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第31話:決着が着きました。

 カシアの放った拳が黒いモンスターの頭部と胴体の付け根とでも言える部位へと吸い込まれる。瞬間、サンドバックを打ち抜いた時のような腹に響く音と共にモンスターが吹き飛ぶ。

 戦いに巻き込まれ辺りに散乱していた樹木類を吹き飛ばし、荒れた地面の上を何度も擦り跳ね、一際大きい巨木に叩きつけられる形でようやく停止する。

 その光景を見届けたカシアは、糸が切れた人形の如く倒れてしまった。その倒れる音を耳にし、俺達は慌てて動き出した。


「姉さん!」


 マグルがカシアの元へと一目散に駆け寄る。それに少し遅れてアルとミズキもカシアの元へ向かったので、俺は殴り飛ばされピクリとも動かない黒いモンスターの元へと行く事にした。

 ミズキも黒いモンスターの事が気になったのか、2人にカシアの事を任せる形でこちらへと来る。


 俺が黒いモンスターへと近づくと耳がこちらへと動くのが見えた。浅いながら呼吸をしているのも確認できた。だが、殴られた箇所の骨が折れたのだろう・・・口は開け放たれ苦しそうだ。

 そんな状況であるにも関わらず、黒いモンスターは目だけでこちらを睨みつけ威嚇してくる。俺はこのモンスターに対し少なくない敬意を抱いた。同じ状況になった時、俺は死にたくない一心できっと無様な姿を晒すだろう。

 もはや動く事は適わないが、いささかも衰えないその戦意には感服せざる負えない。俺は一定以上近づかず確認するようにそのモンスターへと語り掛けた。


「お前を倒した者は残念ながら動けそうもない。そんな状態だ、もう助かりはしないだろう。俺はカシアに代わってお前に止めを刺してやりたいと思っている。これ以上苦しませたくないからだ。どうする?」


 言葉が通じているかは分からない。だが、これが俺の本心だ。俺がそう語り掛けると黒いモンスターの戦意が薄れていき、やがて目を瞑った。俺にはこの黒いモンスターが「頼む」と言っているように感じた。

 故に俺は鞘に納めている小太刀の柄に手を添え、構えを取る。せめて今放てる最高の技で送ろう。心を静め、殺気ではなく敬意を込めて俺は居合を放った。


 鞘に小太刀を納める。後ろで息をのむ気配が伝わってきた。俺は黒いモンスターに黙祷を捧げた後、驚いているミズキへと振り返る。するとミズキから、


「キョウ、今何をしたの?」


 と、驚きを多分に含んだ声で俺に聞いて来る。ちょっと声が震えてるぞ?


「何って・・・居合だけど」


 俺は事実をありのままに伝える。ミズキも俺から向こうの世界の情報を得ているんだから知っているだろうに。


「居合?今のが?」


 何かついさっきもそんな感じで驚かれたな。アル辺りに。


「マナを運用して居合を放っただけだぞ。因みにこの居合には"無明"って名前が付いているんだが・・・そんな事を聞きたいわけじゃなさそうだな」


 あれか?ミズキからも俺は人外認定される流れですか。アルにも言ったんだがミズキにも敢えて言ってみよう。


「・・・ミズキもマナを運用すれば出来るようになると思うぞ?」


 俺がミズキにそう言うと、途端に難しそうな顔をして、


「出来ない・・・かな。そんな繊細なマナのコントロール・・・私には出来ない」


 ミズキは俺の居合によって首と胴体が断ち切られた黒いモンスターを眺める。その死に顔は苦痛から解放され、穏やかなものとなっている。その有様を眺めながら、


「切り落とすだけなら私にもできる。でも・・・刃に血を付着させず、尚且つ切り口は確かに存在してるのに首と胴が離れず血も噴き出ないなんて・・・」


 ミズキがそう言ったのを聞き届けるやいなや、黒いモンスターの首と胴が切断されたという事実に今気づいたとばかりにズレ、離れる。ビッグホーンラビットの時と同じように血の噴水が噴きあがる。


 ミズキから畏敬の念が籠った視線を受ける。なるほど、ミズキはそっちかー。俺はそんな御大層な奴じゃないと思うんだがな。俺は苦笑いをしつつ、


「アルにも言ったんだが、日ごろの鍛錬を怠らず練習を積み重ねれば出来るようになるぞ」


 それを聞いたミズキは、


「どんなに手を伸ばしても届かない高みが近くに在るというのは、幸せな事なのかな?それとも・・・」


 そんな大げさな。よし、ならば俺の身近にいた本当の天才という奴を教えてやろう。


「いいかね?本当に凄い奴ってのは、マナの補助を受けずに今さっき放った居合を素の状態で繰り出せる奴の事を言うんだぞ。しかも、そいつは俺が今使ってるこの武器よりも数段劣るであろう得物でだ」


 俺がそう言うとミズキは信じられないような表情で俺に聞いて来る。


「キョウ以上の存在がこの世に存在するの?」

「俺以上の存在?そんなの掃いて捨てるほど存在してるわ」


 俺が即座にそう言ったら、ミズキが絶句してしまった。いやいやミズキさんや?ポテンシャルなら、貴女以上の存在はそうそういらっしゃいませんからね?俺以上の存在って奴にミズキさんも該当しますからね?あんたドラゴンだろうに。つーか、ポテンシャルで俺以下の存在ってこの世界に居るのか?俺は頭を軽く抑えつつ、諭す感じで


「こういうのは身体能力云々というより、経験と技術がモノを言うんだ。センスも大事だろうがそこは経験で十分補えると俺は思っている。要はどれだけ物事に打ち込めるかどうかだ。10年近く培ってきた俺の経験と技術が、武器を持って一月立つかどうかの奴にサクっと上を行かれたら俺は泣くぞ?」


 仮にこの世界の連中が俺の経験と技術を手にする事が出来たら、俺は誰一人として敵わなくなるんじゃなかろうか。身体能力に関しては言うまでもなく、マナによる気の運用まで習得された日には絶望的である。

 つまり、俺との接触によりフォースではなく気の運用が可能となったクランメンバー一同は、そう遠くない内に俺以上の強さを手に入れると俺は思っている。アルやミズキに至ってはフォースとマナの両方が扱えるのだ・・・両方を同時に運用すれば一体どうなるのか、興味は尽きないが現状は無理だそうだ。


 以前同時に使用してみた2人が言うには、フォースを使用している状態でマナによる気を纏おうとしたら、強制的にフォース側がストップしてしまうんだと。逆もしかり。

 やり方が行けないのか、何か条件があるのかサッパリ分かんないとの事です。くそぅ、俺自身がフォースを扱えれば自分で調べるってのに。


 だがしかし、こっちの世界に来てからというもの、俺という存在は下手に願ってしまうとその内容が適ってしまう恐れがある。現状、俺自身に対してはこちらの世界の人々と問題なく話せるというくらいで、体の一部が変化したり角が生えてきたりなんて事は起こっていない。フォースは扱えるようになりたいが、人間辞めてまで使いたいかと言われると否である。


 俺が勝手に一喜一憂していると、ミズキはミズキで俺からの説明で納得できたのか


「そうなんだ・・・なら、私もいつかはキョウみたいに成れるかな?」


 そんな事を聞いて来る。俺は、


「俺のどの箇所を指しての事か今一わからんが、さっき放った居合が放てるレベルに至れるかどうかって事なら、ミズキは十分素質があると思うぞ?」


 俺から知識を得ているとはいえ、1月立つかそこらで刀を最低限扱えるようになったのだ。それって凄くね?普通はそれくらいでまともに振れるようになる武器じゃあない。なまじ振れるようになっても刀で対象を斬れるかどうかはまた別問題だ。力の加え方を誤れば、斬れない処か刀が折れるなり曲がるなりしてしまう。

 まぁシリカ特製の刀だからってのもあるんだろうが、力に任せて振ればいいもんじゃないのは確かだ。俺からそう評価を受けたミズキは少年の様に目を輝かせつつ、


「それって私にも居合が出来るって事?」

「日々の努力を怠らなければそう遠くない内に、形にはなるかな。そこからどう発展するかはミズキ次第だね」

「・・・楽しみ」


 頑張るじゃなくて楽しみ・・・か。だから何だろうな、身に付く速度が半端ないのは。未熟者な俺が教えてやれる事は案外少ないかもしれない。


「さて、黒いモンスターの亡骸はこのままバックパックに収納してしまおう。大丈夫だろうが、カシアの状態も気になる」

「そうだね」


 血が止まった亡骸を手早く収納し、俺達はマグルとアルが介抱しているカシアの元へと向かった。




「どんな感じ?」


 カシアの元へと辿り着いた俺は、マグルとアルにカシアの容態を聞く。


「うん、大丈夫。気を失っているだけ」


 アルがそう言うとマグルが、


「見た目に反して深刻な怪我等はないようです」


 そう言いつつ全体的に擦り傷だらけなカシアにポーションを振りかけ、包帯を巻いていく。怪我の多いカシアを何度も治療している内にすっかり手馴れてしまったマグルである。


「所々に打撲と一部の骨にヒビがあるかもしれませんが、先ほどの戦闘でこれくらいで済んだのは寧ろ幸運な方と言えるかと」


 包帯を巻き終わったマグルが補足でカシアの容態を教えてくれる。うん、マグルはもう立派お医者さんだな。完全に専門外だが、俺が教えられそうな事は頑張って教えて行こう。


 こちらの世界では例え骨が折れたりしたとしても、しっかり固定してポーションを飲んでおけば3日で完治してしまう凄い世界だ。ヒビ程度なら次の日には治っていてもおかしくない。皆の自己治癒能力が単に高いだけなのか、ポーションの性能が凄まじいのか、はたまた両方なのか・・・現状深刻な怪我を負っていない俺にはなんとも言えない。俺にもちゃんと効くのか早めに試しておかないとなぁ。


「そっちはどうだったの?」

「こっちは虫の息だった黒いモンスターに止めを刺して、収納してきた」


 俺は背中に背負っているバックパックを示してそう言う。後で関係各所に説明するのに証拠として提示しなきゃならんが、可能であればこの黒いモンスターの亡骸は持ち帰りたい所だ。


「初日からこれとか・・・先が思いやられるなぁ」


 アルが何かボヤいとる。きっとビッグホーンラビットの件が堪えたに違いない。


「まぁ探索をする以上はこういう事もあるだろうさ。ある程度慣れてくるまでは、最低でも2人1組で行動するようにしよう。何かあれば、すぐに念話で報告或いは助けを求めるようにな」


 俺はそう皆に指示を出し、カシアをお姫様だっこする。お疲れさん。後で一杯ナデナデしてあげよう。


「さぁて、今日の所はこれで引き上げるとしよう。多分この後、状況の説明をしなきゃならなくなるから帰りが遅くなると思う。皆はどうする?先に帰っておくか?」


 俺は皆にそう聞くと、


「私はカシアを早く落ち着ける場所に連れて行きたいから、先に帰るね」

「僕も姉さんが気になるので先に帰りたいです」


 アルとマグルは帰宅組っと。カシアをよろしく頼む。


「ミズキはどうする?」

「私はキョウと一緒に行く。今後どうなるのかも知っておきたい」

「了解だ。お互い何かあったら念話で連絡を取るようにしよう」


 この後の方針が決まった。まずはゲートへと向かい、出入り口付近にいるゴーレムさんに事情を説明しよう。

 

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