第5話:生活環境がそこそこ整いました。
投下。ちょっと遅くなりまして申し訳ありません。
「・・・オハヨウございます」
「あぁおはよう」
どうも座り込んだ後、そのまま寝落ちしたみたいだ。空腹以上に知らない環境下で色々と動き回っていたせいか、疲労の蓄積が半端なかったみたい。
「それにしても、余程疲れていたんだねぇ。あの後いくら声をかけても一切反応がなかったから、ちょっと心配したよ。とりあえず、何も問題は起きなかったよ」
どうも椿が夜通し警戒してくれていたみたいだ。
「ありがとう。声かけられても反応できなかったか・・・緊張感足りてないな、俺」
「なに、こちらに飛ばされてからずっと警戒しながら動き回っていれば、無理もないと僕は思うよ」
「だとしても、だ。椿が居たとはいえ気を緩めすぎだ。咄嗟に反応できないようじゃ命が幾つあっても足りなくなる・・・はぁ全く、自分が嫌になる」
「キョウは自分に厳しいねぇ」
「そうか?もしこの場に親父と母さんが居たら、今頃俺は簀巻きにされつつ吊るされている所だな」
「うん、普通の家庭じゃないって事はよくわかったよ」
「親父も母さんも考古学者でな。2人が結婚する前は単独で遺跡調査とかしてたせいか、警戒の度合いが凄まじいのなんの。寝てる所に近づこうものなら・・・あの世に旅立ってしまう」
「・・・・」
「で、これくらいの警戒はできないと単独で遺跡調査なんざ夢のまた夢だって言われてからは、2人に俺の寝込みをちょくちょく襲ってもらって鍛えていたんだが・・・結果はこの通り」
「ドンマイ!誰しも失敗はするものさ。そうやって人は成長していくものだろう?」
「・・・次に活かしたいもんだ」
よし、反省終わり!朝っぱらからテンションが下がる思いだが、今の俺にはやらなきゃならん事が山積みだ。
「さて、椿さんや。俺はこれから生きていく為、衣食住の確保を行いたいんだが如何せんこっちの世界の事はさっぱり分らんとです。よって力をお貸し頂けませんでしょうか」
「うんいいよー」
「そんなあっさり!?」
「今の僕はこの通り腕輪だからねぇ。自分でどうこうできる状態じゃあないし、このまま元の場所に戻されてもね・・・それに僕が眠っていた間、この世界がどう進化してきたのかとても興味がある」
なるほど。お互い利害が一致しているという事か。
「それにキョウ自身にもとても興味がある!君と一緒にいるととても面白そうだ!」
「あぁ、ごめんなさい。俺、好きな子がいたんだ。それに腕輪はちょっと・・・愛せないかな」
「ちがーう!そういう意味じゃない!そして何で過去形!?」
「ハハハ、まぁいいじゃないかそんな事は。ともあれこれからよろしく、椿」
「サラッと流されて締めくくられた!?むぅ・・・まぁいいか。こちらこそよろしく、キョウ」
うん、この短期間で随分とお互いの距離が縮まったもんだ。なんか椿とは相性がいいと言うか話しやすいというか不思議な感覚だ。
「早速質問なんだが、この遺跡って椿の住居って事でいいんだろうか?」
「そうだねー。さして広くもないけど、雨風を凌ぐには丁度いいんじゃないかな。好きに使ってくれていいよ」
「よっし!住はこれでどうにかなる!温泉とか普通にあるし、照明も一応完備してるし、寝床さえ作ればかなりの良物件たりえるぞこれ!」
「喜んでもらえて何よりだよ」
次は食だ食!いい加減なんか飲み食いしないとマジでヤバイ。というわけで、外に行こう外。
「さぁて、何か食えるもんと水を早急に確保しなくてわ」
「味の保証はできないけど、それっぽいものを見つけてくれれば飲食可能な物かどうか僕が調べてあげるよ」
「うおーありがとうございます!最悪、一つ一つ軽く食って自力で判断しようとか考えてたんだ。これは本当に助かるよ」
「まぁ、飲食に関して言えば僕の助けがなくともどうにかなっただろうけどね」
「それはどういう・・・あぁなるほど」
「そ、キョウには僕以外にも心強い味方がいるって事」
そんな会話を椿としていたら、周りから食えそうな物の在処を教えてもらえた。そりゃあもう色んな所を。
「アハハ、キョウは精霊に愛されているねぇ」
「あー、この声やっぱり精霊さんなのね」
そうじゃないかと思ってましたけど、ここにきて確認が取れました。はい。
精霊さんに感謝の念を伝えていたら、椿から
「それにキョウはマナを意識せずに全身に巡らせる事ができるんだねぇ・・・それってとんでもない事だよ?」
「マナ?それって俺が自然から汲み取ってる力の事か?」
「そうそう。僕らは自然が生み出す力の事をマナって呼んでるんだけど、そのマナを未加工で使用する事ができるのは精霊くらいしか居ないというのが僕ら創造者の間での共通認識かな」
「ほー、なるほどマナって言うのか・・・所で、この世界にはあと何人?ほど創造者と呼ばれる存在が跋扈しているんだろうか?」
「それは・・・敢えて教えないでおくよ」
「それはまたなんで?」
「そりゃあ、自分の目で見つけて知った方が面白いから・・・かな?」
「違いない」
未知の物や者を見つけ、それを知る。有り体にいってワクワクしてきませんかね?
それからは精霊さんや椿からの説明を受けつつ食える物やアカン物、飲んでも大丈夫な湧き水やら川やらを教えてもらい、それらを頭に叩き込んでいく。最低限叩き込んだら、そこからは敢えて聞かず自力で探してみるとしよう。その方が楽しいからね!
「おし、控えめに言ってそろそろぶっ倒れそうだ。とりあえず、安全確実なので喉と腹を満たそう」
「そうだね。そうしたほうがいい」
これで食もどうにかできそうだ。残りは衣だが、こればっかりは現状どうしようもない気がする。しばらくは今身に着けている衣服で頑張るしかないかなぁ。こまめに洗いたいから、石鹸の代わりになりそうなものがあればステキなんだが・・・。
何てことを考えつつ、湧き水を飲み飲みリンゴのような果物が生っている低木から実を頂き咀嚼しながら遺跡の周りを探索。あれよあれよと時間が過ぎ、暗くなってきたので遺跡内に退避。
「ん~、なんか一気に気持ちに余裕が出てきたな。とはいえ、まだこの世界の住人やら動物やらと遭遇してないからな・・・引き締めなおさなくては」
「慎重だねぇ、キョウならそんじょそこらの連中にはまず負けはしないと思うんだけどね」
「こっちの世界の連中の強さがまるで分らん。それとこっちに来てからマナの濃度が濃くなったのか、以前と比べて気の運用がよろしくない」
「具体的には?」
「加減が全くできん!さっき試してみたけど、ちょっと気を纏ってみただけの状態で石を掴もうとして触れたら、石が消し飛んだ」
「うんそれはよろしくない」
「だろ?こんな状態で生き物にうっかり触れてもみろ。赤い塗料の入った水風船を壁に叩きつけたような光景が広がってしまうぞ」
「うぅ、想像しちゃったじゃないか」
「こんなんじゃ危なくて試すどころじゃない。早急に慣らさなくては」
まったく危険ここに極まれりである。今しばらくは生き物の脅威を避けつつ採取生活を続ける事になりそうだ。