第54話:気持ちの良い朝を迎えました。
あれから一月近くだろうか。私の性別が♀になり数日遺跡都市で知り合った方々とドタバタ劇みたいな事を繰り広げたが、比較的アッサリと私の特異体質は受け入れられた。
『まぁそういう事もあるんじゃね?』これが遺跡都市の人達による私への接し方だった。こちらとしては大変ありがたく嬉しい事よね。なんせこっちに来る前はこの特異体質の所為で、結構波乱万丈な幼少時代を過ごす羽目になったんだもん。
両親はどうにかして隠し通そうとしたようだが、元々とある理由で有名だった両親。マスコミやらパパラッチみたいなのが周囲に集ってくる環境であった以上、時間の問題だったわ。
結局私の特異体質がバレ、メディアに晒され、ブチッとキレてしまった私の両親がその放映局関係者を文字通りビルに吊るし上げるなんて事があったりしたが、私という存在は広まってしまった。
そこから先は珍獣みたいな扱いを周囲から受ける事になった。同世代やその親御さんから奇異に観られる程度は我慢出来たんだけど、世間からの心無い声やマスコミの憶測による影響で周囲から孤立するのはそう遅くは無かった。
いじめが始まったのもその頃からだ。向こうから仕掛けてきた口撃に反論し、相手が殴り掛かってきたのに反撃したのが行けなかった。
その情報は瞬く間に広がり、歪曲され一方的に私が悪であると仕立て上げられてしまった。私は周囲に嫌気が差し、家から出なくなるまでさして時間は掛からなかった。
私の居た世界には遺跡が数多く点在している。その遺跡には金銀財宝もあれば歴史的価値などもある。その代わり遺跡には管理者或いはその地に眠る主とも言える存在がおり、そこを守護している事が殆どだった。
当然、テリトリーに踏み込んでくる者は排除される。向こうからすれば自宅に不法侵入してくる賊のような存在だ。そいつらが我が物顔で自宅に保管してある金品やら骨董品やらを持ち出そうとすれば、誰だってキレるし容赦なんてしない。方法は遺跡によって異なるが、例を挙げるならば罠による撃退、ゴーレムによる防衛機構、酷い所ではアンデッドや虫を遺跡に放っている所もあった。
中でも強力な力を持つ存在が管理者であったり主だったりした所は、もう悲惨である。日本がその遺跡を国内で発見し自衛隊をけしかけたのが事の元凶。その遺跡にはとある龍が主として君臨していたのだが、そうとは知らず自衛隊で周囲を包囲、調査と視察の名目で複数の議員、考古学者と少数精鋭の自衛隊員と共に遺跡へと侵入した。
ここまで龍は見逃してくれていた。けど、遺跡の奥で発見した金銀財宝に目がくらんだ一部の議員が考古学者の静止を振り切ってソレを持ち出そうとした。
その結果、龍は激怒し遺跡に入り込んだ者どもを骨すら残さず殲滅。遺跡の周囲を警戒していた自衛隊は、事の顛末を知らせる隊員を帰還させると同時に遺跡内へと突撃し、帰らぬ人となった。
遺跡の管理者や主は基本、外には干渉してこない。しかしここの主である龍はその枠に収まらず、報復として遺跡の半径500m四方をブレスで焼き払ってしまう。至近に大規模な集落があったわけではないが、それでもその地に住んでいた住人は少なくもなく。結果、自衛隊、考古学者、議員と遺跡の近くに住んでいた住人合わせて300人程がその犠牲となった。1人の無知で愚かな人間が巻き起こした惨劇であった。
これで当時の国会は1日と経たずに崩壊。責任追及も何も、当時その指揮を執っていた人は龍により死亡。周囲に被害をもたらした所為で日本国は荒れに荒れまくった。
この事態に新しく発足したばかりの国会が、事態の収拾の為に白羽の矢を立てたのがうちの両親だ。この世界の至る所に存在する、物騒極まりなく危険だが莫大な富と名声をもたらす遺跡を見つけ出し且つ攻略する事が出来る数少ない者、それがトレジャーハンター兼考古学者なうちの両親である。
『日本が見つけた遺跡を攻略してくれ?断る』
が、うちの両親である父が国の要請を断った。母親の方も父の意向を支持し協力はしないと宣言した。この内容がどういうわけかメディアに漏れ発信されてしまった結果、これまた凄い反発が国中から巻き起こった。
日本の恥さらし、無責任、日本が危機に瀕しているのに傍観を決め込む臆病者、エトセトラエトセトラ。挙げるとキリがない位の雑音が日夜飛び込んできた。しまいには私と両親、妹や弟達の自宅に侵入しようとして捕まる頭のおかしい連中が現れる始末だ。
国もこれはマズイとすぐさま私達の自宅周辺に厳戒態勢を敷いたが時すでに遅し。一部の放映局の協力を得た父が国中に向けてある放送を流したのだ。
『俺は日本という国が好きだった。けど、今回の一件でほとほと愛想が尽きたよ。お前達は俺らに国を救ってくれと言うがこれまで俺ら家族にしてきた事はなんだ?メディアが流す憶測に踊らされ、誹謗中傷で口撃し、挙句事実を捻じ曲げて俺の子を悪へと仕立て上げた。なぁ?それらを見て見ぬふりして、どうせ他人に起きてる出来事だ知った事じゃないと目を背けてたのは誰だ?そんな世間の嵐に晒されてた俺らに、遺跡が手に負えないからどうにかしてくれとか、流石に虫が良すぎやしないか。しかも断ったら癇癪を起しだす始末だ。いい加減にしろよ?散々俺らを腫れ物の様に扱ってきたお前らなんだ、自力でどうにかしろ。もうウンザリだ。だから俺らはこの国から出ていく事にしたよ。精々頑張れ』
そしてこの放送が流れる頃には、うちら家族は国外へと出てしまっている。とある島に向けて船が進んでいく中、父親が、
『今まで肩身の狭い思いをさせてしまって、本当に済まなかった。居場所を守り切れなかった俺らをどうか許してくれ・・・とは言えんか。変わりといってはなんだが、これから住む島での生活は何が何でも死守する。どうかそれで手打ちとしちゃくれませんでしょうか?』
そう言って、俺ら兄弟姉妹に泣きながら抱き付いて来た事は今でもよく覚えている。因みに母親の方は日本に居る親族を説得し、一足早く島へと移り住み俺らの到着を今か今かと待ちわびている。
そうして島での生活が始まる。と言っても、縁を切ったのは日本という国だけで母親の実家はアメリカ・・・日系アメリカ人というわけだ。よって、ちょくちょく島と母親の母国であるアメリカを行き来するようになった。
当初両親は俺らをアメリカの学校に通わせようと考えていたらしいが、日本の二の舞になるだけだから止めておけとアメリカ側にいる親族から待ったがかかったそうだ。
そして、アメリカもダメならこの島に学校を立てればいいじゃないという中々強烈な事を言い出し、実現させてしまう。名は斑鳩学園。トレジャーハンター兼考古学者を目指したい者には門扉を開くと世界に発信し、世界唯一のトレジャーハンター養成学校という小中高エスカレーター式の学校を創り出した。尚、日本人は一部の例外を除いて受け入れないというのだから、両親の怒りは相当である。
そんなこんなで一部の例外である俺達兄弟姉妹は、両親が創設した斑鳩学園に通う事となる。そこで繰り広げられた出来事は――――
そこで目が覚めた。何やらとても懐かしい夢を見ていた気がする。辺りを見回すとカシアやマグルは狼形態で丸くなっており、私のダブルベッドの未使用領域にちゃっかり収まっている。
ツバキは正直寝る必要はないんだけど、布団を敷きそこで規則正しい寝息?を立てている。尚、アルは私と同じベッド派でミズキは布団派である。アルは寝相が悪く、今にもベッドから落ちそうで・・・落ちない。ミズキは普段寝相が良いのだが、時々寝ぼけて他の寝床に潜り込んでくる事がある。シリカに抱き付きながら寝てた時は結構な衝撃だったわ。
皆一緒くたに同じ空間で寝具を持ち込んで寝ている。朝起きる度に修学旅行の朝を想起させる光景を見やり、柄にもなくテンションが上がりだす私である。
ボディがラスボス仕様のシリカは、今回は某RPGに出て来る今にも動き出しそうな石像のポーズで就寝中のようだ。こちらも寝る必要はないのだが『皆寝静まっているのに、私だけ活動してるとか寂しすぎて嫌!』だって。お可愛いです事。因みに昨日はラ〇ウのような天に向けて腕を突き上げるポーズで寝ていました。
まだ起き上がるには早い。皆の寝顔を見ながらホッコリとした時間を過ごす私だったのだった。




