶賛されていた洗顔やらシャンプーやらの詰め合わせを作った後、バスタオルなどの生活日用品の材料が心もとないからって採取しに行ってる」
普段あまり前に出てこないツバキだけど、体を得てからというものかなり積極的に動くようになった。ああ見えて戦闘では安定した強さを発揮するし、各種生活日用品を製作し取り揃えてくれる縁の下の力持ちな存在となっている。
「あっ!私もそろそろランスの手入れしないとヤバイかも」
「錆らしたら、ペナルティーね」
「・・・な、内容は?」
「アルが一番やりたくない鍛錬をして貰います」
「鍛錬用武器のメンテに行ってきま~~す!」
超速で片付けを済ませたアルは飛んで行く勢いで走り去っていきましたとさ。
「にしても、ミズキって結構几帳面よね」
「自身の牙や爪の代わりがあの刀だからね。もはや自分の手足と同じ感覚になってるんじゃないかな?」
「そういうものなのかしら」
「気になるのなら、シリカも武器を使ってみるといいよ」
「・・・考えてみるわ」
現状うちのクランメンバーで武器らしいものを使っていないのはシリカだけだ。そのボディだけで十分脅威ではあるが、武器を持ちそれを使いこなした日にはどれほどの存在と化すのだろう。怖い物見たさとはちょっと違う好奇心に似た気持ちが込み上げてくるかな。
「よし、終わり!じゃあ私もちょっと温泉に入ってくるね。シリカも結構大変な事してるから、ノンビリできる時はするんだよ?」
「そうね・・・じゃあ私も温泉に行くわ」
「お、いいねぇ」
シリカのボディは洗いがいがある。そして磨くとワックスがけしたかのようにピカピカになる。タイミングよくマグル達も戻ってくれば、尻尾を振りながらシリカを磨き倒してくれるのだが・・・。
結局この後、皆勢ぞろいして温泉に入る私達であった。




