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第57話:大惨事になっていました。

 静かだ。とても大人数で侵入したとは思えないほどに。クラウドと言っても大小様々で探索に重点を置いている所が殆どだが、遺跡都市で商いをメインにしている所もあって多種多様だ。

 その中でもバルガスが加入しているヘカトンケイルというクラウドは大手と行ってもいい。定期的に大規模な遺跡探索を行ったり、遺跡都市に稀に訪れるという外部からの脅威を排除したり、果ては遺跡都市の外壁の補修なんて作業も行ったりしている。正直な話、クラウドとしてはかなりまともで住人からの評判もいい。

 会議室にて典型的でダメな貴族っぽい醜態を晒したバルガスも、表では悪い話を聞いた事がない。でも、一部の探索者から噂という形で、きな臭い話が後を絶たないという裏の面もある。

 勇気ある住人がある時、バルガス本人にその話をした事があったそうだ。その時は『一部の者が私の事を妬んで創り出した妄言でしょう。とはいえ、私も完璧な人間ではありません。余り表には出てないですが、ミスだって犯します。なので、私の活動でおかしいと感じた時は是非知らせてください。すぐに対処させて頂きます』と笑顔で演説したそうだ。演説大好きだなこのオジサン。


 そして大手にありがちな派閥が存在する。クラウドを結成した初期組勢とバルガス擁する探索推進勢だ。初期勢は探索も行いはするが、あくまで遺跡都市発展と維持に力を置いており日々の生活をより豊かにすべく動いている。最近は遺跡だけでなく外にも目を向けるべきだと発言し、実際に遺跡都市周辺の調査も行っているそうだ。

 一方のバルガス勢は探索こそ遺跡都市発展への近道だと豪語し、積極的に探索する者へ惜しみなく支援をするという手段を用い、現在進行形で躍進しているそうだ。



 今回問題を起こしたのは、もうおわかりだろうが探索推進勢。身内がやらかしてしまったという事で、初期組勢はガルドさんの呼び声に逸早く反応し、汚名を返上する勢いで動いているとの事。

 大手なだけあって、リカバリーの速さは流石と言える。


 そんな探索を推進している一派が少数なわけも無く、50名にも迫る集団で地下遺跡へと赴いたという情報をシルヴィア達から貰っている。

 地下遺跡内は以前来た時と違い敵意を放っている。このまま奥に進めばこの敵意は私達にも降りかかってくるに違いない。


「・・・こりゃあ、もう手遅れかもしれんな」


 ロイさんの呟きに私達は無言で頷きを返す。これから約48名程を見つけ出して救出していかなくてはならないが、どれほど生き残っているのか。


「ここで立ち止まっていてもアレか・・・よし、行くぞお前ら!」


 ロイさんのそんな掛け声と共に私達は地下遺跡の奥へと進みだした。





「ロイさん・・・私もう帰りたい」

「気持ちは痛いほど分かるが、引き受けた以上やらんわけにもいかんだろ?」


 私とロイさんは、せっせと探索者だった者をバックパックへと詰め込んでいく。もうどれくらいの人数を回収したか分からない。

 私達の予想通り、地獄へと変わった地下遺跡は墓場へとなり果てていた。相変わらず敵意は感じるのだが、どういうわけか虫達はこちらを襲う気はない模様。

 寧ろ、虫達が集っている探索者の遺体に近づくと『さっさとコイツ等回収して帰れや!』とでも言いたげな雰囲気を漂わせつつ、離れていくのだ。お陰で回収が捗るのだが、正直直視するにはキツ過ぎる光景と血の臭いが凄まじい。

 完全に喰われきって骨と装備品のみになっているのが有難く感じてしまうくらいにキツイ。全身を中途半端に喰われて筋肉やら内蔵やらが露出している様は、アルでなくても震え上がってしまうというものだ。

 最初はレオナちゃんもこっちに居たのだが、あまりにもあんまりな光景と臭いにやられ吐いてしまったので、ミズキと一緒に周囲の警戒に当たって貰っている。

 うぅ・・・ノイローゼになりそう。


 知っている限りの範囲で地下遺跡内を見て回ったが、遂に生存者は見つけられなかった。最後の集団だったのか、行き止まりの所で折り重なるように果てている探索者達を見つけ、その亡骸を回収しきった辺りで地下遺跡内の敵意が嘘の様に無くなった。

 けど、見られているような感覚はあるので、私達は地下遺跡の主或いは管理者の気が変わらない内にサッサと撤収する事に。

 私にとっては遺跡あるあるの出来事ではあるんだけど、今回のは輪を掛けて酷かった。暫くはここ、来たくないです。


 私達が戻って来た辺りで、ガルドさんが率いる有志連合が到着したようだ。生き残りである男性探索者2名を引き渡している所に出くわす。

 すぐさまシルヴィア達とガルドさん、あとヘカトンケイルの関係者の方々だろうか・・・こちらへと駆け寄ってくる。


「状況は?」


 ガルドさんが端的に聞いて来たので、こちらも簡潔に返す事に。


「地上部と遺跡都市へ脅威が降りかかる事は無さそうです。ただ・・・」


 この先は正直言いたくなかったので、ロイさんに目を向け続きを話してもらう事に。目を向けられたロイさんも凄く嫌そうに顔を顰めたが、今回のリーダーはロイさんである。スミマセンがお願いします。

 ガルドさんもロイさんの方を向いて続きを促したので、ロイさんは諦めて口を開く。


「・・・地下遺跡に潜った探索者はそこにいる2人を除いて全滅、だろうな。全体の人数を把握してないから確証は無いが、出来得る限りの遺体と遺品は回収してきた」


 その報告を受けたガルドさんは天を仰ぎ、シルヴィア達は泣き崩れ、ヘカトンケイルの関係者達は一様に俯いた。

 これからヘカトンケイルは大変だろうな・・・約50名ともいえる探索者を死地へと赴かせたのだ。今までの評価から一転、批難轟々の嵐に見舞われるだろう。


「遺体と遺品の数が膨大だ。遺跡内じゃモンスターが寄って来て整理処じゃない。かといって、遺跡都市の何処にコレ等を広げるスペースを設けるか・・・どうする?正直、見るに堪えない光景が広がる事になるぞ」


 ロイさんがこれからどうするのか、ガルドさんに意見を求める。頭の痛い問題だ。ガルドさんも即座に解を見いだせず頭をガシガシと掻きだす。


「・・・場所は私達が何とかしましょう。寧ろそこまで貴方がたのお世話になる訳にいかない」


 そう切り出してきたのは、ヘカトンケイルの関係者だ。


「そうだ・・・な。クラン同士が集まる時に使用する広場を抑えよう。勿論、周りにちゃんと配慮した上で」

「・・・チッ!探索推進派の連中め、とんでもない置き土産をしていきおって!」

「止めないか!ここにはその遺族も居るんだ、口を慎め!」


 ・・・早速ゴタゴタしだしたよ。こっちは関わり合いになりたくないから後ろに下がっているとしよう。


「キョウ、スマンな。お陰で助かった。後はこっちでやっておくから、バックパックを俺に預けて撤収してしまってくれ」

「いいんですか?」

「あぁ、これ以上ここに居ても碌な事にならんからな。後は任せてくれ」

「でわ、お言葉に甘えさせて貰います」


 後ろに下がって来た私に、ガルドさんが面倒事になる前に帰っちまえと言ってくれる。理解のある上司ってこんな感じなんだろうなぁ・・・ありがとうございます。というわけで、私は速やかにクランメンバーとレオナちゃんに声を掛けて、この場を後にする。


「あの・・・私も抜け出して来てよかったのでしょうか?」


 レオナちゃんが心配そうに私に聞いて来たので、


「いいのいいの、あの場に居たってヘカトンケイルの人達のゴタゴタに巻き込まれるだけで、良い事なんてひとっつもないからね!」


 まだレオナちゃんは地下遺跡での光景が頭から離れないのか、顔が青い。この影響でレオナちゃんまでグロ耐性が下がってしまわないかとちょっと心配である。


「それよりもレオナちゃん、まだ顔色悪いけど大丈夫?流石にアレはキツかったわー。アルがあの場に居たら卒倒してたんじゃないかな?」


 私が軽く話を振ってみたら、案の定あの場の光景がフラッシュバックしたのかレオナちゃんが口元を抑えだす。


「あぁっと、ごめんよっレオナちゃん。そんな状態であそこに残ってても出来る事なんてないからね。寧ろさっさと離れて気分転換しないとダメ。だからさ、ご家族から了承を得て今日、家に泊まりに来なよ。温泉入って美味しいもの食べてリフレッシュ!」

「・・・キョウさんって女性になると性格まで変わるんですね」

「ん~?そうでもないよ?普段の私って男でも女でもこんな感じさ。どちらかと言うと、レオナちゃんと私の距離が縮まった影響じゃないかな~」


 レオナちゃんと一緒に温泉入った時の事を思い出す。レオナちゃんの肌はカシアやマグルに負けず劣らずでスベッスベなのだ。あとプニプニ。


「なんか、キョウさんの表情がエロいです」


 レオナちゃんがジトっとした目で私に熱い視線を送ってくるよっ!そんな感じで少しでも気がまぎれるような話を振っていく。


「大丈夫、レオナちゃん。キョウちゃんがエロいのはいつもの事だから」

「ほう、いつもカシアやマグルを捕まえようと躍起になってエロい顔してるアルがそゆこと言う?」

「キョウちゃんはあの2人が醸し出す愛くるしさが分からないと見える!そしてこれはエロではなく愛からくるもの!断じて己の欲求に従っているのではないのだ~」

「うっそだー」


 ほら見なさいアル、その証拠にカシアとマグルが何処となくアルから距離を取っているじゃない。アルが私の見る先を目で追って行くとカシア達が視界に入るわけだけど、入った瞬間露骨に距離を取って逆側に逃れるように位置を変えていく。


「・・・そんな!」


 アルが走りながら絶望的な表情をする。そのまま木にぶつかったりするんじゃないよ?こういうほのぼのとした空気でいられる事がどれほど尊いか、今この瞬間を大事に噛み締めながら遺跡都市へと帰還する私達であった。

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