第46話:捜索対象を保護しました。
※2019/09/01 大事な方が抜けていたのを修正。
ソイツは探索者の身なりをしていた。遺跡都市でもよく見かけそうな格好だ。問題は首から上にかけてだ。別に羊の頭とか獅子の頭とか爬虫類の頭部が生えている訳でもない。そうパッと見は仮面を付けた男性探索者だ。
けどその仮面が何というかいただけない。いや、仮面というよりバイザーだろうか。口元から上に掛けてソレは男性探索者の顔に張り付いているように見える。
頭部から生えているであろう角にもそのバイザーは張り付いており、最早角というよりは虫の触覚を想起させる見た目へと変貌している。
そしてそのバイザーの両側面から伸びている触手のようなものは男性探索者の首と肩を経由し、腕の動きを阻害しない形で掌に収まり握られている。
握られたその触手の先端は鋭利な刃物の形状をとっており、2刀流の剣士に見えなくもない。ただし、その形はかなり歪で不格好だ。
色までは薄暗くて判別できないが何処となく有機的で脈打っており、バイザーの中心には目の様なものが一つギョロギョロと世話しなく動いている。
全体のフォルムはデカくて気持ち悪い虫っぽいものが男性探索者の顔に張り付いているって所だ。ハッキリ言って気持ち悪い。
俺達は徐々に男性探索者との間を詰めていく。一定以上近づいた所でソイツが突如こちらへと振り向き、手に持った歪な刃物で先頭のガルドさんへと斬りかかってくる。
「ガルドさん!防ごうとか考えないでくださいよ!?」
「言われるまでも・・・ないわ!」
俺がガルドさんに警告を発すると同時に、無造作に振り回された凶刃を鮮やかに避けるガルドさん。と同時に懐へと入り込み気合一閃。強烈なボディーブローを放ち、男性探索者を壁際まで吹き飛ばす。
「今だ!嬢ちゃん、レオナ!走れっ!」
ロイさんが救助班である2人のフォローへと入り、シエルさんが追撃とばかりに男性探索者に水撃を見舞う。その攻撃は相手の膝関節にヒットしあらぬ方向へと折れ曲がる。
だというのにソイツは、
「ロイ、気をつけてっ!そっちに行ったわ!」
シエルさんが叫ぶと同時に、人ではありえない態勢で走り、治療を行うべく走っている2人へ襲い掛かろうとする。
「行かせる、わけが・・・ねぇだろうがぁぁぁっ!」
即座に襲い来る敵と2人の間へ入り込むロイさん。男性探索者は勢いをそのままに割り込んできたロイさんを串刺しにするべく、空いていた片方の凶刃を突き出してくる。
ロイさんはその攻撃を見えているとばかりに紙一重で避けると同時に、相手の顔面へとカウンターの一発を繰り出す。
「くたばりやがれぇぇぇっ!!」
相手の顔面へ拳が吸い込まれると共に空き缶を踏みつけたような音が聞こえ、再度男性探索者が壁際へと吹き飛んでいった。普通なら首の骨が折れていていてもおかしくないレベルだ。
「・・・くそっ!」
しかし、ロイさんからは悪態が聞こえてきた。振り抜いた拳に目をやると、こちらの拳がズタズタにつぶれている。なるほど、さっき聞こえてきた音はロイさんの拳が潰れた音だったようだ。
俺はすぐさま予備のポーションを取り出す。
「ロイさん、これ使ってください」
「悪い、助かる」
直にロイさんはポーションを潰れた拳に振りかけ、残りは飲み干す。程無く拳から蒸気の様な煙が上がり、修復されていく。
とはいえ、即座に完治するわけじゃあない。それと後で知った事なんだが、ポーションで修復されている間、常に痛みが伴うそうだ。
ちょくちょくポーションのお世話になっているカシアは痛がっている素振りなぞ微塵も見せなかったので気づくのが遅くなった次第だ。
その証拠にロイさんは結構な脂汗を浮かべている。痛いとは死んでも言わなそうな人だが、表情がスゲー痛いんだぞコレって訴えている。
「予備で持ち歩いていたポーションは今の一本だけです。負傷したらレオナ達が居る方へ退避して治療してください」
「了解だ」
「分かったわ」
「おう」
そんなやり取りをしている間でも、俺達の視線はロイさんのカウンターで吹き飛んだ男性探索者から片時も離れてはいない。
するとソイツはゆっくりとした動作で折れてない足と両手の歪な刃物を駆使して立ち上がってくる。そして首はあらぬ方向へと折れ曲がり、口からは血の泡を噴き出しながらこちらへと近づいてくる。
ロイさんのカウンターを受けた顔面は、鼻とかは潰れてそうだが肝心のバイザーそのものは無傷であった。見た目に反して頑丈なようだ。
「・・・こいつは確かに人じゃあないな」
「えぇ・・・気持ち悪くて仕方ないわ」
「とりあえず、残りの足も折っちまおうぜ」
ロイさんのもっともな意見にシエルさんが頷き、先ほどと同じく水撃を放ち逆側の膝関節も破壊する。
男性探索者が盛大に倒れ込む。これでもう動かせるのは腕ぐらいだ。
「終わりました!いつでも撤退できます!」
レオナとツバキが治療を終えた面々を引き連れこちらへとやってくる。レオナの母親は意識が無いらしく、父親らしき男性に背負われている。
「済まない。本当に助かった」
「救援、感謝する」
「「ありがとう。もうダメかと思ったよ」」
レオナのお父さんとその兄、あと双子の女の子達から次々と感謝の言葉が送られてくる。
「まだ気を抜かないでくださいね?遺跡都市に帰り着くまでが探索です。ガルドさん、ロイさん、シエルさん、撤収しましょう」
俺がお三方に声を掛けた時だった。
「・・・おいキョウ!アレを見ろ!」
ガルドさんが警告ともとれる声音で男性探索者の方を見つめている。あぁ・・・嫌な予感しかしない。
「うわぁ・・・」
そんな声が思わず漏れてしまった。男性探索者の方を見ると、仰向けに倒れた状態でビクビクと痙攣しているのがすぐに分かった。
しかし問題はそこではない。その男性探索者の顔に張り付いていた気持ち悪いバイザーが、辺りに血を撒き散らしながらソイツの顔から離れようとしていたのだ。
強力に張り付いた物が無理やり剥がれる音が聞こえて来る。それに混じる形で何かが引きちぎられる音も否応なく共演を果たす。グロい。
あれだ、凄惨な光景に見入ってる場合じゃない。相手が本格的に動き出す前にさっさと逃げるとしよう。
「皆さん撤退します!あんなキモくてグロいの相手にしたくありません!向こうの態勢が整う前に尻尾巻いて逃げますよ!」
俺の撤退宣言に物申す者は1人もいない。そりゃあ誰だってあんなのと好き好んで戦う奴なんていないだろうさ。
「え~・・・あるじ、アレ倒さないの?私戦ってみたい」
「私も戦いたい」
居たよ!物好きなのが!俺達だけならいざ知らず、今は一刻も早く負傷者を本格的な治療が出来る遺跡都市へと搬送しなくてはならない。
「ダメです!特にカシアはこの前激闘を演じたんだから、一回お休みです。とはいえ、絶対追ってくるよなこの感じ・・・仕方ない、殿はミズキに頼む。これで我慢してくれ。出来ればサポートでアルを付けたいんだが」
そう言ってアルの方を見てみると、アルが全力で首を横に振っている。だよなぁ・・・お前、グロ耐性低いもんな。ほらカシア、拗ねるんじゃない。ナデナデしてあげるから。
「・・・マグル、ミズキのサポートについてくれるか?」
「分かりました」
ここは堅実な動きをしてくれるマグルでお願いしたい。シリカは守りの要なので要救護者からあまり離したくない。
「先頭は今の戦いで消耗したガルドさん達に。間にツバキが入ってくれ。リカルド?さん達はツバキに付いていく形でお願いします。その後方にシリカが付いてくれ。万が一、俺やミズキ達が突破されたらその時は頼む。アルとカシアは引き続き両サイドの警戒を。レオナは母親の傍に付いていてやるんだ。俺はミズキとシリカの間で適宜支援する。アレ以外にも何か潜んでいるかもしれん、皆油断しないでくれ。よし、行くぞ!」
俺の掛け声と共に一同は動き出した。




