第36話:帰ってきました。
あ~やっと着いた・・・片道1時間程度とはいえ探索後にこの道程は結構くるものがあるな。バンクに一時的に預けた荷物を持って帰ってくる事を考えるとちょっと億劫だ。
遺跡都市を出る前にミズキの空腹具合がちょっと深刻だったので、出店にて串焼きを数本買い移動に支障が出ない程度に腹を満たして帰って来た・・・はずなのだが
「・・・お腹すいた」
ミズキのお腹は絶賛大合唱、早く食い物を寄越せとがなり立てている。うん、こりゃ急がないとストライキに発展してしまいそうだ。
「ミズキってそんなに燃費悪かったっけか?」
「人の形をとっていても、私ドラゴンだから」
あ~確かにあの体を維持するとなると、串焼きの1本2本など食ったうちに入らないか。
「ん?でも俺らと一緒に食ってる時は、大体似たような量食ってなかったか?」
「以前一杯食べた時の食いだめ分が、あの時はまだあったから」
「ほ~食いだめなんて事が出来るのか」
「一度お腹一杯になるまで食べたら、3日は大丈夫」
なんて羨ましい。とっても探索向きじゃないか。
「という事は俺らと一緒の量じゃミズキには物足りないな・・・ちょっと狩ってくる量を増やすか」
「うん、そうしよう」
ミズキの目がヤル気一杯だ。もっと早く気づいてやれればよかったんだが・・・スマン。
今日はアル達が晩飯の用意をしてるはずだが、足りないようなら俺が作って保管してるベーコンやらウィンナーなど燻製系を投入しよう。なんというか、皆が美味そうに食ってる姿って見てると結構幸せな気分になる。料理人の人達が味わってる感覚ってこういうのかもしれないな。
因みに今現在は山を登って氷をゲットしてきて氷室を作り、そこに生肉やら傷みやすそうな食材を保管している。それ以外の食材は基本傷みにくい世界なので大変有難い。今日探索で採掘した冷蔵石があれば、態々氷を取りに行かずとも冷蔵庫っぽいのを常備する事が出来るようになる。快適な空間へと更に一歩前進である。素晴らしい。
それにしても晩飯を用意しているであろうアル達の姿が見えない。基本外で調理しているはずなのだが・・・もしやカシアの具合がよろしくないのだろうか。
そんな不安を感じつつ我が家に入ると、俺達の眼前には巨大なテーブルに隙間など殆どないくらいに配置された肉肉所により魚、稀に申し訳程度の野菜料理だった。
「・・・は?なんだこれ!?」
状況に頭が付いていかず、しばし宴会場と化している我が家内を見つめていたが奥の方で何やら慌ただしい気配を感じたのでそちらへと行ってみる事に。
ミズキがフラフラとテーブルに吸い寄せられていたが、許せ・・・もうしばしの辛抱だ。俺はミズキの手を取って半ば引きずる形で一緒に奥へと進む。
「あぁっ!ご飯~私のご飯~!」
ミズキの悲痛な叫びが耳朶を打つが、俺は心を鬼にして目的地へと進む。そして辿り着いたそこは、傷みやすい食材を保管している氷室だった。
氷室前で何故か調理しているアルが慌ただしく出来上がった料理を皿に盛り付け、出来上がった料理をカシアとマグルが受け取ってこちらへ振り向くと、
「あ、あるじ!お帰り!」
「お帰りなさい」
2人は元気よく俺に挨拶するとそのまま小走りで横を通り過ぎる。出来た料理を先ほどの宴会場へと置きに行ったのだろう・・・いや、もう置けそうなスペース無かったぞ?大丈夫か?というか、カシアはもう動き回っても大丈夫なんか?まぁ、あの様子からして平気なんだろうが・・・カシアの回復力が凄まじいのか飲ませたポーションが驚異的なのかどっちだろうな。
てゆーか、何事?俺は事情を聞こうとアルの方へ近づく。既にアルは次の料理へと取り掛かっている。その動きは少し前まで料理の事を全く知らなかった人物とは思えない程だ。あれ?今アルが手に取った食材、俺が加工処理したウィンナーじゃね?
そもそも何でこんな所で料理してんだ?そう思って改めて氷室の方に目を向けた時、その光景が視界に入って来た。
それは、氷室へと入る為の重厚な作りをしていた扉が何故か吹き飛び、中の氷室が無茶苦茶になっている現場。それを見た俺は、一瞬何が起こっているのか分からなかった。時間が経過するごとにこの目に映っている情報が事実であると訴えかけてくる。
次の料理が出来上がったのかソレを皿に移し替えたアルが、ようやく俺がそこに居るという事に気づく。ギョっとしたのも束の間、アルが今起こっているこの状況を説明しようと俺に話しかけようとしたその時、
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁっ!!」
ちょっと受け入れがたいその光景を否定したくて俺は思わずそう叫んでしまった。
「うわっちょっ!キョウ落ち着いて!」
アルがそう言ってくるが、言ってくるが・・・これが落ち着いていられるかぁぁぁぁっ!なんで!?なにがどうしてこうなった!?つーか、俺が丹精込めて作ったベーコンやウィンナーや魚の燻製達の安否は!?
泡を食った俺が無残な姿を晒している氷室に近づく。より鮮明に中の惨状を直視してしまい、また一瞬意識が遠のきそうになる。するとその現場の中で蠢く存在を2つ発見する。
「貴様らかぁぁぁっ!俺の・・・俺の大事な氷室を、燻製達を・・・こんな無残な姿にしやがったのはっ!」
俺がそう吠えて突っ込もうとした所でアルに後ろから組みつかれる。
「ストップ!キョウすと~っぷ!あんた達もいつまで黙ってるの!手に負えなくなる前に早く動け~!」
アルが奥に向かってそう叫ぶと、ビクッっと反応した2つの影が焦ったようにこちらへとやってくる。
奥から現れたのは・・・仮面を付けた知らない女の子と1体のゴーレム?だった。俺らの前までやってくると
「ごめんよっ!」「ごめんなさい!」
と同時に謝って来た。辺り一帯から聞こえて来る精霊さん達の笑い声がそれはもう神経を逆なでしてくるが、今謝って来た1人と1体の声に聞き覚えがあった。
怒りやら悲しみやらが綯交ぜになった表情から驚きと戸惑いの様な表情へシフトしていくにつれ、カッカしていた頭も徐々に冷えてくる。
俺は後ろから組みついて必死に止めようとしてくれてるアルに、もう大丈夫だと声を掛け放してもらう。その場で座り込んで膝を抱えたくなる衝動を抑えながら、
「何があったか聞こうか。ツバキ、シリカ」
とりあえず、限界を超えそうだったミズキに出来立ての料理を食わせ、お皿を置いて戻って来たカシアとマグルらと共に晩飯を食って来なさいと促し、2人と手を繋ぎながら宴会場と化してしまった広場へ赴くミズキを見届けた後、瓦礫へと変わり果てた氷室の扉を撤去し氷室内部に残された食材を処理していく。
食える物は俺とアルで手早く調理して皿に移し、一定以上の料理が出来たらミズキ達に念話で声を掛け料理を持って行かせる。ツバキとシリカはダメになってしまった食材と内部に散らばった瓦礫の破片などを片付けさせ、最後に半分以上は融けてしまった氷類を処分して終わり。後は乾燥待ちだ。
その作業の合間、大まかではあるが2人から事のあらましは聞いた。彼女たちの体が出来上がった事、アル達が帰ってきて落ち着いたタイミングを見て、試運転がてら動作テストを行った事、その動作テストの過程で氷室の扉を吹っ飛ばしてしまった事・・・。
作業が一段落し、作り終えた最後の料理をミズキ達の元へと運びつつ合流し、俺やアルも大量に作った様々な料理に手を伸ばした。
腹が落ち着いた所で、広場の片隅で正座している1人と1体を改めて眺める。片方は仮面を付けた小柄な女の子で髪は若干緑がかった銀髪、その髪は腰の半ばまで伸びている。ツバキ曰く生前というか体がまだ在った時の自分を再現してみたそうだ。ただ、表情を再現する事は出来なかったそうでやむ終えず仮面で誤魔化しているそうな。ゆくゆくは人と同じように笑ったり怒ったり出来るようにしてみせると力説してた。
もう片方はシリカなんだが・・・うん、どうしてソレをチョイスしたのか理解に苦しむ。見た目はもうスー〇ーロ〇ットというか〇ーマード〇〇ュールというかM〇というか・・・とっても見覚えのあるフォルムをしているんだが、至る所にシリカのオリジナルが含まれていてギリセーフなような・・・やっぱアウトなような。大きさは大体2m程。そうだなぁ・・・一言でコレを表現するのなら、あれだ。ラスボスだわ。うん。
シリカに理由を尋ねてみたら「お父様の世界にあるロボットという存在に凄く親近感が湧いたの。頂いた情報を精査して理想のロボットを思い描いた結果、こうなったわ」だそうな。
通りで〇〇ン〇ンやらディ〇〇ク〇〇やらA〇G〇の面影を感じるわけだ。勝てる気がしない。
俺の視線が気になったのか、正座を止めて2人がこちらへとやってくる。
「ごめんよキョウ、注意は払っていたんだけど考えが甘かったよ」
「お父様、本当に申し訳ありません」
二人が心底申し訳なさそうに頭を下げてくる。今日だけで程度の差はあれ、2度も感情を抑えられなくなるとか・・・まだまだ俺も未熟と言わざる負えないな。
「いや、こちらこそ感情に任せて暴発しそうになった、ごめん。なに、燻製や干物類はまた作ればいいだけの事だし、今日の探索で氷室に代わる冷蔵庫作成の目途もついた。遅かれ早かれ氷室内は整理する事になったから気にしないでくれ。正座もしてた事だしこれで手打ちとしよう・・・さて、お互い気持ちの整理も付いた事だしこれからの事を話そうか」
俺は穏やかな表情で2人に伝える。それで安心したのか何処となくぎこちなかった雰囲気も元に戻ってくる。お互い気まずい状態が続くのは嫌だしな。
食事を終えたらしいミズキ達もこちらへとやってくる。驚いた事にテーブル上にあった大量の料理は既に無く、ミズキの満ち足りた表情が全てを物語っていた。カシアはそんなミズキの事を何でか尊敬のまなざしで見つめており、一方のマグルは驚きと呆れが混ざったような顔だ。ミズキに驚きカシアに対して呆れているに違いない。アルはザックリと空になったお皿類をテーブル上に纏め終え、
「どこにあの量がミズキに収まっているのか、不思議だねぇ」
そう苦笑いを浮かべながらこちらへとやって来た。そんなミズキのお腹はポッコリしておらず、普段通りの体型のままである。ちょっと恥ずかしそうにしているミズキが可愛らしい。
丁度皆が集まった事だし、今日起こった出来事を互いに報告しあう事にしよう。そう思い、まずは俺から話を始めるのだった。
 




