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第35話:やっと帰れそうです。

 あっという間の出来事だった。一瞬前までは気が狂いそうな程頭に血が上っていたはずなのに、ミズキが自重するのを止め、殺意を会議室に収まりきらないくらい放射している姿を見て瞬時に頭が冷却されてしまった。

 他の人が怒っている所を見ると返って冷静になる事があると聞いた事があるが、まさに今がソレだった。壁に刺さった連中、死んでないといいが・・・。


 冷静になった所で辺りを見回し状況の把握を始める。まあなんというか、皆ミズキを驚きの表情で見つめている。今起きている出来事に着いていけてない感じだ。いや・・・一人、ミズキではなく俺を注視してる人物がいた。仮面の女の子だけが、俺の方を警戒するかのようにこちらを見ている。


 ・・・もしかして、ほんの一瞬だけ俺の自重無しで殺意マシマシの気配が漏れたのかも。


 少し前、こっちの世界に来てから感情が抑えきれず、みっともなく相手に怒りをぶつけた事がある。その相手だったミズキ曰く『自分はこれから死ぬんだ』って感じたそうだ。意志の弱い人や気の弱そうな獣に向かってその時の気配を放ったら、それだけで相手は死ぬかも・・・とも言われたっけ。

 幼い時、両親にも『キョウの気配ってかなりワイルドだから、ちゃんとコントロールできるようになるまで家から出ちゃいけません!』って言われて、一月近く徹底して叩き込まれたっけ。うぐぅ。


 今回は怒りを通り越して全力全開ともいえる殺意を放とうとしていた。もしこれが見境なく放射されていたらどうなっていたのだろうか・・・自分の事とは言え恐怖を感じざる負えない。一歩間違っていれば、今この瞬間、周りにいる全員が死んでいたかもしれないのだ。


 にしても、漏れたとはいっても本当に極わずか・・・のはずだ。ミズキが放った気配に上書きされて判らなくなるくらいに。現に気づいたっぽいのは仮面の女の子だけ・・・よし、決めた!すっとぼけよう。知らぬ存ぜぬだ。


 自分の方針が決まった事で内心安堵していたら、この静寂に耐えられなくなったのかバルガスが驚愕の表情と共にミズキへと叫びだした。


「お前は・・・お前は一体何なのだ!?この気配・・・いや、そんな馬鹿な事がありえるのか・・・くっレオナよ!儂を守れ!」


 バルガスが唾を飛ばしながら仮面の女の子、レオナに命令を下す。それを待っていたかのタイミングでミズキがバルガスに向かって踏み込む。いやはや、止める間もなかったよ。もはやそんな気は微塵も無かったけど。


 踏み込んだと同時にバルガスの首を狙ったミズキのハイキックが繰り出される。それをレオナはバルガスの前に立ち塞がり片手一本で防いだ。火薬の炸裂音に似た音が聞こえると共に防いだ時の衝撃でも届いたのか、バルガスの顔が引きつる。


 防がれたハイキックをすかさず床へと降ろし、レオナへ詰め寄る踏み込みに変える。その動きに連動する形でミズキは両手でレオナの頭を掴むと顔面に向けて膝蹴りを放った。

 防がれる前提でハイキックを放っていたのか、その動きはとても滑らかだ。レオナは咄嗟に両掌で膝蹴りを防いだが、勢いを殺しきれず両掌ごと顔面を打ち抜かれる。仮面が砕けると同時に顔が跳ね上がり、その表情は驚愕に彩られていた。

 そしてミズキは止めとばかりに、膝蹴りを放った足を更なる踏み込みに変え、レオナの無防備となった体の中心に肘鉄を見舞った。


「・・・っ!?」

「ぐぁぁっ!」


 レオナが声にならぬ悲鳴を上げ、その後ろに居たバルガス諸共吹っ飛ぶ。そのままバルガス達は壁へと叩きつけられ、壁に寄り掛かる形で座り込んだ。


「貴方程度、武器を使う必要もない」


 そう決め台詞的な事を言ったミズキは、殺意を引っ込め元の気配を消してる状態へと戻った。その表情は何処となくスッキリしている。事の顛末を見届けた俺は深い溜息を付きつつミズキに、


「死んでない・・・よね?」

「ゴメン我慢出来なかった。でも、後悔はしてない」


 ・・・あ、これアカン奴かも。レオナって子はともかく、他の連中は冗談抜きで逝ってるかもしれん!俺は自分の小太刀を拾い上げると同時にエリスさんに詰め寄り、


「スイマセン、エリスさん!至急、6人分のポーションを!」


 俺は慌ててエリスさんにそう伝える。するとエリスさんは、


「キキョウ様、落ち着いてください。倒れている方々全員生きておいでです。そのうち目を覚まして自力で治療するでしょうから大丈夫です」


 そうか、大丈夫なのか?ミズキが自重してなかったから正直もうダメだと思ったが・・・予想以上に頑丈な連中のようだ。全く、冷や冷やさせやがる。これで会議室で損壊した壁やら器物類やらの弁償はコイツ等に丸投げ出来る。


 俺が心底安堵しているのを他所に当のミズキは、ここでの用は済んだとばかりにバックパックへ黒いモンスターの亡骸をしまっていた。しまい終わったミズキは、


「キョウ、そろそろ帰ろう?お腹すいた」

「・・・おう」


 俺はミズキから受け取ったバックパックをエリスさんへと預け、会議室の修繕はバルガス一味に請求して欲しい旨を伝えた。


「お任せください。キッチリと取り立てますので」


 サムズアップで答えてくれるエリスさんの何と頼もしい事か。


 済ませるべき事を終えた俺達は会議室を後にしようとしたのだが、


「ちょ、ちょっと待て!キョウ、今のは一体どういう事だ?」


 ぬぅ、再起動を果たしてしまったガルドさんに呼び止められてしまった。それを皮切りに、


「そこの嬢ちゃん、尋常じゃない気配を放っていたぞ・・・なにもんだ?」

「あの子をあっという間に倒すなんて・・・信じられない」


 ロイさんとシエルさんも我に返ってしまう。やだー目立ちたくない!新入りらしく、採取とか採掘とかしたいのに!遺跡内なら俺に任せろ~って言えちゃうくらい隅々まで探索したいのに!

 いや待て落ち着け俺。目立っているのはミズキだ。俺じゃあない。ミズキが凄い存在なのは確かだが、ここはまだ謎の多いちょっと強い新人って事で押し通せないかな?


 俺がどう説明したもんかと考えを巡らせながらガルドさん達に振り向いていると、


「そんなに驚く事かな?キョウならやろうと思えば、もっと早くやれたよね」


 なんて、ミズキさんが俺に同意を求めるように聞いて来る。ん?何か私変な事言った?っていう動作付きで。


 瞬間、その場に居た全員が俺をガン見してくる。あうち。口裏合わせとかしときゃよかった!こうなりゃ・・・


「ははは、ソンナコトナイデスヨー」


 ちくしょ~!努めて自然に返そうとしたが棒読みな感じになっちゃったヨ!無念だ・・・。


 一瞬変な静寂が訪れたが、敢えてそれを無視したガルドさんが、


「色々と聞きたい事が出来たが、とりあえずはここを出るぞお前ら。バルガス達が目を覚ましたら面倒だ」

「あ、あぁ、わかったぜ」

「えぇ・・・」


 俺達はエリスさんに軽く挨拶をして、会議室を後にした。


「またのご利用をお待ちしております」





 バンクを出た俺達はすぐさま移動し、人目の付きにくい場所を探す。俺はこの人達の事をまだよく知らないが、それでも有名な人達である事ぐらいは察しが付く。

 ガルドさんのクランメンバーの方々は、あの場を率いていたリーダーさんの事が気になるのか別行動となった。

 落ち着いて話せそうな場所を見つけた俺達は、早速先ほどの続きを始めた。


「で?キョウ、どういう事か説明してくれるか」


 ガルドさんがそう切り出してくる。俺は凄く話したく無さそうな雰囲気を出しつつ、


「ちょっと他の新人さんより強い新人という事で納得は」


 とそこまで言った段階で、


「出来んな」

「無理だな」

「するわけないでしょ」


 即座に返された。そうですか・・・ダメですか。だがしかし、こちらも引き下がるわけには行かない!


「目立ちたくないんですよ。出来る事なら、他の新人に紛れて慎ましく探索を続けたいんです」


俺の何処か必死っぽく見える訴えにお三方はちょっと理解出来んという顔になり


「そもそもなぜキョウは目立ちたくないんだ?ここは実力を見せつけて力の差をハッキリさせれば、余計な干渉は受けなくなると俺は思うんだが」


 ガルドさんからの疑問に対し


「確かにそれで大人しくなる連中もいるでしょうが、力を誇示すればソレを利用しようとする輩が必ず現れます。取り入ろうとする者、自陣に取り込み勢力を拡大しようとする者、中立を装い厄介事を押し付けてくる者等々です。逆に大きすぎる力を恐れ、排除しようとする輩も現れます。力を妬み陥れ、あわよくば奪おうとする者、自身の立場や地位を守る為に暗殺しようとする者、悪評を広めて周囲から孤立させ縄張りから締め出そうとする者等々・・・僕はそんな厄介事に関わりたくないんです。一定の立場であるガルドさん達なら身に覚えがあると思いますがどうですか?」


 俺はそう答え、3人の顔を見回す。即座に反論が出てこない辺り、身に覚えがあるに違いない。


「・・・でも、力持つ者であるのなら、力無き者らを守り導かねばならないのではないの?」


 度々出てくる力ある者の責務って奴ですかね。今関係あるそれ?でも折角なのでシエルさんからの質問に対し


「あくまでも僕個人の答えですが、感情優先・・・ですかね。極論ですけど、僕のクランメンバー1人と見知らぬ10人、どちらかしか助けられないとなったら僕は迷わずクランメンバーを選びます・・・例え見知らぬ側に生まれたての赤ん坊が含まれていてもです」


 俺は赤の他人よりも見知っている知人友人の方が遥かに大事だ。俺のそんな答えが気に食わなかったのか


「上に立つ以上少数の知人よりも、多数の他人を救うべきよ!」

「言ったはずです。感情優先だと。どうすべきかよりもどうしたいか・・・です。目立ちたくないって言ったのは、下手に期待されて過度な責任を背負わされたくないっていうのもあるんです」


 俺のそんな返しを聞いてシエルさんは俯いてしまう。きっとシエルさんはそういう重圧を受けているのだろう。けどごめん、そっちのクラン事情よりもまずは俺らに降りかかって来そうな厄介事への対処が最優先事項なんですわ。


「この際、お前らがナニモンなのかは置いとくとして、バルガス達をぶっ飛ばしちまったのはどうするつもりだ?」


 ロイさんから来た質問に関して、俺は一番問題視していない。というのも、


「アレに関して向こうは何も言ってこれないでしょう。下手に騒ぎ立てても自分らの醜聞しか露呈しないでしょうし、今頃は向こう側の最高戦力っぽいあのレオナっていう女の子が負けたっていう事実が外に漏れないよう躍起になってるんじゃないでしょうか?あのバルガスって人が演説してた内容が何処まで遺跡都市内の人達に浸透してるのか知りませんけど、あの様子じゃ外面はひたすらに良い人ぶってて、裏ではとても人に言えないような事を臆面もなくやってるんじゃないんですか?」


 俺が並べ立てた内容に、まさにその通りって感じの表情になってるロイさん。


「ああいう人が真っ先に気にするのは周りの目でしょうから、自分に注目が集まってしまうであろうあの状況で迂闊な事は出来ないし言えないですよ。当分は大人しくしてるはずです」


 俺がそう締めくくる。よって、今俺がどうにかしなきゃいけないのは黒いモンスターの件、


「なので、皆さんがあの場で起きた出来事に関して口を噤んでもらえれば大事にはならないかと。後はゲート付近まで来たイレギュラーについては、どうしても聞かれるようなら最近噂になってる外から来た連中が討伐したと言っていただければ。多少は注目を浴びてしまうでしょうが、こればかりは仕方ないです。人の生死がかかっていたので」


 俺の外から来た連中って言葉で多少は納得してくれたのかガルドさんは、


「分かった。どのみちこっちは助けてもらった側だ。嫌とは言えんか。いつかお前さんの方から話してくれる事を待つとしよう」


 そう言って割り切ってくれるようだ。正直ありがたいです。


「・・・チッ、仕方ないか。気にはなるが無理に聞き出すのもアレだ」


 ロイさんも不承不承ながらも話を合わせてくれそうだ。ふぅ、やれやれ。


「今回だけですよ?次があれば必ず聞かせてもらいます」


 シエルさんありがとー。余裕ができたら今度、そちらの抱えてそうな問題の相談に乗りますよ!


「キョウ、話終わった?」


 話が一通り終わった所でミズキが話しかけてくる。腹を空かせている所、待たせてしまって申し訳ない。


「でわ、俺達はこれで」


「あぁ。キョウ、気は抜くなよ?さっきはあぁ言ってたが、絶対は無いからな」


 ガルドさんがそう忠告してくれる。バルガス一味の事だろう。分かっていますとも。


「はい。ありがとうございます」


「じゃあな、キョウ。今度他のメンバーでも紹介するわ」

「道中お気をつけて」


 ロイさんとシエルさんとも別れの挨拶を済ます。そうだな、今度はこちらのメンバーも紹介するとしよう。

 こうして俺達は我が家へと帰宅するべく、遺跡都市の外へと足を向けるのだった。

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