第47話:なんとか出口まで来れました。
2019/08/31に本作品のタイトルを変更しました。今後は
『いせたん。 ~異世界に飛ばされた上、変な能力を押し付けられた件。~ 』
となります。よろしくお願いします。
僅かでもポイントを入れて下さった方、ありがとうございます。
「うおぉぉぉぉっ!走れお前ら!追いつかれるぞ!」
ガルドさんが叫んでいる通り、現在、絶賛逃走中です。
俺達が動き出して1分と経たなかった辺りで男性探索者から分離を果たした気持ち悪いバイザーの追走劇が始まった。
何処に隠されていたのか知らんが、昆虫の様な6本の足を蠢かせてこちらへと迫ってきている。
「ギチギチギチギチ!!」
あぁ嫌だ!怒っているのか何か知らんけど、凄く不快な鳴声?威嚇音?を発しながらどんどん距離を詰めて来やがる!
「いやぁぁぁぁっ!!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いぃぃぃぃっ!」
アルが半泣きで俺の前方左側をひた走りながら叫んでいる。あんなに立派で頑丈そうな盾を持っているというのに、コイツと来たら。
「いいから黙って走れっ!舌噛むぞ!それともアルも殿に志願するか!?」
「ゴメンなさい!許してください!後でミズキ達の倍は働くからアレの相手だけは本当にヤダ!」
「よぉし!言質は取ったからな!後で馬車馬の様に働いて貰うかんな!」
「うるせぇぞお前ら!」
ほらロイさんに怒られたじゃねぇか!あっ!今、レオナのお兄ちゃんに苦笑いされたぞ!
そんなこんなしてる内に彼我の距離が10mを切りそうだ。その時、マグルが振り向きざまに拳大のファイアーボールみたいな火球を作り出し、グロテスクなアイツに向けて撃ち出した。
瞬間、直撃し盛大な炸裂音を響かせる。おぉ・・・マグルってば、いつの間にそんな羨ましい能力を習得したのか。
がしかし、直撃した影響を微塵も感じさせず煙を突き抜けて迫ってくるクリーチャー。若干押し戻しはしたがその程度だ。ちょっぴり焦げてるくさいが、ダメージは皆無と言ってもいいだろう。
「マグル、今のって連射って出来たりする?」
「スイマセン、連射まではちょっと。今さっき思いついたものなので」
やだ、この子ってもしかして天才?確かカシアがマグルは爆発がどうのこうのって言ってた気がするな。カシアと言いマグルと言い、俺の知らない所で能力開発に勤しんでいると見える。今度ちゃんと聞き出しておかんと。
そのカシアが目を輝かせながらマグルの事を見ている。うおースゲーカッケー!とか思ってるんだろうよ。ん?つい最近似たような事があったような・・・ってコラ!危ないからちゃんと前を向いて走りなさい!
そんな事を考えている内にマグルがもう一発撃ち込む。がやはり、結果は変わらず。精々焦げた面積が広がったくらいか。
「ダメですね。全然効いてないです」
シュンとしてしまったマグル。超可愛いんですけど!状況が状況じゃなかったら、思わず飛びついてナデナデしたくなる破壊力ですよ!?
「いやいや、このどうしようもない状況を打開しようとしたマグルは控えめに言っても尊い・・・そう、尊いぞ!」
「お父様がそう言うと不純に聞こえて来るのは何故なのかしら?」
シリカが何か言ってるが俺は聞こえていないゾー。
「なぁガルド、この子達はいつもこうなのか?」
「俺も知り合って日が浅いが大体こんな感じだぞ、リカルド。誠実で良い連中ではあるんだ。けど、シリアスな場面にはとことん向いていないな」
何か奥の方からも聞こえて来るが、本格的にそれどころじゃ無くなってきた。
マグルの火球がお気に召したのか、ヤツの速度が急激に上がりマグルへと飛び掛かって来た。男性探索者の顔に張り付いていた時は然程脅威を感じなかった刃状の両腕だったが、それが見違える速さを伴って振り下ろされる。
「私を無視するなんて、とても不愉快」
振り下ろされた凶刃を間に割り込んだミズキが抜刀し、コレを迎撃。
武器同士がぶつかり合った音とは思えない衝突音を響かせると同時に、辺りに眩く火花が散る。
飛び掛かりによる攻撃の衝撃で一時的に滞空しているソイツに、マグルの飛び蹴りが炸裂する。文字通りに。
バイザーであった箇所に蹴りが吸い込まれるようにヒットした瞬間、接地面で爆発が起こった。蹴りによる打撃と爆発による衝撃で、ソイツは凄まじい勢いで後方へと吹っ飛んでいった。おし!もう戻ってくんなよ。
「マグルに美味しい所、持っていかれちゃった」
「ごめんミズキ姉さん」
物足りないって顔をしてるミズキにマグルが手を合わせて謝っている。
「いい判断だったと思うぞ、マグル。にしても、シリカ作の刀とぶつかり合って斬れない処か拮抗するとか・・・マジか」
「蹴りを見舞った瞬間、凄く硬い感触が足から伝わってきました」
ロイさんの拳がグシャグシャに潰れたくらいだからな。硬いのは分かっていたがこれ程とは。そしてマグルの頭を撫でて褒める事を俺は忘れない。
ミズキも何か撫でて欲しそうな顔をしてたので、ノリで撫でてやる。
「おぉ・・・やはりこれは・・・いい」
猫の様に幸せそうな顔をするミズキ!ドラゴンなのに。何度かミズキの頭を撫でる機会があったが、カシアやマグルと違ってイケない事をしてる気分になるのはどうしてだろうな?うん、なんだかヤバい。
俺が良く分からない方面へ意識を持っていかれそうになっていたら、
「ギチギチギチッ!!」
後ろの方から聞きたくもない音と共にソイツがまたやって来た。
「いい加減しつこいなぁ・・・アイツ」
俺が辟易していると、すぐ目の前で怒りの気配を発する者が1人。
「折角キョウに気持ちよく撫でて貰っていたのに・・・凄く不愉快」
そっちかい!思わず突っ込みたくなったがここはグッと我慢する。
それにしてもどうしよう・・・正直手詰まりだ。こちらの装備でダメージが通らないとなると本格的に逃げるしかないんだが。
一応手は無いわけじゃあない。けど、なるべくならやりたくない手段だ。こっちまで危険に晒されるし。
俺が悩んでいる間も不愉快なアイツはどんどんこちらへと迫ってきている。
「もうじき出口に付くぞ!だが、縦穴なだけに皆まとめて出る事は出来ん!どうしても足止めする者が必要だ!」
ガルドさんの意見はもっともだ。
「そちらで脱出する順番を決めておいてください!足止めは俺達が行います。そしてリカルドさん達は脱出した後、すぐに遺跡都市へと走って下さい。勿論レオナもだぞ?そちらの女性は一刻を争う容体ですから」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!こういうのは年長者である俺達の仕事だろ!?」
俺からの返しに即反論してきたのはロイさんだ。レオナは例え俺達側に残りたいと言ってきても認めるわけにはいかない。母親が重体なのに、娘を引き離すとか何処の鬼畜だよ。
「それこそダメです。ガルドさんやロイさんではアレに決定打を与えるのはまず無理でしょう?シエルさんは余力が残っていれば有りでしたけど、全力での一撃を後何回出せますか?」
「「「・・・」」」
「つまり、そういう事です・・・別にやられに行くと決まったわけじゃありませんよ?それにガルドさん達には脱出後、リカルドさん達をそのまま送り届けて欲しいですし。あの状態では遺跡都市までの道のりは過酷です」
項垂れるお三方。いや、本当に犠牲になるとかそんなんじゃないんですよ?どうすれば伝わるかなコレ。
「大丈夫です。まだまだやりたい事は山ほどあるんですから、死にませんよ。それに、レオナを僕に預けたいんでしょう?なら、僕らが帰って来るまでに親御さん達の説得をしておいてください。その方が話が円滑に進みますんで」
「・・・お前達、何の話だ?」
「落ち着いたらちゃんと話すから、そう睨むなリカルド。決して悪い話じゃない」
よし、今のリカルドさんの反応で確信したぞ!あれは絶対に親バカだ!精々頑張る事ですよお三方、娘を愛してやまない父親はとても厄介だ。ガルドさん達が俺を射殺す勢いで睨んできたが知らぬわ。
「受け入れ先が全滅とか笑えない事態には決してしないのでご安心を。いざとなれば、僕が前に出れば済む話です」
俺は努めて冷静に断言する。有り得ないと。
「大丈夫、キョウが前に出る事はない。私が倒すから」
「ミズキ姉がダメだったら、次は私が行きたいー」
「その次は僕が行きます」
「久しぶりの実戦だねぇ・・・まぁ何とかなるんじゃないかな」
「私が踏みつぶしてあげるわ」
「わ、わ、私だってやる時はやるよっ!?グロなんかに負けないんだから!」
ミズキを筆頭にカシア、マグル、ツバキ、シリカ、アルの順番で頼もしい事を言ってくれる。まぁ最後の1人がちょっと迷走してるけど。
「・・・ちゃんと全員で帰って来いよ」
「そこまで言った以上、死ぬとか許さねぇぞ」
「必ず帰ってきてください。絶対ですよ!?」
納得はしていなそうだが、俺達が残るという事で意見は纏まった。
「あの・・・私も」
「それはダメだレオナちゃん。君は何の為にここまで来たんだ?クランの皆を助ける為だろう?なら、最後までそれを全うしなきゃな」
レオナちゃんは自分も残ると言いたかったのだろうが、それを言わせるつもりは無い。
「・・・必ず、必ず帰って来てください。お願いします」
俺は何も言わずにレオナちゃんの頭を優しく撫でてやる。リカルドさんからの視線が辛いがここは耐えるべき所だ。
そうして俺達は地上へ続く縦穴に辿り着いた。




