第42話:断崖に辿り着きました。
道中、ガルドさん達が襲い掛かってくるモンスターを蹴散らしてくれた。いくら気配を消していても遭遇してしまう時はある。早い段階でこちらが気づいて迂回する事も出来るが、今は急いでいる。出会い頭に襲ってくる連中は容赦なく倒した。
倒されたモンスター連中を手早くバックパックに放り込みつつ、俺は3人の動きを余すことなく観察していた。
ガルドさんは見た目通りのパワーファイタータイプだ。モンスターの体に拳の後がクッキリと付く威力のパンチを繰り出したり、貫通するんじゃないかと思ってしまう程の蹴りやキックを武器にして戦っている。
ロイさんは意外や意外、こちらは見た目に反してとても合理的でスマートに相手を倒していく。一撃でモンスターの首をへし折ったり、弱点と見える箇所を的確に狙って最小限の動きでモンスターを仕留めている。
そしてシエルさんは前者2人とは全く違うスタイルだった。空気中の水分を圧縮してレーザーのように撃ち出したり、薄く延ばしたカッターの刃のようなものを飛ばしたりしていたのだ。それを食らったモンスターは体に小さな穴を穿たれたり、首を落とされたりして絶命した。
アルからフォースは身体強化や気配遮断的な事以外も出来るとは聞いてはいたが、これには驚いた。思わず口があんぐりしてしまった程だ。
そんな俺を見ていたガルドさんとロイさんが苦笑いしつつ、
「言っておくが、俺はあんな事できんぞ。ここぞという時に貯めてあるフォースで体を強化するくらいだ」
つまり、ガルドさんは今までの戦闘でフォースを一切使っていないって事だ。十分バケモンじゃなかろうか?素の状態なのに、ちゃぶ台サイズのカミツキガメのようなモンスターを、さっき一撃で屠っていた所を俺は見た!
「おっさんはまだいいじゃねぇか。変換効率がすげぇいいんだから。俺なんざ、貯蓄量こそあるが変換効率が悪い上に身体強化も苦手と来たもんだ。今だってフォースで身体強化してるっていうのに、素のおっさん以下のパワーしか出ねえんだぞ?かといってシエルみたいな放出系の能力があるわけでもない。たくっ、これじゃあバルガスに言い返す事も出来やしねぇ」
んん?ロイさんの動きを見てる限り、パワーなんて要らないと思うのは俺だけか?今の内容で気になった事をあれこれ聞いてみよう。
なお、俺はお三方が倒したモンスターを素早くバックパックにしまっており、この会話も移動しながらである。
他の面々も3人の戦いぶりを見て色々と学んでいるのだろう。カシアに至ってはガルドさんの事をキラキラした目で見ていた。うおーかっけーとか思っているに違いない。
「ガルドさんは戦いながらマナを変換する事は出来ないんですか?変換効率が良いのなら身体強化で使用しても直に回復出来そうなものですけど」
「出来ないな。変換するには結構な集中力がいるのは知っているだろ?俺の場合、足を止めて変換に集中しないとどうにもならん」
そういや、アルがそんな事を言っていたかもしれん。やっぱ現実的じゃないのかね・・・とそう思ったら、
「俺はな。ほら、そこにキョウが言った事を実践出来そうなのが居るだろう?」
ガルドさんが目線で示しているのはシエルさんだ。なるほど、彼女の戦闘スタイルなら出来てもおかしくはないか。
「・・・出来なくもないけど、凄く疲れるからやりたくはないですね。集中して変換した方が効率が良いですし、その方が疲れませんから」
「戦闘中にフォースが無くなって手も足も出なくなる何て事は、これまで無かったんですか?」
「そもそも単独で戦う事を周りが許していなかったから、そういう危険な状態に陥る場面が無かったわ。フォースが残り少なくなってもクランメンバーが時間を稼いでいる間に変換出来てしまうし。でもそうね・・・今後単独でも動ける様に、こういう分かりやすい欠点は潰しておいた方がいいわね」
「因みに近接戦闘は得意なんですか?」
「嗜む程度ね」
「・・・嘘つけ」
「ロイ、聞こえてるわよ」
・・・どっちだろうなコレ。実は苦手なのか?いやいや、ロイさんの呟き具合からして得意な気もする。うーん、分らん。
けど、俺らのやり取りでシエルさんの今度の鍛錬が決まったようだ。そんな簡単に改善できるとは思えんが頑張って下さい。改善出来たらめでたく固定砲台?から移動砲台?へクラスチェンジである。恐ろしい。
そんなシエルさんを羨ましそうに見つめる男が2人。ロイさんは結構表情に出るから分かりやすいな。ガルドさんも表情にこそ出ていないが、そういう雰囲気を隠しきれていない・・・何でだ?
「才能豊かな奴は伸びしろが多くて羨ましいぜ」
ロイさんが誰にも聞こえないくらい小さな声でそう呟いたのを俺は聞き逃さなかった。え?いやいや、ロイさんが才能無い?何を言っているんだこの人は。この3人の中で誰よりも早くモンスターの存在に気づき、速やかに排除してる人がシエルさんに劣等感を抱いているとか冗談でしょ?
まさかとは思うがガルドさんも自身に限界を感じたりしてるんじゃなかろうな?有り得ないから。お三方共々、まだまだすぎる程伸びしろの塊ですから。
話すほどに聞きたい事が増えていくな。話題には困らないがキリが無くなってきそう。
「3人には師匠とか指導者みたいな人は居なかったんですか?」
「居ないな。戦い方の基礎みたいなもんは周りの大人連中をみて覚えたし、ある程度して戦えると周りから判断されたら即探索だったからな。後はもう死なないように立ち回って自己流で鍛えた」
「俺も大体そんな感じだな。何処もそうだが、誰かに物を教えるくらいなら少しでも探索して自分を磨けってのが殆どだぞ」
「私はせいぜい能力の発現方法を教えてもらったくらいかしら。そこから先は2人と差して変わらないわ。ただ、私の場合は手本となる人が身近にいなかったから本当に苦労したわ」
それぞれが下積み時代を思い返して遠い目をしている。何というか、厳しい世界だ。
アルから聞いた話だが、この世界はどんな生物でも成長するのが異様に早い。モンスターがその代表格と言えるそうだ。そして人も例外じゃない。女性が妊娠して僅か10日で出産し、1月もすれば生まれた子は小学校低学年位にまで成長し元気に走り回るという。2月で中学生位に成長し狩りの仕方とかを覚え始めるそうだ。3月も経てば見た目は俺くらいにまで成長し、一端の探索者とみなされ遺跡に赴く。
けどまだまだ未熟な肉体な上、精神的にもお子様だ。経験を伴わない探索で命を落とす者が大半で、どうにか生き残っても深刻な傷を受けてドロップアウトしてしまう人も多い。
そんな無謀とも言える道程を生き抜いて来たのが、今のガルドさん達探索者だ。一昔前、強制的に遺跡へ赴かせるのはどうかという意見が多く上がり今では自由に選択できるようになったが、それでも探索者への憧れは強いらしく、若い子達は変わらず遺跡へと赴くそうだ。親自身が過去の経験を語っても、止まらない程だから相当だ。探索を断念した親達からすれば、自分の二の舞になるかもしれない我が子を行かせたくないだろうに。
総じて出生率が良くても、肝心の若い世代がその分命を落としているので全く人口が増えないというのが遺跡都市の現状である。しかも死亡率は低くなっているとはいえ、決して多くもないベテラン勢が探索の途中で命を落としている有様だ。悪循環としか言いようがない。このベテラン勢が後進の育成に力を注げば、相対的に人口増加へと繋がるというのに。
生まれて1年もすれば子供を産める体になるから、頑張って励んでねってのが遺跡都市全お偉方の総意らしいが問題はそこじゃないだろうに。
あれか?遺跡都市の住人は先天的に脳筋なのか?遺跡探索も大事なんだろうが、それ以前に種の保存という根源的な部分を何処かに置き忘れちゃいないか。幾ら弾数が多くとも、ガトリングで無駄に吐き出されてしまっている薬莢や弾に問題が生じてジャムった日には、あんたらいつか滅ぶぞ。使用するしない以前の問題だ。まずは環境を整えんかい!遺跡都市を切り拓いた先人達には申し訳ないが、これは酷いと言わせて頂く。この状況に不満の声を上げない住人達も住人達だ。
グダグダと思考を垂れ流してしまったが、要するにこのお三方は・・・というより、探索者達は指導者に恵まれていないという事だ。何に対してとかじゃなく、全てにおいてだ。
なので、俺は言う事にする。この人達が抱えているであろう懸念事項は全くの勘違いであると。
「あのですね、凄く言いづらいんですが・・・3人共々互いに何やら問題を抱えているようですが、それ全部杞憂ですよ」
「「「・・・」」」
無言の圧力が凄まじい。足を止めてスイマセンでした!って言いたいが大事な事なので頑張って話を進める事にする。
「まずはガルドさんから。身体強化をする時、体全体を強化していませんか?しかも出力MAXで。それだと力が分散してしまって効率が悪い上に無駄にフォースを消費する事になってしまいます。なので、身体強化を行う時は部位毎に且つ刹那的に、そして適切な出力で発動する事をおススメします。今から例を見せますので前方の敵意剥き出しのモンスター、僕にやらせてください」
そう言って俺はバックパックをミズキに預け、身体強化を足に集中させて急加速し、目の前に迫った硬そうな大蛇を殴りつける。
サンドバックを叩いたような重低音と共に大蛇は大きくのけぞりはしたが、ダメージは通って無さそうだ。
殴られた事で本格的に敵認定を受けた俺に飛び掛かってくるが、すかさずバックステップを行い、噛み付こうとしてきた頭を拳で迎撃する。
足を止めて俺と大蛇の攻防を見届けている面々に聞こえる様、少し声を大きくしつつ説明を続ける。
「今、このモンスターを殴りつけましたけど、身体強化率としては通常の10%程度・・・硬い物を反射的に殴っても負傷しない程度の身体強化を、拳が相手に触れる瞬間に、その腕だけ施しました。これを次は50%程度の出力で行うと・・・」
そう言って俺は、こちらを警戒して動かなくなった大蛇に再度踏み込むと同時に拳を叩きつけた。
その瞬間、今度は何かが弾けたような音と共に大蛇の頭から胴の中程までが吹き飛び、後ろにあった巨木が血と肉塊で彩られた。
「こんな感じです。こうする事で消費を抑えつつ、ここぞという時に火力も出せるかと。後、余裕がある時は例え戦闘中でもマナの変換を行う癖を付けましょう。最初はきつくても、繰り返す内に必ず慣れてきます。最終目標はフォースを消費しても戦いながら変換出来るようになる事です。日頃の鍛錬として常に身体強化を弱く発動させつつ、マナ変換を同時に行う事を推奨しますよ」
ミズキに預けたバックパックを受け取り、半分以上がミンチになってしまった大蛇を回収する。もうちょっと出力を抑えるべきだったか・・・反省。
今度はガルドさん達3人が口をあんぐりさせているが、余り長く立ち止まっている訳にもいかない。ガルドさんに道案内の続きを促し、俺達は走り出す。
「次はロイさんですね。怒らないでくださいよ?ハッキリ言って、ロイさんはガルドさんのようなパワーでねじ伏せる戦い方には向いていません。自身の戦い方からも分かるように、如何に最小の動きで効率よく敵を倒せるか・・・これに尽きます」
「・・・それで?」
「身体強化が苦手だと言っていましたが、現状火力が不足しているとは思えません。先程見せた部位毎による身体強化の使い分け・・・これで体全体に分散してしまっていた強化を一つの部位に集約すれば満足のいく出力を得られるかと」
「・・・」
「ロイさんの利点はフォースの圧倒的な貯蓄量です。これを活かさない手はありません。まずロイさんも動きながらマナ変換が出来るように頑張って下さい。こればかりは慣れるしかないです。そして、戦闘中は常に気配遮断です。一度敵の視界から抜け出せば補足が困難な気配遮断を身につけて貰います。もう一つは目の強化。相手の動きや弱点を見抜く洞察力は既に身についているので、次の段階である空間を把握する目を身につけましょう」
ロイさんの反応はいまいちだ。まぁこれも身をもって体験して貰えば実感しやすいか。
「じゃあ早速体験して貰いましょう」
俺はそう言ってその場に自身の気配を残し、本体である俺自身は周りの気配へと同化させる。そして速やかにロイさんの逆側へ・・・つまり右側の方へと周り込みロイさんの肩を叩く。
「っ!?なっ!?ど、どういう事だ・・・今この一瞬でどうやって俺の逆側に周り込んだんだっ」
「一瞬じゃあないですよ。気配を消して普通に周り込んだだけです」
「そんな馬鹿なっ!現に今この瞬間までキョウは俺の左側に居たはずだ!」
「気配遮断というものを突き詰めて行くとこんな芸当も可能という事です。正確には気配遮断を応用した気配残留と気配同化というのを使っています。これともう一つ、気配拡散というのがあります。ロイさんには気配同化と気配拡散を優先的に習得してもらいます。なお、気配拡散が出来るようになると・・・」
突如音もなく気配を消した存在が上から襲い掛かってくるが、俺は誰よりも早く察知しコレを迎撃して見せる。
ガルドさんを狙った上からの奇襲を、樹木を足場にして三角とびの要領で空を舞い、襲撃者に飛び蹴りを見舞う。
予想外の反撃を受けた襲撃者はまともに食らい、俺達の前方へと吹き飛ぶ。慌てて態勢を立て直そうとしていたが、シエルさんが冷静に水のカッターを飛ばしてコレを両断した。
盛大に血しぶきが舞う中、奇襲を受けた事よりも俺の反応の良さに3人が驚いている。バックパックを下ろして素材と化した襲撃者を収納する。サルのようなモンスターであった。
「こんな感じで気配を消して忍び寄ってくる存在に逸早く気づく事ができます。最終的にはここにいる全員にこの気配拡散は出来るようになって欲しい所です。これが目を強化する概要ですね」
「・・・いや、もうなんつーか、とんでもねぇなキョウは」
おいこら、お三方とレオナはともかく何でうちのクランメンバーまで納得した体でいるんだ。君たちは既に知っている事でしょうに。
「・・・で、最後にシエルさんなんですが、今さっき挙げた戦闘中でも動きながらマナ変換が出来る様になる事と気配拡散、この2つを押さえておけば余程の事が無い限り近づく事は出来ないかと。敵の攻撃範囲外から一方的に攻撃し続ける事ができるわけですから。でも、油断は決してしないでください。敵の中にも遠距離攻撃を得意とするのが居るかもしれませんし、今いる場所みたいに地形を利用して接近を試みる存在もいますので。そういう意味では、万が一接近を許した時用の攻撃方法開発をしておいた方がいいかもです。これ以上はシエルさんの能力を詳しく知っている訳ではないので」
ふぅ、こんな所じゃね?後は各々の努力次第という事で。
「どうです?限界を感じるにはまだまだ早すぎると僕は思いますが。皆さんには欠点を補って余りある物が十分にあるんですから、ちょっとそこら辺を極めてみてはどうでしょうか。あ、気配遮断関連の実践については余裕が生まれ次第お教えしますね」
「「「・・・」」」
おぉ、走りながらフリーズするとか中々器用な事をしてくださいますな。ふふふ、まぁ鍛錬に終わりというものは存在しないのです。大丈夫です、習慣化すれば逆にやらないと気持ち悪く感じるようになるんで。
そんな3人への説明が終わった所で、ずっと俺の事を見ていたレオナが走り寄ってきて、
「私にも色々教えて欲しいです」
何処か真剣な表情で俺に教えを乞うてきた。
「ん~レオナちゃんの場合、どんな事が得意で何が出来るのかがまず分からないとな」
「それもそうですね・・・」
レオナちゃんとそんな会話をしていたら、開けた場所に出ると同時に天然の城壁と言ってもいいような断崖が視界に入ってくる。
どうやらここが件の未開拓エリアへの侵入を阻んでいらっしゃる境目のようだ。どこかの国境よろしく、先の見えない断崖が連なりここが終点であると思わせて来る。
そんな断崖の周りに、どっかでみたような天然の柱の様なものが生えている。何だったかと頭の中を検索していたら、
「丁度いいのがありますね。キョウさん、私の事見ててくださいね」
レオナはそう言うと、軽い足取りでその柱へと近づいていくのだった。




