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第51話:検証し始めました。

※2019/11/02 一部文章を修正。

「・・・やっぱりムリ~!」


 そう言って会議室の隅っこで膝を抱え半泣きになっているのは、言うまでもなくアルだ。まぁそれでも触れる事は出来なくても目は逸らしていないから、頑張っている方であると前向きに捉えてあげよう。


「あの森精種のお嬢ちゃん、あれで探索者なんてやっていけるのか?」

「目下の課題ですね。パニックを起こしてないだけ成長は見られるかと」

「あれでか?遺跡に生息してるモンスターで結構グロいヤツって多いぞ?一々出会う度にビビりまくってるようじゃこの先辛すぎると思うが」


 リカルドさんが若干呆れを含んだ声でもっともな意見をくださる。こればっかりは慣れろとしか言えないんだよなぁ・・・。


「だそうだぞ、アル~?ここで一気に耐性を上げておかないとこの先辛いのはアルだぞ。最悪、邪魔になるようならお家で留守番する事になるが」

「キョウのイジワル~!ばか~!そんな簡単に耐性付くようならこんな苦労してないのよっ!少しは察しなさいよアホー!!」


 ほう、言ってくれるじゃないか。俺はフェイスイーターの足の一本を持ち、アルにジリジリと近づいていく。勿論フェイスイーターの足を見せつけるようにだ。


「ギャァァァァッ!?や、やめっ!来るなぁぁぁぁっ!あぁぁぁっもう下がれない!?うぁぁぁん!隅っこだったよここぉぉぉっ!」


 足を持ってちょっと近づいただけでこのパニくりようだ。正直先が思いやられる。俺は深い深い溜息を付くと、フェイスイーターの足を元の場所に戻す。


「こんな感じです。正直どうすればいいのか、お手上げ状態です」

「こりゃ重症だな。俺もちょっと助言のしようがないなコレは」


 今の一部始終を見ていたリカルドさんもお手上げの模様。尚、隅っこで泣き出してしまったアルを今はカシア、マグル、レオナの3人で慰めて貰っている。可哀そうだが、この先もこのままであればお留守番まっしぐらである。今後のアルの努力に期待するしかない。


「それで、どうです?一応打撃が有効でしたけど、この先コイツが又現れたら有効打を加えられそうですか?」


 俺からの質問に、一応に顔を渋くするリカルドさん達とガルドさん達。


「身体強化をしてどうにかダメージを与えられそうって所だな。正直、一撃で仕留められるかと言われれば答えはノーだ」


 ガルドさんは難しい顔つきでそう答える。


「俺はムリだな。あの時もそうだったが、全力で殴りつけた結果がコレだからな」


 ロイさんはそう言って拳を見せて来る。ポーションで見た目はキレイに治っているが、俺はフェイスイーターを殴りつけた後のロイさんの拳をまじかで見ている。暫くは全力で拳を振るう事は出来ないかもしれない。


「私は・・・正直やってみないと分からないですね。でもそうね・・・ちょっと試してみてもいい?」


 シエルさんは何か思いついたようだ。元々あれこれ試すために回収したので全く問題ない。俺は続きを促すとシエルさんは指先に水で出来た釘の様な物を出し、フェイスイーターのバイザー部分に押し当てるとその釘が回転しだした。


「・・・うーん、やっぱりダメかな?」

「いえ、発想は凄くいいですよ。指先に出してるソレを、先は尖った状態で螺旋・・・渦を巻くような形状にしてみてください」

「・・・こう?」


 シエルさんのイメージが固まったのか、釘状のソレが形状を変えドリルのような形状へと変わっていく。それで手ごたえを感じたのか、


「あっ、これならいけそうよ!」


 そう言って回転率を上げてフェイスイーターのバイザー部分に押し当てる力を強くしていく。すると、結構な勢いで突き刺さっていった。


「よし、ありがとキョウ君!それにしてもよくこんな事を思いついたわね」

「思いついたというより、知っていただけですよ。今シエルさんが指先に出したソレ、ドリルっていうものなんですよ」

「ドリル?」

「土木作業に使われる道具の一つです。様々なサイズのドリルを作って用途に合わせて使用するんですが、その用途は硬い岩盤に穴を空けたり、トンネル作りに使用したり、机などの家具類に使用したりと挙げればキリがないレベルで便利な物です」

「へぇ~・・・これって、とんでもない技術なんじゃないの?」


 えぇ、まぁそうですね。ちょっとした改革が起こる代物かと。


「なので、他言無用でお願いします。これも僕の漏らしたくない情報に該当するので」


 その場で聞いていた面々と口裏を合わせておく。漏れないに越した事は無いが、実際に使用してる人を見てドリルの原理に行き付く者がきっと出て来るだろう。見て覚え、そして自身の技術としたのなら俺はとやかく言うつもりは無い。形はどうであれ、それはその人の努力の賜物である。


「他にコイツ・・・おっとそうだ、いつまでもアレとかコレとかって呼ぶのも何なのでコイツに名前を付けてもいいですか?僕の中ではフェイスイーターっていう名前を付けていたんですが」

「いきなりだが名前が無いのも確かにな・・・いいんじゃないか?フェイスイーターで」

「だな。まぁ、出会った場面マンマな名だが」


 俺からの提案にガルドさんとロイさんもいいんじゃね?と同意してくれる。周りの方々もウンウンと首を縦に振ってくれているので問題無さそうだ。


「でわフェイスイーターで。他に何かダメージを入れられそうな方はいますか?」


 そう言うとレオナとカイムさんが挙手してくれた。


「レオナの場合は・・・つまりそういう事だよね?」

「はい。地形などの環境によって制限を大きく受けてしまいますが」


 だよなぁ。レオナの発火能力というか火を操る能力は破格ではあるんだが、如何せん使い処が難しい。もっと周囲に影響を及ぼさずコンパクトな形で使用出来れば素晴らしいの一言なのだが。


「今度、周囲に被害が出なさそうな場所見繕って試してみよう・・・して、カイムさんはどのような?」


 レオナに関しては既に知っていた。けどカイムさんは違う。


「私の場合は・・・こんな感じです」


 カイムさんがそう言うと同時に周囲に風の流れを感じた。おかしい・・・ここには扇風機もエアコンもない。窓も開けてなければ会議室の出入口である場所も扉が閉まっている状態だ。精々通気口があるくらい。

 そう疑問に感じていると、その風の流れがある一点から生み出されている事に気づいた。カイムさんを中心にして発生しているのだ。


「その様子だと気づきましたね?私はこの通り、風を能力として扱う事ができます」


 ・・・いや~レオナといいカイムさんといいシエルさんといい、ファンタジーの権化みたいな存在だな。にしても何処の世界にも居るもんだな、こういうイリーガルな人達。

 その時、周囲から聞こえていた精霊さん達の会話が一斉に俺の方へと向き一言物申してきた『お前が言うな』と。

 やかましいわっ!普段は窓の外から聞こえて来るスズメ達の囀りよろしくなレベルで雑談してる君達が、こういう時だけ突っ込んで来るんじゃありません!


「カイムさん、出力はどれくらいなのか説明って出来ますか?」

「それなら、実際に見てもらうのが一番かと」


 カイムさんがフェイスイーターの足を一本持ち上げ、何気なくその足に指を這わせたと思ったら、その箇所から足が真っ二つになってしまった。


「おぉ・・・凄いですね、綺麗な断面だ」


 ちょっぴり素が出てしまったよ。


「本当は風の刃とかを撃ち出せれば良かったのですが、レオナと同じで自分の周囲にしか発生させられないんです」


 いやいや、それでも凄いから。クロスレンジではレオナ同様無敵なんじゃないかこの人。シエルさんは遠距離に特化してるイメージだが、この兄妹は真逆だ。某有名ゲームに出て来る古龍さんみたい。見た目的には本当に角の生えた秋田犬を擬人化した感じなのに。しかもイケメン。


「そして私はフォースの変換効率は悪くないのですが、貯蓄量に難がありまして」

「なるほど、用途は違えどガルドさんと同じタイプですね」


 カイムさんは自分が欠陥だらけとか思ってるんだろうけど、ガルドさん達同様にソレは勘違いだから。俺は手早くガルドさん達にも説明した内容をカイムさんに伝えていく。


「・・・そんな事、本当に出来るんですか?」


 まぁいきなりフォースに変換しつつ戦闘とかはムリでしょうよ。


「出来ますよ。ほら、ガルドさん達はまだ規模が小さくとも実践していますし」


 そう、既にガルドさん達は常にはムリだとしても集中力が続く限りフォースに変換し身体強化で消費して貰うというエンドレスな訓練をして貰っている。

 体と意識が慣れてくれば、おのずと持続力は伸びる。ついでに変換効率と貯蓄量が向上すれば万々歳だ。それに俺がマナを体に通して常に身体強化で体に負担を掛けているのと同様の効果も得られるはず。つまりは身体強化の限界値底上げとそれに耐えうる体作りだ。

 身体強化は、一歩間違えば自身の肉体限界を超えて発動し己の身を滅ぼす危険なものだ。通常は無意識によるリミッターでこれ以上はマズイと体が勝手に出力の限界を決めてしまうのだが、稀にそのリミッターが無い奴も居たりする。俺がそうだった。お陰で幼い時に限界を超えてしまい、救急車で運ばれる事態になってしまった。

 リミッターの外し方を俺は知らないが、体が身体強化の出力に慣れればおのずとリミッターの掛かる領域も上がっていくはず。

 大変地味な訓練であるが、日々怠らずに続けていれば結果は付いてくる。日常生活の習慣レベルに落とし込めれば最早こっちのものだ。


「さっきからガルド達は何をやってるのかと思えば、そんな事をしてたのか」


 リカルドさんは俺の説明を聞いた事で何やらスッキリしたようだ。


「因みに始め立ての頃は、日常生活で意識なく行えるレベルになるまで戦闘はなるべく控えてください。普通に危ないんで。もし探索に行くのであれば、行く1時間前には一度ストップして心身のストレスを抜いてからにしてください」


 ガルドさん達にもした注意事項をしっかりと伝えておく。


「なぁキキョウ君、これって俺達に話してしまっても良かった事なのか?普通に凄い事だぞこれは」

「これは別に隠してる事でもないので。寧ろ進んで周りへと伝えて実践を促してください。そうすれば探索者の方々だけでなく、遺跡都市の人々全ての死亡率が低下しますから」


 そうでもしないと、遺跡都市の人達は遅かれ早かれ滅びそうだし。全く、なぜ俺がこんな心配をしないとならんのか。

 俺の説明を真剣に聞いて皆が頷く中、双子姉妹から質問が飛んできた。


「ねぇ、キョウ君。私達みたいに角が無い人はどうすればいいと思う?」


 ストレートに聞いて来たな。今の発現は姉のミアンからだ。まぁ分かっていた事だが、角が無いという事はつまり、フォースが使えないという事なのだろう。

 何度かその点で俺やカシア達が嘲笑された事もあったしな。マナそのものが使えるから全く問題ないが。


「その答えは正に漏らしたくない情報なんですけどね・・・どうしましょう?ガルドさん達はまだクラウドに加入できないのでこの話を聞くとなると、個別に契約をして貰う事になりますけど」

「・・・ガルドさん皆さん、これは私達姉妹にとってとても大事な事。申し訳ありませんが――――」

「いや、気にしなくていい。遅かれ早かれする事だ」

「ま、特に害があるわけでもないしな」

「そうね、さっさと済ませてキョウ君の説明の続きを聞きたいくらいだわ」

「「・・・ありがとうございます」」


 というわけで、ちゃっちゃと契約を交わしてしまうお三方。まぁ変な内容を滑り込ませるなんて事、俺はしませんよ?

 さてさて、これで下手に拡散する心配は無くなった。気兼ねなく話すとしましょうか。

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