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第39話:永い一日でした。

 温泉から上がってきた面々がサッパリした表情をしつつ、狼形態のカシアとマグルを乾かしている間に俺もとっとと入って来てしまうとする。温泉にゆっくりゆったりと浸かっていたい所だが、レオナの話とやらをまだ聞いていない。明日の予定に変更を加える事になるかもしれないので、寝る前に聞いておくに越したことはない。


 俺が温泉から上がって来る頃には、カシアとマグルもすっかり乾いてフサフサのモッコモコになっていた。2人は寝る時必ずこの狼形態で寝ている。人型でいるよりもこっちの方が快適で且つ快眠出来るそうだ。

 2人というか2匹のブラッシングを完遂したアルがもう我慢の限界とばかりに横になって涼んでいたカシアに抱き付く。


「あ~カシアのお腹、プニプニしつつもサラッとした触り心地・・・ん~止められない堪らない~・・・そしてこのフサモコな毛の圧倒的なボリューム感・・・癖になりそう」


 顔の筋肉が緩みに緩み切っているアルが何ともだらしない声で感想を垂れ流している。そんなアルがウザく感じたのか、


「アル姉、暑苦しい!は~な~れ~て!」


 カシアの肉球がアルの頭をテシテシと叩いているが、これがもう効果が抜群だったらしく


「っ!カシアもっとやって~。今気づいたけど、カシアの足の裏ってピンク色しててとっても綺麗・・・そしてなんだろうこの独特な感触・・・触ってもいい?」


 顔にもウルフパンチを食らった影響なのか、どうやら肉球の素晴らしさに気づいてしまったようだ。振り下ろされたカシアの前脚をソッと受け止めたアルは、サワサワと肉球を触りだす。


「こらー!ソコは敏感だから触るな~!」


 掴まれていない前脚でアルの顔面を踏みつける様な乱打を繰り出し、拘束から逃れようとしているカシア。


「へぶっ!おふぅ!?」


 堪らずにカシアの前脚を放したアルは、2足となった肉球スタンプの乱れうちをその顔に受け、その威力で間合いが広がった事が災いして止めとばかりに繰り出された後ろ脚によるお馬さんキックならぬ、ウルフキックを受け俺の方へと転がってくる。そんな猛攻を受けたアルは、何処かやり遂げた表情をしており


「悔いなどあろうはずもない」

「お前は何を言っているんだ?」


 反射的にそう突っ込みを入れてしまった。にしてもだ、


「この短い間でもう違和感なく溶け込んでるな、レオナちゃんは」


 そのレオナちゃんは今、完全にひっくり返っているマグルのお腹をツバキと一緒にナデナデしていた。皆と温泉に入る前は余裕が無い感じだったのだが、今はとてもリラックスしているように見える。この僅かな時間でもう馴染んだようだ。レオナちゃんの適応力が凄まじいのか、はたまた皆の距離感の詰め方が凄まじかったのか・・・現場に居なかった俺に知る術は無い。


「とてもいい子よレオナちゃん」


 そう言ってくるのはシリカだ。そのボディは一切の汚れを排したせいかピカピカである。きっと皆で楽しく洗いあったに違いない。そしてその声にはもう、レオナに対する警戒など微塵も感じない。それは他の面々にも言える事で、いつもと変わらずにリラックスしているのがその証拠とも言える。裸の付き合いは凄いな。


「なので、お父様にはレオナちゃんの話を是非とも聞いて貰うわ」

「大丈夫、初めから聞くつもりだったから」

「本当に?厄介事に巻き込まれるのはゴメンだから、追い返すつもりじゃなかった?」


 鋭いな。


「まっさかー、あの時のは演技だって分かってたでしょ?」

「でも、話を切り上げようとした時、あのまま食い下がらずに大人しく帰ろうとしたら止めもしなかったでしょ」


 ・・・その通り。それで話が終わるに越した事は無かったからだ。けど、


「結果は御覧の通りさ・・・俺としてはあの場で話を済ませてどうするか決めるつもりだったんだ」


 そして情が移る前にとっとと決断を下すつもりだった。俺達には関係ない、他を当たってくれと。


「全く・・・これじゃもう見捨てるなんて言えるような雰囲気じゃないな・・・まぁ、皆で温泉入ろうって言いだした時点で止める気が起こらなかったって事は、俺も内心は力になってやりたいとか思ってたんだろうな」


 俺は苦笑いをしつつ、懺悔めいた事を独白していく。でも、すぐに表情を改める。


「恐らくだけど、あの子を俺達の所へ行くように焚きつけたのは会議室で話し合いをした3人だ」

「自分達じゃどうにもできないから・・・かな?」

「あぁ・・・立場とか面倒な柵も絡んでそうだが、あの都市で実力は確かな連中が揃って匙を投げた案件だ・・・絶対に厄介事だろうよ。なのに、どうして皆首を突っ込もうとするかね」

「お父様が私達を危険な目に合わせたくないっていうのは皆わかってるわ。でも、それ以上にあの子の力になって上げたいとも私は思ってしまった・・・ゴメンなさい、我侭な娘で」


 そんなシリカの言葉に同調するような形で、今の今まで転がった状態で俺らの話を聞いていたアルが、


「悔いなんてないよ、キョウ。この後どんな結果が訪れたとしても私は後悔なんてしない。だからキョウも私の事は気にしないで、自分の気持ちに素直になってもいいと思うんだ。そして、レオナちゃんは私にとっての天使だった!」


 いや本当に温泉で何があったんだ?この短時間で気を許しすぎじゃね?俺が無言でアルの前にしゃがみ込んでほっぺをムニムニと突いたりグリグリしていたら、ミズキが俺の所までやってきて肩に手を置き、何かドヤ顔でサムズアップをしてきた。いや、わかんねーよ!それはどういった意味でやってるわけ!?というか、そのポーズ絶対気に入っただろミズキ。


 何か馬鹿らしくなってきた。人がシリアスに見捨てるだのなんだのって話をしているのに、一部の連中が全然空気を読んでくれない。俺は深い溜息を一つ付いた後、


「俺も含めてまだまだ未熟者なんだ。探索を始めて間もないし、遺跡都市そのものの情報収集だってこれからなんだ・・・情報が圧倒的に足りてない。右も左も分かってない状態でいきなりの厄介事だ・・・最善は尽くすが自己責任で頼むぞ?」


 あぁ・・・言ってしまった。これでもう俺も引き返せない。理性の方では止めとけって警鐘が鳴り響いているっていうのに、感情の方ではあんなにも必死な女の子を見捨てるんじゃないとがなり立てて来る。集団を率いる者としては失格じゃなかろうか。


 でも、そんな俺の決断が嬉しかったのか


「お父様、ありがとうございます。全力を尽くすわ」


 うん、シリカがとっても嬉しそうにそう言ってくれるのは心強いんだが、それはちょっと待って欲しい。その未知過ぎるボディの性能把握が済んでから全力を出すように。


「キョウなら最後はそう言ってくれると私は確信していたのだ」


 嘘つけ!なんかイラっとするからアルのほっぺを両手で摘まんで引っ張ってくれる。


「ふぁい、ふぁめてふぁめて~」


 そんな俺の肩にまたも手を置いて来たミズキは


「楽しみにしてる」


 え、なにを?何やら凄くいい笑顔でそう言った後、ツバキ達の所へと行ってしまう。俺が下した決断を残りの面々にも伝えているのだろう。

 ツバキがこっちを向いてミズキお得意のサムズアップで答えて来る。はいはい、了解っと。カシアとマグルは・・・尻尾がブンブンワサワサと動いている辺り問題無さそうだ。そして、当の本人であるレオナちゃんは、涙目で深々とお辞儀をしてきた。うん、もう見捨てるとかムリ。

 で、だ。俺は今さっきミズキに掛けられた言葉の意味が分からず、アルに聞いてみるとする。


「なぁ、アル。ミズキは何に対してあぁ言ったんだ?」


 俺がほっぺから手を放して聞いてみると、若干涙目になっていたアルは


「範囲が広すぎて私には何とも言えないかなぁ・・・ミズキって結構天然な所があるから」

「そうなんだよなぁ・・・仕方ない、後日それとなく聞き出しておこう」


 後々残念がられるのもそれは嫌なので、ちゃんと聞いておく事にする。


「ほれ、いい加減転がってないであっちに行くぞ。レオナちゃんから話を聞かないと寝れん」

「あっちょっと待ってよ~」


 俺はシリカを伴って歩き出す。アルも団欒に加わりしばしの間たわいのない話をした後、本題へと移ってゆく。

 本当に長かった一日がようやく終わろうとしていた。

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